はじめてのおつかい(深夜コンビニ編)(前編)
「大地、余にも、ひとりで任務を与えよ!」
起き抜けの俺の耳に飛び込んできたのは、やけに気合いの入ったフィーネの声だった。
カーテンの隙間から差し込む夕方の光。時計を見れば17時過ぎ。バイトまではあと3時間。
「……任務ってなんだよ、今度はどんな供物捧げたいんだ」
「ふふん、違うぞ。今日は、余が夜の勤めを学ぶのじゃ!」
フィーネが指差したのは、コンビニの制服。
……まさか。
「おい待て、まさか今日の夜勤、ひとりでやる気じゃねえだろうな?」
「そうじゃ!」
「やっぱりかよ!」
聞けば、昨日の接客がよほど気に入ったらしい。子供に「かわいい」って言われたのが、相当うれしかったようだ。
「余、やれる気がする。いや、やりたいのじゃ。ひとりでやってこそ、真の戦士というもの!」
「戦士じゃなくてバイトなんだけどな……」
とはいえ、店長に連絡を入れると、
『面白そうだし、やらせてみていいんじゃね? 近くに俺いるし』
という、まさかの許可が出た。さすがは、ノリで生きてる自由人。
というわけで、夜――
「ふふふ……余、ひとりでこの砦を守り抜いてみせようぞ!」
言いながら、フィーネはレジ台の後ろで仁王立ちしていた。
俺は裏のバックヤードからこっそり覗き見。万が一のトラブルがないよう、監視役という名目で店長と交代して控えていた。
その矢先、ひとりのおじさん客が来店。フィーネ、張り切って迎える。
「いらっしゃいませじゃ!」
「……へ?」
ぎこちない日本語に一瞬戸惑うおじさん。でもまあ、相手が美少女なので笑って済ませた。
問題は、次だった。
「この呪符、持っておられるか?」
「……え?」
フィーネが提示したのは、ポイントカード。
「これは、魔力を蓄える印なのじゃろう? 皆が持っておるという、契約の証」
違う、そうじゃない。
おじさん、苦笑しながら「持ってないです」と返答。
フィーネ、少し残念そうに頷く。
「ならば、そなたに魔力は加算されぬ……すまぬな」
「……は、はあ」
おじさん困惑。俺、後ろで爆笑寸前。
さらに、揚げ物を買った客にはこう言った。
「おぬし、戦う気じゃな? よき剣を選んだ」
「チキンなんですけど……」
そして事件は起こった。
「むっ、揚げ物機が、火の気配を放っておる……これはもしや、暴走炉!?」
「やめろおおおおおおおおおおおお!!!」
裏から飛び出す俺。
ちょうど水の入ったペットボトルを持って、フィーネが機械に向けて詠唱を始めていたところだった。
「氷の結界、いまここに――」
「やめろっつってんだろ!!!」
深夜のコンビニに、俺の絶叫が響き渡った。