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異世界の智将  作者: トッティー
第二部 紫雷編
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第4章第9話 閃光

「ぎぁぁああぇぇ!」


 目の前の男が血を噴き出しながら、息絶えた。頭に白髪が結構な割合で混じる初老の男だった。


「ふぅ。これで二人目か」


 ジル率いるカタパルト王国軍が奇襲をかけてから数十分経っている。俺は、今二人目の男を殺したところだった。


 ちなみに、一人目の男は狐顔の青年だった。俺の十年後みたいな顔してたな。他の数人の若者と徒党を組んでカタパルト王国軍の兵士をブッ刺してたから、後ろから斬り殺した。


 ごめん、これ嘘。戦闘の素人な俺は一発じゃ殺しきれなくて、十発くらい滅多刺ししてやっと仕留めたんだ。その間に何故徒党を組んでた奴らに攻撃されなかったのか疑問。


 頭の中でアドレナリンでも分泌されているからなのだろうか。正直、殺人への禁忌をあまり感じない。戦場はやるかやられるかの世界。甘い考えに浸っている場合ではないということを、無意識的に分かっているのかもしれない。


「っと。気持ち切り替えなきゃな」


 現在は俺達が優勢な様で、俺の戦っている位置はさっきまでは前線のはずだったが、もうここら辺に敵兵士はいない。とはいえ、流れ矢や流れ魔術(?)が飛んでくるかもしれないし倒れている兵士が皆死んでいるとは限らない。あまり油断しない方が得策だ。


 さて行こうかと足を前に踏み出した瞬間、俺は思いっきり横に跳躍した。


 ビュッ。


 流れ矢がさっきまで俺の立っていた地面に突きささる。危ない危ない。やっぱ弓矢は怖いな。魔術はレアだし、大きな音を立てて範囲を広げながら進んでくるので攻撃を察知しやすい。一方弓矢は案外攻撃力がでかい上、矢の空気を切り裂く音は戦場の喧騒にかき消される程度だ。


 たまたま今俺が流れ矢の危険性に思い至って警戒したから良かったものの、もう数秒早く来ていたら避けきれなかったかもしれない。マジあぶねー。


 ただま、現在は混戦中の様で。散発的な流れ矢ならともかく、組織的な一斉掃射はないだろ。多分。こっち優勢だし、そんな余裕は敵軍にはないはず。


 さて、そろそろジルのいる本陣に帰ろう。逃げてるなんて言うなよ! ろくに戦闘訓練も積んでいない俺が戦場に出たのは、戦場の空気を見て形勢を判断する為だし、どーせ他の兵士はみんな俺より強いんだから、俺はむしろ足手まといだ。


 ということで退散だな。俺は後方に待機している馬のところまでひた走る。後はみんな頑張れ! 俺はもう戦わない、これは戦略的撤退だ(キリッ。








「舐めてんじゃねーぞ雑魚が」


 とか思ってあそこから移動した俺がバカでした。吉田亮です。こんにちわ。


 移動中に二人の騎士と互角に渡り合う怪物くさい傭兵さんと会っちゃったのが運のツキ。仲間を助けようと思って俺から背を向けて戦っているゲルトとか言う男に向かって剣を振りかざしたら、仲間らしきこれまた二人の騎士と戦っている怪物さんの「後ろだ! ゲルト!」という言葉の所為で振り向かれちゃった。


 一応剣道部で鍛えていたんだぜ(ドヤァなはずの俺の面打ちが見事に弾き返され、刀は空に飛んで行ってしまったのである。慌ててのけぞる俺を尻目に、ゲルトとかいう奴は油断している後方の騎士の一人をぶった斬った。続けざまにもう一人の騎士に斬りかかり、数合打ちあったがすぐに二人目の騎士は殉職した。


 ゲルトは再びこちらを振り向き、歯を剥いてニヤリを笑みを浮かべた。そして冒頭の発言に至る。


 現在の俺の状況を表すなら、オワコン、が最もふさわしい表現だろう。怪物じみた実力を持つ相手を前にして、俺は震え上がった。一応剣道をやっていたとはいえ全国区レベルとは程遠い一般人な俺が、全日本剣道選手権大会優勝者レベルであろう傭兵に対して、勝てる訳が無いのだ。


 そこで問題だ! この貧弱な肉体と惰弱な精神でどうやってゲルトの攻撃から生き延びるか?


