表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

帰還の儀式とキス

大地とフィーネの間に芽生えた絆は、ますます深くなっていた。しかし、その絆が深まるほど、フィーネがエルフ界に帰る日が近づいているという事実は、大地にとって痛みを伴うものとなった。


ある日の夜、大地はバイトを終えた後、いつものようにフィーネと一緒にコンビニで晩ごはんを食べていた。だが、最近の彼女は少し元気がなかった。顔に浮かべた笑顔が、どこか無理をしているように見える。


「フィーネ、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。ちょっと考え事をしていただけよ」


「考え事?」


「うん、エルフ界に帰るための儀式が、もうすぐ行われることになったの」


大地はそれを聞いて、心の中でどこかが重くなるのを感じた。フィーネが帰らなくてはならないという現実が、再び自分の中に強く立ち上がってきた。


「……それって、どんな儀式なんだ?」


フィーネは少し黙ってから答えた。


「エルフ界では、強い感情で結びついた者同士が別れるとき、その絆を断ち切る儀式があるの。私たちも、その儀式を受けなければならない」


大地は驚きながらも、どこかでそれを予感していた。フィーネが本当にエルフ界に帰るためには、その儀式が避けられないのだろう。


「そんなの、嫌だ」


大地は感情が抑えきれなくなって、フィーネの手を強く握り締めた。


「僕は君が帰るなんて思いたくない。でも、それが君にとって必要なら、受け入れなきゃいけないんだよな」


フィーネはしばらく黙っていたが、やがて静かに顔を上げた。


「大地、私も……帰りたくない。でも、人間界では魔力がどんどん薄れていくし、私ももう長くはここにいられない」


大地は深く息をつき、目を閉じた。彼女の言葉が、現実として突きつけられるたびに心が痛む。


「それでも、君が選んだ道を、僕は支えたい」


その言葉を聞いて、フィーネは少しだけ驚いたような顔をした。そして、少し照れくさそうに微笑んだ。


「大地、ありがとう。あなたの気持ち、私にとってはとても大切」


その瞬間、店内に入ってきた客の音が、二人の間に静けさをもたらした。フィーネは、少しだけ躊躇いながらも、大地を見つめて言った。


「大地、私、もう一度だけお願いがある」


「お願い?」


「帰る前に、私にキスをしてほしいの」


その言葉に、大地はしばらく言葉を失った。キス、それはおそらく最後になるかもしれない、そう思ったからだ。


「それは、どうして?」


「私、エルフ界に帰ったら、もう二度とあなたに会えないかもしれない。それに、私たちの絆を確かめたかったんだ」


大地はゆっくりとフィーネの顔を見つめ、その目に浮かんでいる涙を見た。彼女は、少しだけ震えていた。


「フィーネ……」


大地はそのままフィーネに近づき、優しく彼女の手を取った。心の中で、これが最後のチャンスかもしれないと感じながら。


「君が望むなら、僕は喜んで」


そして、二人の距離が縮まり、フィーネの唇にそっと触れる。


その瞬間、フィーネは目を閉じ、深く息を吸った。大地もそのまま、彼女の温かさを感じながらキスをした。


キスを終えた後、二人はしばらく何も言わなかった。お互いの顔を見つめ合いながら、言葉にできない想いを共有していた。


「これで、私たちの絆はどんなに遠くにいても、続いていくんだね」


フィーネがそう言って、少し涙ぐんだ。


「そうだな。だから、どんなに遠くても忘れない」


大地の言葉に、フィーネは再び微笑んだ。その笑顔が、これからの時間を少しでも軽くしてくれることを、彼は感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