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異世界の智将  作者: トッティー
第三部 怒涛編
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第7章第8話 決着(3)

「終わったか」


 ジルが安堵の表情で言葉を漏らした。

 戦場にはもうフリーダ皇国軍はいない。カタパルト王国軍の厳しい追撃に苦しみながら北へと逃げていることだろう。戦場に残ったジルを守る五千人程の軍勢も、緩やかな速度で北上している。その中核である近衛隊に囲まれた形で、俺達は歩いている。

 戦闘に参加せず、今に至るまでずっと騎乗か着席していた俺に肉体的な疲労はない。ただ、精神的には物凄い消耗感があった。


 それでも、会戦中終始痛みの止まらなかった胃がようやく快方に向かい、俺は幾ばくかの余裕を取り戻していた。久々に口を開き、ジルに所見を伝える。


「でも、まだ安心はできない」


 不安要素は、南方で蠢いているシャルロワ大公や僭王マクシムの軍勢だけではない。むしろ最大の憂慮すべき事項が、フリーダ皇国軍の脅威だった。

 会戦の大勝利によって大きな被害を与え、多くの傭兵を逃亡させた。それは事実だが、フリーダ皇国軍が全滅した訳ではない。また、エリエー将軍率いる別働隊の存在もあった。皇王直下の親衛隊を中核に再編すれば、二万ほどにはなるだろう。

 それに、フリーダ皇国軍はカタパルト北部に深く侵入してきていた。つまり、取り戻すべき領土がかなり大きい。


「まずは、ビッテンフィルス城を早急に落とすこと。それが第一ですな。もたもたしていては、エリエー将軍の軍勢と合流させてしまう」


 ジュネ将軍が憂慮の意を示した。俺は、我が意を得たりと言葉を畳みかけた。


「同意です。それに失敗すれば、最悪、敵はカタパルト北部で再び勢いを盛り返してしまうでしょう。兵に休息を与えるのは、ビッテンフィルス城陥落後でいいでしょう。それまでは戦うべきかと」


 現在、カタパルト王国軍の追撃部隊は敗走しているフリーダ皇国軍を北に北に追いやっているところだ。ただ、ビッテンフィルス城を落とすのにはかなりの労力を要するはず。なんせ、北のクリム城南のビスケット城に次ぐ堅城である。また、エリエー将軍の軍勢が北に進んでくるので、時間制限もある。


 ましてや、北の要塞クリム城を奪還することは不可能に近かった。


「そうだな。ビッテンフィルス城を落とすまでは休みなしでいこう」








 七日が経った。


 追撃に当たっていたエッフェル臨時騎士団長の手によってビッテンフィルス城は落城した。クリム城を目指し一路北に逃げるフリーダ皇国軍に対して、カタパルト王国軍は執拗に後を追いすがろうとしたが、流石に限界であった。追撃部隊はビッテンフィルス城で、三日前から休息している。


「やっと着いたか」


 と呟いたジルは、ため息をついて椅子に腰かけた。俺もその横の比較的しょぼい椅子に座り込んだ。


 俺達は今さっきビッテンフィルス城に到着したところだ。この城は元々保守派の貴族のものだったが、持ち主の貴族は現在逃亡している。強奪に近い形だが、俺達はこの城をしばらく占拠していた。

 これから軍議を開くことになっているので、長居することはないだろう。


 しかし二人とも疲労困憊である。特にジルは疲労にひしがれた表情をしており、君主がこんな状態なのにまともな軍議ができるのだろうか、と俺を心許なくさせる程だった。

 肉体的には前線の兵士の方が余程辛いだろうが、いかんせん悩みが絶えないのだ。三度も逆転大勝利を終えたのにも関わらず、未だに敵がカタパルトに跋扈している。シャルロワしかり、マグナ族しかり、マクシムしかり、フリーダ皇国軍しかり。

 いくら三連勝したといっても、ようやく形勢を巻き戻したのに過ぎないのだ。全ての敵をカタパルトから一掃するには、あと二回は勝利が必要だった。


 とはいえ、歴戦の猛将ジュネ将軍の存在にはかなり慰められていて、もし彼がいなかったら俺は本気で胃潰瘍になっていただろう。

 ジルの方は俺と違って政務も行わなければならないので財政赤字に苦慮しており、ジュネ将軍の頼もしさがあっても尚頭を悩ませていたが。俺はそれを見て、国王にだけはなりたくないと思った。


 とまぁ、それ位俺達は神経をすり減らしている。それでも軍議をしない訳にはいかないので、一時間程部屋で骨休めした後すぐ軍議場に向かった。


「では、軍議を行いましょう。まずは、現在の国際状況を説明いたします」


 カロン外務大臣が切り出した。


「中原の小国が集まった反皇国連合軍がフリーダ皇国東部でフリーダ皇国軍と激突し、蹴散らされました。イリュ国、シャムニ国等が内応していた模様です。フリーダ皇国軍に増援が来たのは、あまりにあっさりと反皇連が敗北したからでしょう。

