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異世界の智将  作者: トッティー
第二部 紫雷編
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第4章第12話 確信

「勝利は確定したみたいだな」


 ようやく本陣に戻って来た俺は、ふうとため息をついた後そう呟いた。ジルは頷き、言葉を返す。


「マクシム達貴族軍は退却。カール軍もジュネ歩兵軍団長の攻勢にたじたじだ。兵力差はあるけど、敵はこちらと違って烏合の衆だからね。今更逆転できるはずもないさ」


「確かこっちの兵力って五千位でしょ? あっちは数万人なのによく勝てたよなー」


 奇襲と内応によって無効化されていたけど、地味に兵力差は半端無かった。真正面からぶつかったら絶対負けるだろってレベルで、それならマクシム軍が油断したのもしょうがないのかもしれない。いや、違うな。優位だからこそ、敵が絡め手を使ってくることを警戒しなきゃいけなかったんだ。


「ゲタポ侯爵も無事離反したし、リョウの考えた作戦が良かったんじゃない?」


 ジルもご機嫌な様子で俺に対してお褒めの言葉をくれた。その姿に調子こきすぎだろと思った矢先、ジルは突然無表情になって俺に大して口を開いた。


「で、追撃するかい? 今回は兵の損耗はそれ程でもないけど」


 軍事の話か。俺も頭を真面目モードに切り替えて、思考に移った。


 フリーダ皇国軍がやけに南に攻めてきている。次々と領土を攻め立てられて、相当拙い状況である。でも、別に一刻の猶予が無い訳じゃない。敵の兵站は脆いのだ。


 四万人の食糧・武器・住処。医療や遊女も必要だろう。用意すべきものはとてつもなく大きい。それを置いてきぼりにして前進し続ける軍隊に待っているのは、ナポレオンのロシアでの体験と同じものだろう。すなわち、兵站が足りなくなって士気が崩壊する。


 フリーダ皇国に兵站に長けたライル将軍がいるとはいえ、短期間マクシム軍を相手していても大丈夫なのだ。今頃敵はカタパルト王国領で略奪でもしているだろう。兵糧自弁で最後まで突き通すのは無理だ。


「カール軍とか日和見しそうな貴族に対しては必要ないと思う。ただ、マクシム軍の中でも完全にあっち側についている貴族には、やるべき。敵だと分かっているなら、出来るだけ兵力を減らすべきだし。まああんまり悠長してるとフリーダ皇国軍が攻めてくるだろうから、ある程度の所で切り上げればいいんじゃない?」


「なるほどね。じゃあ連絡兵。戦場にいる各部隊長とジュネ将軍にその旨の報せを」


 ジュネ将軍が戦っている相手。カール軍か。ふと西を見やると、カール軍は執拗に抵抗していた。勢いがある。傭兵と練兵を主軸にしているだけあって、流石に強い。ジュネ将軍も苦戦しているのかも。


「カール軍はなかなか潰れなさそうだな」


「その通りですねぇ」


「え?」


 ふと呟いた俺の後ろにはいつの間にかロン毛のおっさんが立っていた。魔術師団隊長だ。暇そうな気の抜けた表情。俺とジルに無駄がらみしに来たの?

 俺の疑問を代弁してジルが魔術師団隊長に話しかけた。


「どうした」


 すっかり君主モードである。口調が固い。そんなジルの言葉に魔術師団隊長はニヤニヤしながら受け答えした。


「いえ、それがですね。私たち魔術師団は少少手持ち無沙汰なようで。追撃に加わるかカール軍を攻撃するか、陛下の判断を仰ぎに来たのですよ」


 残念なことに、戦慣れしたジュネ将軍とはなかなか緊密な連携が取れそうにない。さっきまでは敵を挟んで向こう側に居たのだ。だからこその独自裁量なのだが、この魔術師団隊長はわざわざこちらに来たようである。


「わざわざ来たのか」


 またも俺の疑問を代弁するジル。訝しげな視線であるし、実際疑問に思っているだろう。


「いえ、元からここにいましたので」


 ……。ん? 何でこっち見てくるんだよ魔術師団隊長。しかもジルまでこっちを見てきやがるし。俺に答えろっていうのか?


「隊長さん、カール軍を攻撃した方がいいのでは? 追撃するマクシム軍を追いながら魔術を撃つよりも既に射程範囲内にいるカール軍を撃つ方が効率的でしょうし、敗走するマクシム軍よりも奮闘するカール軍の方を優先するべきでもあります」


 一応敬語で俺の思ったことを話したが、魔術師団隊長は異論でもあるのかこちらに向かって言葉を放った。


「シュタールです」


「え?」


「私の名前ですよ」


 ああ名前か。どうやら俺の献策に対しては特に言いたいこともなかったようだ。魔術師団隊長改めシュタールは体の向きを変えてジルを見やる。ジルはただ頷き、それを見てシュタールは俺達に背を向けた。本陣の外で待っていたのだろう従卒らしき少年が駆け寄り、一言か二言会話を交わしている。


 シュタールの背中を見て俺はやっぱりこいつ変だな~との思いを再確認した。ロン毛だし、目の彫り深いし。肩まで垂れる黒髪は微妙に湿っていて、それもまた彼の持つ変な雰囲気を助長している。

