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異世界の智将  作者: トッティー
第二部 紫雷編
50/85

第4章第5話 挟撃

冒頭にある地図ですが、一つ訂正を。

旧制カタパルト王国軍の兵力は2000ではなく2500です。

挿絵(By みてみん)








 ジュネ将軍から電報が届いた。


『反乱貴族軍への奇襲は成功。既に二軍を切り崩した』


 それを受け取ったジルの顔には僅かながら笑みが伺える。奇襲した勢いで貴族軍を二つも打ち破ったことで心に余裕ができたらしい。このまま敵がジュネ将軍の奇襲に大慌てすれば、第二の奇襲も成功に導けるのではないか、と考えているのだろう。


 カタパルト王国の正統な王位継承者を自称するマクシム・カタパルト率いる連合軍、その数およそ二万。途中で合流した豪族カールの軍勢とだけでなく貴族軍内部でもなかなか統率がとれていない様子だが、それでも二万人だ。

 先の戦いで圧倒的な劣勢をものともせず勝ちぬいたジルとて、不安を抱かずには居られないのが現状だった。


「やっぱ、ジュネ将軍って強いんだなー」


 ぶっちゃけジュネ将軍の三千人と俺達の二千五百人で二万人を挟撃するのは無理のある作戦だ。いくら俺達の電撃的高速機動で敵の虚を突いたとしても、勝てるもんじゃないだろうと思っていた。


 だが、やはり将兵の質というものは戦においてかなり重要らしい。ジュネ将軍はカタパルト王国最強とまで言われる用兵家。彼の率いる歩兵軍団三千人の内三分の二は、カタパルト王国の直属軍なだけあって精兵である。あっという間に貴族軍の一部を打ち破って見せた。


 そしてこちらもまた精兵の集まり。ジル率いる近衛隊五百に加えて、歩兵軍団一千人(第六部隊・第九部隊)と騎士団五百人(第四部隊)と魔術師団五百人(第三部隊)が統制下にある。徴兵されただけの農民が多数を占めている軍勢とは質が違う。


「そうだね。父上もよくジュネはカタパルト王国有数の軍人だって褒めてたし。それに、ジュネが率いるのは常備兵の直属軍だ。民兵とは訳が違うよ」


 ジルも俺と同じ考えを持っていたらしい。当たり前か。


 それにしても、俺には少し懸念材料があるんだよなー。


 常備兵は民兵よりも強い。これは常識だ。日々鍛錬を怠らない兵士と日々農業に勤しんでいる兵士のどちらが強いか、と考えれば一目瞭然。民兵は勝ちに乗るとかなり強くなるが、負けそうになるとかなり弱くなる、っていう側面も持つし。精兵で一撃加えればそれだけで士気は下がるだろう。


 で、問題なのはさ。あっちにも少なからず常備兵が居るってことなんだよねー。


「カール軍。あれは侮れないと思うけど、どうなのさジル」


 豪族カール一族軍。武辺で名を挙げてきた豪族なだけあって、重臣は皆武勇に長けたものばかりだ。配下の兵もまた精度が高い。戦闘技術を売り物とする傭兵や武勇でその地位を上げてきた兵士が半数以上を占めている。


「既に手は打ってあるよ。暗殺者を数名、潜り込ませてある」


「そんだけ?」


「いや、まさか。貴族に一人内通者を作っている。ゲタポ侯爵って男でね。開戦と共にカール軍を攻撃するよう手配した」


「大丈夫なのかよ、そのナントカ侯爵って奴」


 二重スパイってことはないのかな。ちょい不安。


「あ、ちなみにゲタポ侯爵は気が弱いから虚偽の内通ってことはないと思うよ。胆力が無いからそうだとしてもすぐ分かる。それに、こちら側からはあんまり情報を渡してないからね。反故にされてもそこまで被害は被らんはず」