 ①ハンサム(笑)な吉田亮は天才的な頭脳で危機を回避する。

 ②突如時間が止まり、幼女神様が現れてチートの力を五つまで授けてくれる。

 ③瞬殺される。現実は非情である。


「じ、じゃあ③でお願


「心の準備はもういいみたいだな。それじゃあ、こっちから行かせてもらうぜぇ!」


 突如攻撃を始めた傭兵ゲルト。俺は咄嗟に後ろへ跳びのくも、素早く間合いを詰めてくるゲルトに対して成す術はない。


 やばっ。死んだかも。


 そう思った瞬間、思わぬ味方が登場した。後方からゲルトへ思い切り剣を振り下ろす。ゲルトは獣のように敏捷な動きで攻撃を交わし、逆に反撃までやってのけた。味方の人は片腕なのにゲルトと互角の戦いを演じ、間合いが近付いた二人は鍔迫り合いに移行した。


 俺は尻もちして、前で競り合ってるゲルトとグランさんを見てい……ってグランさん!


「てめえ、なかなかやるじゃねえか」


 急いで俺が後ろに下がっている間、片腕のないグランさんがゲルトとは互角につばぜり合いを繰り広げていた。ゲルトだって滅茶苦茶強かったのに、片腕でそれと互角に戦うとはグランさんは実は物凄いのかも。


 ゲルトはグランさんの刀を弾き後方へ大きく跳んだ。間合いを取って仕切り直そうという目的だろう。だがグランさんは相手の思惑に乗らず、すかさず攻撃を繰り出した。低い軌道の刀がゲルトの足を狙う。すねを斬って機動力を下げようという狙いだろう。


 ゲルトは刀をかざし、間一髪のタイミングですね打ちを防ぐ。が、グランさんの猛攻は止まらない。手首を返して胴、逆胴、と多彩な技を放つ。ゲルトはグランさんの刀をなんとかそらして尚も後方に下がろうとしたが、最高のタイミングで面が振られた。


 真っ直ぐ上から振り下ろされるグランさんの刀に対して、ゲルトは剣先を斜め右前上の方向に向けながら、手元を上げる。グランさんの刀とぶつかる瞬間、手を思い切り絞った。


 ギィィンッ。


 二人の刀がぶつかり合い、グランさんの刀は衝撃で上に弾かれたが、ゲルトは手首を返して手元を斜め下に伸ばす。グランさんの顔色が変わった。

 ゲルトの狙いは面返し胴。真っ直ぐ振られた面打ちを刀を上げることで守り、手首を返して脇腹を狙う技である。直撃すれば、グランさんは腹を斜め上からバッサリ斬られることとなる。


 ゲルトは口角を吊り上げた。俺は思わず目をつむる。


 瞬間。


「――ッ」


 グランさんの体当たりでゲルトは吹き飛ばされたようで、強い衝撃音が俺の耳に届いた。グランさんの脇腹からは僅かに血が滴っている。致命傷ではない。ぶつかったのが殺傷力の低い手元側の刃(元打ち)だった上、斬られた時既にゲルトはふっ飛ばされ始めていた。それが理由だろう。


 体勢を崩しながらも必死に転倒を避けようとしているゲルト。が、グランさんは容赦せず袈裟切りした。今度こそゲルトの防備は間に合わず、グランさんの刀が脇腹に食い込んだ。傷口に沿って血が噴出する。