 また、セリウス王国に同盟を打診しましたが、未だに決断をしかねています。国内では親カタパルト派と親フリーダ派とが論争を繰り広げているようです。

 ラクル連邦もフリーダ皇国との戦争には乗り気ではありません。にべもなく同盟を断られています」


 セリウス王国は、フリーダ皇国の北に位置する中原の大国である。そう簡単にはいってないようだった。フリーダ皇国の東に位置するラクル連邦も同じく中原の大国。味方になってくれれば楽なのだが、そううまくはいかないようで。


 カロン外務大臣の状況報告が終わり、ジルが言葉を継いだ。


「まず、フリーダ皇国軍とこれ以上戦うのか。これを決めねばならない。戦わないのだとすれば南下して反乱軍を打倒することとなるだろう。忌憚なき意見を求める」


 エッフェル騎士団長が立ち上がり、堰を斬った様にまくしたてた。


「断じてフリーダ皇国軍と戦うべきです! フリーダ皇国軍は手痛い打撃をこうむり、現在大変士気が低い状態になっているでしょう。

 逆に、もしここで戦わなければ、親衛隊とエリエー将軍が中心となって、反乱軍の様に息を吹き返してしまいます。そして、今のカタパルト王国はあの時にはない余裕があるのです。反乱軍が完全に立ち直るまでの時間です。

 ここで南に進んでもいたちごっこになるだけ。反乱軍を叩いたらフリーダ皇国軍が湧き、それを叩けば反乱軍が立ち上がる。立ち直った反乱軍を攻撃している間に、再びフリーダ皇国軍が息を吹き返す。この繰り返しになるだけなのです!

 直ちにクリム城を奪還し、フリーダ皇国軍をカタパルトの地から締め出さなければ何も始まりません!」


「然り! 同盟国を裏切った恥知らずのフリーダ皇国軍をまず叩くべきです!」


 予備隊の指揮官として活躍して株を上げたジュワンベルクが同調すると、皆口をそろえてエッフェル臨時騎士団長を支持した。武官の殆どがもろ手をあげて北進に賛同している。

 他方、軍議場に座る数少ない文官は苦々しげな表情で彼らをねめつけていた。その内の一人がとげとげしいもの言いをした。


「カタパルト王国の財政状況を分かって言っているのか? これ以上戦闘を続けるのは理にかなわない。早急に講和するべきだ」


「そうかもしれないがな。カタパルト王国が滅びたら元も子もあるまい」


 エッフェル臨時騎士団長がそう言うと、文官は皆むっつりとした様子で黙り込んだ。武官達も、財政状況の悪化をそう軽視はできないため喋ろうとせず、重苦しい空気が軍議場を覆った。気まずい沈黙が流れる。

 俺は不意に口を開いた。


「では、折衷案をとればよろしいのでは?」


「ほう」


 ジルが反応する。俺の穏健な発言がこのきまり悪い空気を変えてくれるのでは、と期待しているのか。皆俺の方を向いた。俺はすぐには喋ろうとせず、たっぷりと間を持たせた上で説明を開始した。


「まず、フリーダ皇国に和解の使者を送るのです。反皇連が瓦解したため我らが和解して気を悪くする相手はいないので、外交上の問題はないでしょう。そして具体的には、我々が鉱山利権をある程度譲渡する代わりにフリーダ皇国には戦前の国境線へ戻すことを求める。という形でよろしいのではないでしょうか。

 もしそれが断られた場合。その時こそは、武力で旧領を奪還することとしましょう」


 ジュワンベルクが異を唱えた。


「では、返答を引き延ばされた場合はどうするのです?」


「明確な返事が出るまではあくまでも戦闘を続行する。そう通告すれば、和解の意思がある限り引き延ばそうとしないでしょう」


「強硬姿勢ですな」


「ええ」


 ジュワンベルクは納得したようで、それ以上反駁しようとしなかった。武官も文官も、表立って反対するつもりはない様子である。そのための折衷案だ。


「私も賛成です」


 一度も発言していなかったジュネ将軍が同調すると軍議の大勢は決した。


 そして七日後、カタパルト王国とフリーダ皇国の間に和議が結ばれた。その条件は、グラビット鉱山の収益の三分の二をフリーダ皇国の取り分にするというカタパルトに不利なものだったが、反対する者はいなかった。

 反乱軍打倒。それこそがカタパルト王国の最重要目的なのだから。

これで第3部終了となります。

また、申し訳ありませんが、活動報告にあるようにこれから数年間更新を停止します。更新再開or更新停止が確定したらその時(恐らく2or3年後)お知らせしますね。

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