「そっか」


 成程。ゲタポ侯爵としても同じ貴族の軍勢を攻撃するよりは、裏切る可能性のあるカール軍を攻撃した方が気が軽いだろう。虚偽の内通だった時の予防線さえはってあれば、良い策略だ。


 俺の後ろから何人かの足音がした。振り返ると、そこには厳つい男が二人と怪しい気配の男が一人と赤髪の美女が一人。シュマンさんか。何時の間に来たんだろう。


「殿。そろそろ頃合いかと」


 騎士団第四部隊隊長ことシュマンさんが口を開いた。歩兵軍団第六部隊隊長、歩兵軍団第九部隊隊長の二人も同意見の様だ。怪しい気配の魔術師団第三部隊隊長は何も言わず三人の後ろでニヤついている。ロン毛で目の彫りも深く、いかにも魔術師って感じの容貌だ。


 彼らの目の先には、ジュネ将軍の奇襲で右往左往している連合軍の姿があった。ぶっちゃけ言って無様だ。カール軍と比べても情けなさすぎる醜態。雑魚オーラぷんぷんだし、結構余裕に片付けられるかも。


「そうか。では、どこを切り崩す」


 ジルは俺に対する先程までの緩い表情を一変し、固い空気を身にまとう。そうだな、それ位緊張感あった方がいいかも。俺も気合い入れよう。


 歩兵軍団隊長の一方が答えた。


「貴族軍ですな。まずは、チンジャウ伯爵の軍勢を攻めるのがよろしいかと」


「ふむ。そうだな」


 貴族軍から攻めるのは常道。敵の弱いところを先に攻めるのが戦術の王道だからだ。どっちみち精強なカール軍はゲタポ侯爵とかいう人に横槍を入れられて大混乱に陥るのだし、相手にしなくても貴族軍が壊滅すれば退却するだろう。


 十秒程黙考したジルはふと俺の方を向いて質問した。


「リョウ。何かあるか?」


 そーだなー。どっかの本で読んだナポレオンの戦術でもパクろっかな。あの戦術ってナポレオンが創始者ってことは近代に出来たはずだから、モロ中世のこの世界だと斬新じゃね。


 あの戦術を行うには魔術師が大砲の役割を果たさなきゃいけないのがネックなので、一応質問しよう。


「確か、魔術師団第三部隊は遠距離型だったと思いますが、よろしいでしょうか」


「うむ。大半はそうだ」


 よし、それじゃあ、ドヤ顔しながら近代戦術を披露させてもらいますか。


「では。魔術師団に一斉射撃をさせることで敵に一撃を与え、騎士団で敵を縦断させて混乱を深め、歩兵軍団一千で蹂躙する。これが最上の策かと」


 近代戦の応用だ。大砲をバンバン撃って、騎馬隊で敵を引き裂き、歩兵で勝利を決する。遠距離型魔術と大砲なんて大差ないのだし、問題ない。


「次善ですな」


 歩兵軍団第六部隊隊長、略して第六歩兵隊長が口を挟んだ。


「歩兵軍団を一気に投入するよりは、少しずつ投入した方が良いでしょう。チンジャウ伯爵勢は弱兵。ここで二千人投入するよりは、逐次投入した方が敵軍の士気はより下がるでしょう」


「うむ。確かに」


 と、第九歩兵隊長。え、何で?


「簡単な話です。次々と少しずつ戦力を投入していくとしましょう。我々が兵力を全て投入し終えても、敵は更に兵力を投入してくると思って士気は下がります」


 成程。戦力を全力投入して何時まで経っても増援しなければ、敵もこちらの兵力が三千にも満たないと分かってしまう。それよりは戦力を逐次投入した方がいいということか。


 でも、疑問も残る。


「いや、でも制圧した後も戦いはあるんだから、一気に投入して早く片付ける方がいいんじゃないの?」


 制圧するのが目的ならばそれでもいいけど、チンジャウ伯爵軍を倒しても敵はまだまだいる。それならば、さっさと倒す為に一斉に歩兵を投入した方がいいと思う。


 俺の考えを理解したのか、歩兵軍団隊長の二人は考え込む。ここで、魔術師団隊長が口を挟んで来た。


「この者の言うことには理屈が通っていますよ。お二人方も異存はないでしょう?」


 確かに、そうだな、と歩兵軍団隊長は納得してくれた。三人が賛成するなら俺の言ってることに間違いはないのだろう。失敗を恐れずに自分の意見を言って良かった。状況はより好転するみたいだ。


