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異世界の智将  作者: トッティー
第三部 怒涛編
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第7章第2話 衝突(2)

 騎士団は奮い立っていた。


 圧倒的少勢だったカタパルト王国軍の二度に渡る奇跡的勝利とそれを思い起こさせたエッフェルの演説が、彼らを狂騒の渦に巻き込んでいたのだ。ブルゴーが戦死したあの敗北も、かえって有利に働いた。また、新たに臨時騎士団長に就任したエッフェルの父親が大陸随一の猛将だったことも影響しただろう。


 そして今、長年の友好を一方的に裏切った憎き敵フリーダ皇国軍が眼前にいる。


「かかれぇ!」


 前進命令を受けたエッフェルが声を張り上げるのと共に、騎士団がフリーダ皇国軍左翼に向かって猛進する。全く怯えを見せず三倍以上の敵に立ち向かうその姿は、流石に精兵と言えた。


 前衛を蹴散らし、中央から食い込む騎士団。同時に、後方の魔術師団からの援護が一斉に入った。いち早く開戦した右翼に援護魔術が集中しているのだ。並みの武将や兵士では止められないだろう勢いがあった。


 だが、左翼の騎兵五千を率いるのはババロアである。そう甘くはいかない。

 五千の騎兵の内練度がずば抜けている二千の青鳥連隊を主軸にして、騎士団の猛烈な攻撃を食い止めっようとした。寄せの勢いが落ちる。成功した、とババロアは心の中で笑みを浮かべた。


 その時騎士団は予想外の行動に出た。


 退いたのである。


(……、早い。諦めが良すぎる)


 ババロアはその行動から即座に妙な空気を感じ取った。足並みを乱さないように指示を出して、固く守るように命令する。

 しかし、残念なことにその指示はエッフェルの目論見を完全に潰すまでには至らなかった。青鳥連隊こそ戦列を乱さなかったものの、残りの三千の騎兵の内いくらかが突出してしまっていたのだ。

 他の騎兵は足並みを乱さず守れという命令を受けていたため、突出した部隊との連携をどうすればいいのかと行動を決めかねる。




 ババロア軍の惨状を見たエッフェルは心の中で笑みを浮かべ、命令を出した。いや、自ら突っ込んで行った。


「突出した部隊を徹底的にぶちのめすぞ」


 この策はブルゴーの真似だった。一旦退くことで敵の足並みを乱し、そこを反転逆撃する。敵軍と自軍との練度がかけ離れていなければ成功しない技だったが、敵軍の中で練度が高いのは青鳥連隊だけだったため見事にハマった。


 エッフェルが槍を掲げて突っ込んでいく。二人の騎兵がそれを阻もうと槍で突いた。エッフェルは巧く二つの突きをかわすと、槍を手元に引くことで一人の首元を斬った。血が噴き上がるのを横目に、もう一人の方へ槍を突き出す。ぐちゅり、と嫌な音を立てて死体が馬から飛び落ちた。


 周りを見渡すに、ババロア軍の騎兵は軒並み騎士団に掃討されているようだった。青鳥連隊、突出していた騎兵、突出していなかった騎兵。それぞれが全く連携できていなかったためだ。


(とはいえ、ババロアも並みの将軍ではない。一度時を与えてしまえば、立ちどころに連携を取り戻してしまうだろうな)


 それでは駄目だ。エッフェルは呟き、更なる突撃命令を出した。崩れた敵兵が退くのに乗じて攻勢を強める。


 一方ババロアは乱された連携を取り戻すのに必死になっていた。各大隊長・部隊長に連携をとるよう命令を出す。だが混乱はそう易々とは静まらない。


 業を煮やしたババロアは青鳥連隊を率いて前進を敢行した。青鳥連隊だけでも騎士団より兵力は多いのである。青鳥連隊単独で騎士団とぶつかり合っている間に他の部隊に混乱を収拾させ、包囲。それこそがババロアの狙いだった。


「敢えて真正面からぶつかってくるか。この流れのまま打ち破れればそれで良かったんだけど……やはり、そう簡単にはいかないようだ」


 戦場を駆けていたエッフェルは青鳥連隊の前進を見て、唾を地面にを吐き捨てた。その顔には笑みが浮かんでいる。高揚感が心を支配していた。

 とはいえ、頭の中では冷静に算段をしている。


 どう対処するべきか。


(なし崩し的に真正面から兵力を削り合うのは愚の骨頂だ。兵力の少ない僕達騎士団にそんな余裕はない。となると、やはり。ああするしかないか)


