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はじめての喧嘩

大地とフィーネの関係は、少しずつ、でも確実に近づいていた。けれど、幸せな日々の裏には、解決しなければならない問題が潜んでいる。それは、フィーネのエルフ界への帰還という現実だった。


ある日、フィーネは再びその問題に直面した。エルフ界の監視者であるミィルから、「帰還命令」が下されたという連絡が届いたのだ。


――フィーネ、君はエルフ界へ帰るべきだ――


その知らせを聞いたフィーネは、驚くと同時に、深い悲しみを感じていた。大地との時間がどれほど大切だったか、心から理解していたからこそ、彼女はその知らせを受け入れることができなかった。




夜、コンビニでの仕事を終えた大地とフィーネは、いつものように帰路を共にしていた。しかし、フィーネはどこか元気がない。いつもの陽気な笑顔も、どこか影を落としている。


「フィーネ、どうした? なんだか元気ないな」


大地が尋ねると、フィーネはわずかにため息をついた。


「大地、余は……どうしたらいいんだろうか」


「どうしたら、って?」


「エルフ界に帰るべきだという命令が、再び届いた。余は、もうすぐ帰らなければならないかもしれない」


その言葉に、大地は一瞬、息を呑んだ。フィーネが帰る? それは、つまり――


「でも、それって……」


「余は、本当は帰りたくない。でも、大地のことを考えると、どうしても迷ってしまう」


フィーネの声は、どこか痛々しく響いていた。


大地は立ち止まり、フィーネの方を向く。彼女の目には、涙が浮かんでいるのが見えた。心の中で、何かが重くなり始めた。


「フィーネ、俺だって君と一緒にいたい。でも、君の事情もわかってる」


「でも、大地。余が帰ることになったら、君はどうする? もし、余がいなくなったら、君は一人でどうするんだ?」


フィーネの言葉が胸に突き刺さる。確かに、もし彼女がエルフ界に帰ったら、僕は一人になる。けれど、それ以上に彼女を失うことが怖くて仕方なかった。


「それが……わからないんだ」


大地は苦しそうに答える。


「でも、君が帰る理由があるのはわかってる。ただ、どうしてもその未来が怖くて、受け入れたくないんだ」


その言葉が、フィーネにとっては痛かったのだろう。彼女はふっと顔を背け、目を閉じた。


「余もわかっている。でも……どうしても、大地と一緒にいたい」


その瞬間、大地は胸の中で何かが爆発した。フィーネが本気で自分を思ってくれていることが、胸に強く響く。


「でも、フィーネ!」


大地は一歩、彼女に近づいた。


「君が帰ることを拒否したら、どうなるか分かってるんだろう?」


その言葉に、フィーネの顔が険しくなった。


「余が帰らなければ、エルフ界がどうなってしまうか、余もわかっている。でも、だからと言って、大地を失いたくはない!」


そして、彼女はそのまま勢いよく大地に向かって言った。


「大地、君が好きだ! こんな気持ちを持っていることが、こんなにも辛いなんて思わなかった!」


その言葉に、大地の胸が締め付けられる。しかし、彼女の涙を見て、彼は何も言えなくなった。


「だから、お願いだ、大地! 余を引き止めてくれ!」


その瞬間、大地の中で何かが崩れ落ちた。フィーネの想いが、胸に突き刺さってくる。それでも、現実は厳しい。それが現実だと、頭ではわかっているのに、心が追いつかない。


「フィーネ……俺も、君が好きだよ。でも、君が帰らなきゃならないことは、俺にもわかってるんだ」


大地は、フィーネの手を強く握った。


その時、フィーネは涙をこぼしながら、大地の手を握り返した。


「大地……どうして、こんなにも辛いんだろう……」


その言葉を最後に、フィーネはふっと顔を背けて、黙り込んだ。大地も何も言えず、ただ彼女の手を握りしめることしかできなかった。


――


次の日、フィーネは自分の部屋に閉じこもったままだった。大地は、何度も扉をノックして声をかけたが、返事はない。


その夜、大地はもう一度、フィーネに会いに行く決意を固めた。


「フィーネ、頼む、開けてくれ」


扉を叩きながら、大地は必死に言った。しかし、そこから聞こえてきたのは、かすかなすすり泣きだった。


「大地……」


その声を聞いた大地は、思わず扉を開けて彼女の元へ駆け寄った。


フィーネは涙を流しながら、彼を見上げた。その目には、決して言えないような思いが込められている。


「大地、余は……やっぱり、ここにいたい」


その言葉に、大地はもう一度、フィーネの手を握り返した。


「フィーネ、俺も……君と一緒にいたい。でも、それがどんなに難しいことでも、俺たち二人で考えよう」


その瞬間、ふたりの間に、静かな決意が流れた。


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