表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
8/85

第1章第7話 迷子の俺のoverrun‼

 入ってきたのは若い男だった。彼はリディーに書類の束を渡して、そのまま部屋を出て行った。


「これが、書類です。私のやることを見ていてください」


 リディーは一枚一枚書類を見て、二つに分類する。机の右側と左側にそれぞれ重ねているのだ。右側には「歩兵軍四隊経理担当より」とか「産業省生産局局長より」とか難しそうな手紙……というよりは仕事の案件っぽいのが積まれている。左側には「国王陛下より」とか「王国第三王女より」とか私用の手紙であり、当然こちらの方が量は少ない。


「では、とりあえず貴方はこの手紙をジル様に届けて下さい」


「はい」


 リディーが指差したのは左側の手紙。右側の書類はさらに仕分けするらしい。ご苦労なことで。


「では、失礼します」


 外に出て、少しばかり思考。さて、


「忘れた」


 そもそも覚え切れるわけがないのである。当然、俺は誰かに道を聞くしかない。しかし適当に歩いて人を探してもなかなか見つからないのだ。もう十分は経っただろうか、という頃に俺はやっと警備員の人を見つけた。いかついおっさんだが、仕方ない。


「あの……すいません」


「なんだね」


「俺、道に迷ったんですけど。教えてくれませんか?」


「君、王城の地理が分からないのか?」


「は、はい。昨日登城したばかりなので」


 すると、おっさんは疑うような眼差しで俺をジロジロ見る。だが、俺の様子を見て俺の言葉は真実だと思ったのかそのいかつい顔を少し緩めた。


「で、どこに行きたいんだい?」


「ジ、王太子様の執務室です」


 流石に一国の王子様を呼び捨てにしてはまずいよね、ということで王太子様と呼んでおく。驚いたのか目を少し見開いたおっさんは俺に問う。


「何故だね」


「この書類を王太子様に届けろとの命令をいただいたので」


「誰に」


 リディーさんにも一応様付けした方がいいよね。


「第二秘書のリディー様にです」


「ふむ」


 しばらく沈黙が続いた。どうやら俺の回答は疑念を再燃させたようである。


「では、何か証拠となるものでもあるかね」


 職務質問みたいだ。とは思ったが言わないでおく。言っても意味は分からないだろうが。

 

 さて、証拠、か。別に俺はジルに何か貰った訳でもないし、どうしよう。いや、あるか。確かな証拠が。


「これは証拠にはなりませんか?」


 それは、国王からの手紙。この手紙を持っているということは、それだけで十分な証拠となるはず。そして案の定おっさんは態度を急変させた。


「……、すまない。どうやら私の思い違いだったようだ」


 頭を下げる。まあ、国王からの手紙の配送を任せられている俺がもしかしたら偉い人なのでは? と思ったのだろう。あながち間違ってないけどね。一応ジルと対等に話してるし、偉くないという訳ではないだろう。


「いえ、こちらこそ疑念を抱かせるような行動をしてしまってすいません」


「それでは、王太子様の執務室への道のりを言うぞ。まず、この道を真っ直ぐ進んで三つ目の右への曲がり角を曲がり、今度は二つ目の左への曲がり角を曲がってくれ。そしてまっすぐ進めば階段がある。そして……」


「あの」


 無理だ。頭がこんがらがる。絶対途中で忘れて再び迷子になっちまうよ。


「先導してくれませんか?俺そんなに覚えられる自信がないので」


 おっさんは変な顔をして俺を見る。国王の手紙を預けられるほどの俺がこんなに簡単な地理を覚えられないのに驚いたのだろうか。もしかしたら秀才官僚だと間違えたのかもしれない……俺の外見からしてそれは無理か。


「う~む。……分かった。付いてきてくれ」


 持ち場を離れるのに迷ったのだろうか。もしそうなら俺はすまないことをした。


「分かりました」








「ここだ」


 見覚えのある絵画。王太子執務室の扉の右側にはムンクの叫びみたいな絵が置いてある。これからはこの絵を目印にしよう。その前にここまでたどり着けるか怪しいものがあるが。それはおいおい覚えていこうか。


「じゃあな」


「どうも。ありがとうございました」


 そして、おっさんは自分の持ち場に戻っていく。さて、渡すか。と思いドアノブに手を掛けた俺は不意に止まった。何故か。


 それは、いつものギルさんの行動を思い出したからだ。いつもの、というほど見た訳ではないがギルさんは部屋に入る時必ず扉を叩き、「ギルバートです」と言ってジルからの返答を待ち、そのあと入っていた。だからこそ、さっきの戦場が生まれたのだ。


 ということで俺はギルさんを見習うことにした。


 コンコン。


「リョウです」


「おう、入れ」


「失礼します」


 扉を開けると、そこには書類に何かを書き込んでいるジルの姿があった。隣にはギルさんがいる。王子様って言っても、楽な仕事じゃないんだなぁ。


「どうしたの?」


 ジルは一旦作業を中断したのかこちらを見上げる。顔はいつもより真面目だ。


「リディーさんから書類を届けるようにといわれました」


 そのため、いつもは使わない敬語をつい使ってしまった。これが、王太子の威厳。帝王学とかを学んでいるのかもしれない。


「うん。そこに置いといて」


 でかい机の何も置いていないスペースに手紙を置くと、俺は手持無沙汰になった。もう、出て行ってもいいのだろうか。無言でギルさんに問いかけるとギルさんはうなずいた。すでにジルは俺の持ってきた手紙を読み始めている。