 ただ、実力はあるのだろう。シュタールの手のひらは肉刺だらけでゴツゴツだった。生粋の武人であるブルゴー騎士団長と比べれば流石に劣るが、そこら辺の兵士よりかは余程鍛えているだろうと予測できる。


「援護あるし、すぐ終わるな」


 俺は呟く。すると、数秒間時間を置いてジルは言葉を返した。


「そうだね。カール軍だって全員が経験豊富な古兵な訳じゃないし」


 横では味方が無様に逃げていて上からは魔術が降ってきて前には意気盛んな敵兵がいる。新米で練度の低い兵士にはたまらないだろう。負の連鎖は続き、やがてカール軍の戦列は乱れ、そうなったらもう終わりだ。


「連絡入りました。ヒール男爵を騎士団第四部隊第六曹長が討ち取ったとのことです! 追撃中とのことでした」


 早速朗報が入ったみたいだ。ジルは笑顔で連絡兵の言葉を聞いていた。幸先がよくてなによりだな。


「ヒール男爵か。こうも早く討ち取れるなんて意外だったなー」


 ジルが感嘆する。俺はあんまり詳しくないんだけど、何が意外なんだ?

 俺がその疑問をぶつけると、ジルは若干嬉しそうに(むしろドヤ顔で)説明した。ここは軍師的立ち位置の俺や各部隊長の独壇場でジルは意見を聞いてばっかりだったから、自分の意見を他人に伝えるのが嬉しいのかもしれない。話は聞くよりする方が楽しいしね。


「ヒール男爵は文官、というより政治家だよ。戦場の士気は武官である下級貴族に任せて、後方に待機している。つまり、退却となると一番逃げやすいのさ」


 成程。確かに後方にいれば一目散に逃げられるしな。何で殺されたんだろ。


「ヒール男爵はどちらかと言えば無能だったから。部下を見捨てて逃げるのが嫌だったというよりは、貴族である自分の逃亡を誇りが許さなかったっていう方が理由としてはしっくりくるなぁ。無駄な誇りだけどね。もしかしたら彼にだけ退却の連絡が遅れたのかもしれないけど。流石にそれはないでしょ」


 しょっぱいなー。どうでもいいけど。


 そんな話をしていると、再び連絡兵が来た。


 聞くところによると、魔術師団の攻撃は効果を発揮してカール軍の士気は大幅に下がっているんだとか。実際に逃亡しようとした兵士も数人いるらしい。しようとしたというのは、そういう奴は皆キモの無い徴用兵だから全員上官にぶった切られているということだ。


 まあ、傭兵が逃げるようになったら終わりだろうな。戦況が悪くなり過ぎたら逃げるのが傭兵だし、その傭兵を斬る程の余裕はもうない。逃げるのを一度見過ごせば、他の兵士も逃げたいと思って士気が崩壊する。


 そして、その時がくるのはもうすぐだ。


 そう思った俺が戦場を見ると、カール軍の旗は意外なことになかなか前に押し込んできていた。この劣勢で前進できるって有り得ないと思うのだが。とりあえずジルに質問してみる。


「なぁジル。案外カール軍って前に進んできてるよな」


「確かにね。リョウ、何故だと思う? どう考えてもこっちの方が優勢だと思うんだけど……」


 地面を見つめて俺は考え始める。


 その優勢を無駄にするようなジュネ将軍でもない。ということは、つまり、これはジュネ将軍の狙い通りってことなのかな。狙い、狙いか。思い浮かべることができる策はただ一つ。単純だ。


 包囲殲滅。


 カルタゴのハンニバルを始めとして成功例にはいとまがないが、失敗例はその数倍もある危険な作戦だ。変に敵が調子ついて中央突破をされると負けにつながる。V字型である鶴翼の陣形がよく使われる作戦だ。


 ふむ。成程。


 カール軍は頑張って突撃してくるものの、元気がなくて中央突破出来る程の力を持ち合わせていない。中央突破される危険性が低いなら、包囲殲滅しちゃおうぜってことか。


 これはカタパルト王国直属軍所属の精兵が多いから出来ることだな。奇襲していた時は逆v字型だったろうに、そこから両翼を前に中央を後ろにしてV字型の陣形に変化させるとは。横のつながりが薄くなってその間隙を突かれる危険性大だ。

 農民兵が多くを占める貴族軍では絶対に出来ないだろうし、凡百の武将でも成しえないことだろう。優秀な兵を優秀な将官が指揮したからこそ出来たことだな。


 まだ包囲状態への移行途中だろうけど、こりゃあ全滅させられるかも。ラッキー。


「陛下。ご連絡致します」


 連絡兵か。今度は何だ? まあその形相からしてこちらに有利な情報だというのは想像できるけどねー。


「カール軍が退却しました」


「マジで!?」


 驚いた俺が戦場を見ると、確かに旗が後ろに下がっている。折角包囲殲滅出来そうだったのになー。いや、思惑に気付いたのかもしれない。戦国時代みたいな所で戦ってる将兵だから、それ位なら全然有り得る。


 顔に喜びの表情を浮かべたジルに更なる報せが舞い込む。


「ジュネ将軍はカール軍の再度の攻撃がないことが確信でき次第、追い討ちを切り上げて貴族軍の方向へ向かうとのことです」

第二部ってそんなに怒涛じゃなくね……? むしろ怒涛(予定)なのって第3部じゃね?

ということで名前変えます。

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