「では、制圧後のことについて話しましょうか」


 と、シュマンさん。先程までは議論に口を挟んでいなかったが、彼女はいち早く役目の終わる騎士団隊長だ。自分の役目が終わった後のチンジャウ伯爵軍制圧方法については興味がなかったからなのだろう。


 歩兵軍団第六部隊隊長が答える。


「我々歩兵軍団は状況の変化を見て臨機応変に対応するのだが、問題は騎士団と魔術師団だな」


 話を振られた魔術師団第三部隊隊長は一言「騎士団の援護に徹しますよ」と言った。笑みを浮かべつつ話すこの人は俺生理的に受け付けないわー。


「それでは、私達騎士団は貴族軍内部を駆け回りますね。貴族軍が壊滅した後は、カール軍を攻撃します」


「では、陛下。ご指示を」


 四人を代表して歩兵軍団第六部隊隊長がジルに指示を仰ぐ。指示といっても、俺達の話しあってたことを纏めるだけなんだけどね。


「うむ。では、チンジャウ伯爵軍に対して一斉に魔術を行使し、騎士団でチンジャウ伯爵軍を二分せよ。その後歩兵を一斉投入してチンジャウ伯爵軍を制圧する。右翼は第九部隊、左翼は第九部隊、中央は近衛隊だ。

騎士団はチンジャウ伯爵軍を裂いた後は、敵陣を縦横無尽に駆け巡れ。魔術師団は歩兵投入まではチンジャウ伯爵軍へ魔術を放ち、それ以降は騎士団の援護射撃に徹せよ。歩兵軍団はチンジャウ伯爵軍制圧後は各自の裁量で動け。

以上だ」


「「「「は」」」」


 テントを張った宿舎から外に出る武官達。ジルも付いていくようなので、俺も金魚のフンをする。


 外では既に兵士たちが戦闘準備を終えていた。ジルが国王専用の名馬っぽいのに乗った。場がシーンと静まりかえる。


「諸君」


 ジルは演説を行うらしい。兵士たちはその言葉を一言一句漏らすまい、と全力で耳を傾けている様子だ。中には笑みを浮かべている者も居る。


「これより、反乱軍の懐へと侵入する。彼奴等は亡き父上の遺言に背き、悪戯に国を乱すマクシムこそが王に相応しいと決起した。その数、およそ二万。ジュネ将軍の軍勢と合わせても、まだ我らの三倍以上ある」


 放つ言葉とは裏腹にジルは余裕気な表情をしていた。


「しかし、我らには大義がある。先代国王陛下の御世の様な、平和な世界を再びこのカタパルトにもたらすという、大義だ」


 その眼光は獲物を狙う高の様に鋭かった。


「三倍の兵力が何程であろうか! 平和を乱す物が何者であろうか! 我らには大義があり、そして我にはお主ら精兵がなんと二千五百余騎もおる! そして、向こう側には忠臣ジュネが率いる二千の同志が戦っている!」


 手を振り上げて、尚もジルは言葉を紡いだ。


「今こそカタパルト王国旗本の真の役目を果たす時!」


 一息おいて。ジルは声を張り上げた。


「すわ、かかれぇ!!」


 地を震わせる兵士の雄叫びと共に、ビスケット紛争第二の奇跡『コーランド電撃戦』が幕を開けた。

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