「では、失礼します」


 そう言い残し、扉を開けた俺。だが、やはりというべきか俺は秘書室への行き方が分からず、戻るのには長い時間を要した。学ばない俺。










「遅い。貴方は見習いとはいえ秘書なのですよ。自覚を持ちなさい」


 そして、現在に至る。言っておくが俺はマゾではない。どちらかというと、リディーさんがサドなのだ。そして俺は勿論リディーさんの凍てつく氷のような視線に快感を覚えることなどなく、そろそろ精神的に参ってきた。


「すいません」


 リディーさんは呆れの表情で俺を見つめ、さらなる仕事を命令した。


「では、この書類を届けに行きなさい」


 そう言って差し出されたのは仕事の案件みたいな書類だった。重要だと思えるものだけを厳選したのか、百枚ほどのうち五、六枚しか渡されなかった。


「分かりました」


 また、パシリか。まあ新入りの仕事は雑用と決まっているのだから仕方がないが、せめてもうちょっと優しく接してくれよ。


 と思ったが口には出さない。どうせ出しても変わってくれないからだ。くっ。異世界で知り合った唯一のおんにゃのこだというのに。ドジっ娘巨乳メイドさんは何処に居るのだ!


「では、失礼します」


 恐れるべきはヒエラルキー。先輩後輩の立場はあれ一応同僚の秘書なのに、部下のような態度を取ってしまう自分が居た。人間、初対面で互いの分が決まってしまうとも言うし、俺は初対面の時に何かミスでも犯したのだろうか。








 着いたぜ。今回はそんなに迷わなかったぞ。前回よりも時間はかかっていないのではないか。もちろん迷って警備員(さっきの人はチャラ男だった)に道案内を頼んだのだが。


 コンコン。


「リョウです」


 面倒くさいと思いつつ、一応ここら辺はしっかりやっておく。ただでさえリディーさんに嫌われているのにギルさんにも嫌われる(儀礼とかを重んじる感じの人はそういうのを適当にする人に深い嫌悪感を抱く)と俺は孤立してしまうのだ。


「おう、入れ」


「失礼します」


 入ると、そこにはジルとギルさんと……リディーさんがいた。バットタイミング。どうやら俺よりも後に部屋を出たらしいリディーさんの方が先に着いたらしい。


 リディーさんに怯えながら俺は空いているスペースに書類を置く。すると、ジルが喋りだした。


「ねえリョウ。僕はこれから商人のピクルスさんと会談するんだけどさ、一緒に来ない?」


 俺が? ……ああ、そういえば来客の接遇も秘書の仕事だったか。多分リディーさんは来客者を知り、ジルにそれを伝えに来たのだろう。


「分かった」


 なんか緊張するなぁ。そういえば、秘書って会談の時に何かするのだろうか。聞こうと思ったが、聞ける雰囲気でもないので諦めることにする。ヘタレって言うな!


 会談用の部屋ですでにピクルスさんが待っているらしく、その部屋に行くらしい。ただ、リディーさんは執務室で待っているとのこと。まあ、秘書三人も要らないよな。


 四階の会談室に直行する。ちなみに、四階には絵画は無かった。


 コンコン。


 扉をいつものように叩き、ギルさんが扉を開ける。そこには、怜悧な瞳でジルを見据える若い男がいた。その瞳は、ジルを見定めていた。初めて会うのだろうか。


「皇太子様におられましては、ご機嫌麗しゅう」


 そう言い、ソファーから立ち上がったその男、つまりピクルスは片膝をつき、ジルに頭を下げた。すでにジルはさっきの仕事中の時みたいな真面目モードになっている。


「うむ。ピクルス、であったかの」


「はっ」


「頭を上げよ」


「はっ」


 ピクルスの目には畏れが伺える。ジルの威厳に呑まれたようだ。


「では、本題に入るとしよう。ピクルス。そこに座ってよい」


「はっ」


 ピクルスは来客者用のソファーに座り、俺達も向かいのソファーに座る。そして、ピクルスは本題を切り出した。


「皇太子様。単刀直入に申し上げますと我々はグラビット鉱山の利権を求めています」


 グラビット鉱山?何それ。俺は知らないがジルもギルさんも知っているようで、二人は難しい顔をしてうなった。


「あの鉱山からの金を全て王国が採れれば、大きな経済発展につながります。詳しい話は割愛させていただくが、グラビット鉱山を所有できなければ……」


 三人とも息を呑む。


「王国の商人には未来がありません」


 断言した。


 どうやら、なんちゃら鉱山からは金が採れるらしい。話の流れから推測するに、その鉱山の所有権は王国以外の国も持っているらしい。


「分かりました。善処します」


「これが、我々商人の連判状です」


 そう言って差し出されたのは、一枚の紙。そこにはいろんな人の名前が署名されていた。カタカナで。この国の文字おかしくね? と思ったのは割愛する。


 そして、会談は終わった。後でギルさんに教えてもらったのだが、今回の会談の終わる早さは異例らしい。まあ、実質連判状を届けるのが目的だったらしいので当たり前だが。

ここまで読んでくださいましてありがとうございました。トッティーです。


ようやく第一章も折り返し地点に到着しました。第一章はあと五、六話で終わらせる予定です。そして、第二章では戦争が勃発。シリアスです。


では、これからもこの作品をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