 エッフェルは兵を纏めて一旦退いた。陣形を立てなおし、フリーダ皇国軍と向かいあう。となると、今度は青鳥連隊が突出することとなる。ババロアは一瞬躊躇した後、青鳥連隊に僅かばかりの後退を命じた。突破できない、と判断したのだ。

 エッフェルの目が光る。


「突撃っ」


 退こうとした瞬間での攻撃に青鳥連隊が僅かばかり取り乱した。だが、ババロアは全く表情を変えずに防御を命じる。全く動じていない。こうなると、歴戦の校尉達も落ち着いた態度で行動をとる。

 結果として、騎士団の整然とした攻撃を青鳥連隊は冷静に食い止めることに成功した。


(やはりババロア将軍は手強いな。青鳥連隊も手堅く守ってくる。しかし……)


 エッフェルは口角を吊り上げた。


 ババロア率いる騎兵五千の内練度が高いのは青鳥連隊二千人のみ。残りの三千はさほど戦闘に熟達していない。


 突出していた青鳥連隊が退いたのを見て、左右に位置していた騎兵にはそれが敗走のように見えてしまった。冷静に注視すれば整然と退いているだけなのだが、初っ端から騎士団に攻撃を食らった彼らの恐怖が理性を上回った。


 三千の騎兵が浮き足立つ。


 エッフェルはその兆候を悟るや否や、時を移さず命令を下した。


「攻勢を強めるぞ!」


 エッフェル自らも槍を手にとって敵陣に斬り込んだ。

 瞬く間に四人の兵士を馬上から落馬させる。斬りかかってきた隊長格の男の斬撃から体を返し、流れるような動きで抜き取った小刀を脇に突き刺した。




 一方、騎士団の総攻撃を食らったババロア軍は数を頼みになんとか持ちこたえていた。逆に言えば、数がなければ戦線を保てなくなる程混乱していた。

 ババロアは焦燥の表情を浮かべた。青鳥連隊以外の部隊の多くは未だに右往左往している。兵が、指揮官の言うことを冷静に聞くことができていないのだ。


 仕方ない、とババロアは汗にまみれる顔を歪ませてがなりたてた。


「青鳥連隊所属の各大隊から一個中隊ずつ回せ! なんとか持ちこたえさせるのだ!」


「それでは、中央が先にやられてしまいます!」


「俺が前に出る!」


 ババロアもまた前線に向かって駆けだした。

 フリーダ皇国軍重鎮の出撃に、青鳥連隊の士気が回復する。同時に恐慌状態に陥っていた軍勢も落ち着きを取り戻し始める。


「おいしょぉぉお!」


 ババロアのどら声が戦場に響き渡った。


 目の前にいた騎士団員に向かって思い切り大剣を振り落とす。その騎士は体を横に逃がした。だが逃げた先にババロアの蹴飛ばしが向かう。騎士団員の体は遠くに吹っ飛び、その先にいた団員とぶつかって二人とも落馬することとなった。ババロア軍の兵士が落ちた二人を槍で突き刺し、二人は絶命した。


 指揮官の果敢な戦闘によってババロア軍は士気を取り戻し始め、騎士団は徐々に後退していく。


 勢いさえ掴めば、元より倍以上の兵力差があるババロア軍だ。あっという間に形勢を巻き返したのである。

 一方、騎士団は強まる攻勢を流しながら後退している。被害こそ大きくないが、このままではいずれ敗走してしまうのは目に見えて明らかだった。


 守勢に回った騎士団の士気を鼓舞しながら冷静に後退を指示するエッフェルの元に連絡兵が現れた。


「ほう」


 平然とした言葉とは裏腹に、エッフェルの表情が歪んだ。

 フリーダ皇国軍が中央に第二陣を繰り出したため中央の軍勢も苦戦を余儀なくされているという報せだ。元より左翼は劣勢なので、現在カタパルト王国軍は全面的に劣勢にあるということになる。


「各部隊に連絡兵を送れ。例の作戦を開始する、とな」


 勢いを増す敵陣を睨みつけて、エッフェルは指令を出した。

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