 グランさんはすかさず止めをさそうとするも、ゲルトの仲間の雄叫びを聞いて体を反転した。


「うおおおおーー!」


 槍を担いでグランさんへ一直線に進む、絶叫の発信源。ゲルトの仲間の傭兵だろう。我を失いながらも構えに隙はなく、予想外の直進速度にグランさんは一瞬体をこう着させた。

 その間にも男は突き進む。そして槍の射程範囲内に入った男は、槍を振っ……ッ。


「フェイントか!」


 思わず俺は心の声を表に出してしまった。相手が俺なら完全に騙されていただろう。それ程の気迫だった。しかし、相手が相手だ。グランさんは笑みを浮かべた。男がフェイントの為に無駄な時間を使ったことを喜んでいるのだろう。もしかしたら、男の攻撃がフェイントだと最初から分かっていたのかもしれない。


 男はフェイントでグランさんの構えが崩れなかったことに驚きつつも、本命の面を撃つ。天高く突きたてられた穂先が風を切り裂きながらグランさんの頭部へと向かう。

 グランさんは左手に刀を握り締めて、手元を上げた。


 槍と刀が交差し、ぶつかり合う音が戦場に鳴り響いた。


 グランさんは片手で持った刀で、重力加速度を利用した両手での攻撃に耐えたらしい。槍は反動で再び空へ突きたてられていた。正面がガラ空きだ。今なら殺せるだろう。

 という俺の予想に反してグランさんは思い切り後方へ跳び、間合いを取った。男はその間に構え直す。その額には汗が貼り付いていた。


 何故絶好の機会をみすみす見逃したのだろうか。この俺の疑問は一拍置いて氷解することとなった。グランさんが着地した瞬間、さっきまでグランさんの居た位置に刀が振るわれたのである。ゲルトだ!


 ゲルトは寝た状態から刀を振ってグランさんの隙を狙った様だ。右手で脇腹を押えながらも立ち上がり、切っ先をグランさんの胸に向けた。男は構えを変えない。腕の筋肉は緩んでおり、左足の先に体重が乗っている。臨戦態勢だろう。


 俺も立ち上がり、正眼の構えでゲルトを牽制した。左隣のグランさんに聞きたいことはやまほどあるが、とりあえずはこの強敵を片付けなければならない。


 緊張感の張りつめる中、不意にゲルトは口を開いた。


「そこの片腕野郎。てめえ、中々強いじゃねえか」


 痛みに耐えているのか笑みが苦笑いになっているゲルトだが、その口調は不敵だ。その後もじりじりと後ろに下がっていく。男もそれに応じて後ろへ下がった。


「ひとまず退散させてもらうが、一先ず質問させてもらおう。……、てめえは何者だ?」


「グラン。元、近衛隊だ」


「てめえ……。閃光のグランにお目にかかれるたぁ今日の俺は運がいいみてぇだな」


 閃光。グランさんの二つ名のようだ。やっぱり、相当な腕前だったんだな。道理で片腕だけでゲルトと渡り合えたはずだ。グランさん凄ぇー。

 一方のグランさんは特に表情を変えず、ゲルトの動向を窺う。油断していない。それを見て、ゲルトはふぅとため息をついた。隙ができたら攻撃するつもりだったのかもしれない。


「俺はゲルトだ。覚えとけ、とは言わねえ。だがな……覚えとくぜ、『閃光』」


 そう捨て台詞を吐き、ゲルトと仲間の男は去って行った。俺は戦場だというのに一気に緊張感をなくして、その場に座り込んでしまった。

 ノリで二つ名付けちゃった。閃光(笑)。むしろ閃光(キリッか。だが、後悔はしていない! なぜなら、


 第3章第8話後書きより引用

『もしかしたら、2年後くらいには「閃光のグラン」とか二つ名がつくかも……嘘だけど。』


 旗は立っていたのだから。恥ずかしいというよりむしろ


(書いてやった! 書いてやった!)


 って感じ。

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