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異世界の智将  作者: トッティー
第二部 紫雷編
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第3章第11話 裏切りは俺の名前を知っている?(汗

 次の日。


 昨日もあったグランさんの厳しい乗馬訓練をきつかったなあと回想しながら俺は朝飯を食っていた。最早夢でも馬に追われる始末。俺はこの訓練で却って馬に対する恐怖感は倍増したかもしれない。馬じゃなくてスパルタモードのグランさんが怖いんだけどね。怒鳴って言うことを聞かせる訳ではないが、ともかく訓練がきつい。地獄の練習メニューだ。まあそのおかげで、乗馬できるようになって来たんだけどね。


 そして、その訓練は今日もある。三日って言ってたから今日で最後だろう。


「今日も午前中は戦術立案、午後は訓練かぁ。1日中ダラダラしたりできないのかなぁ」


 言った傍から自分の言葉に突っ込むようでアレだが、よくよく考えればこの世界には暇をつぶす物は無いんだなー。PCも携帯も本もテレビもゲームも無い。そう考えると日々やることがあるのはいいことだった。娯楽がたくさんあった元の世界が懐かしいわ。


 まあそもそも俺が何らかの作戦を立案しないと、カタパルト王国がこの世界から消えてしまう可能性が高いままなので、ダラダラする訳にはいかないのだが。ふむ。


「ご馳走様ー」


 朝食を片付けた俺の足は図書館へと向かう。静かで集中できる場所は他にないのだ。なんかこう、図書館の独特な雰囲気が良い感じの集中力を醸し出すんだよねー。勉強だってさ、家でやるとついついゲームしたりパソコンに手をのばしちゃったりするけど、図書館だと集中できるじゃん?


 図書館に着き、戦術関連の書籍がある所に座り込んだ俺は、今回採ろうと思っている作戦についての本を右の手に取った。ちなみに左手には戦場と予測される幾つかの場所の地図がある。今朝チャラ男が来て俺に戦場予測地等を教えてくれたのだ。恐らく昨日は思考に入った俺を気遣ってくれたのだろう。ありがたい。


「二万対四万。まあシャルロワに勝ったからもう少し味方は増えるだろうけど、軍勢が敵のほぼ半分じゃなぁ……。俺の考えている奇策が成功しても、勝てるかどうか微妙なラインだわ」


 グラビット鉱山を攻略し、周辺地域を次々と併呑しようとしているフリーダ皇国軍。カタパルト王国軍も寡勢なのにシャルロワ軍に勝った。よって士気は五分五分くらい。奇策を成功させるには綿密な打ち合わせがないと厳しいな。勢いで押し切れればいいのだが、士気的にそれは無理だ。半月くらいは指揮官総員で打ち合わせしなきゃ。待つ必要がある。


 でも、そのためだけに何もしないで待ってるだけじゃ時間が勿体ない。それに、完全に受けの態勢に入るのは危ない。攻めを見せつつ待つってのができればいいな。

 特殊部隊でも先行させて糧道でも叩くか。

 本格的に叩かなくても、小出しに様々な拠点を叩いていけば、敵はこちらの意図を読もうと思い慎重になるだろう。いや、こちらの意図を誤認させれば尚良い。


 カタパルト王国軍がフリーダ皇国軍の兵站線へ大攻勢をかけようとしている、とフリーダ皇国軍に推測させる様な動きをすれば、フリーダ皇国軍の形は多少なりとも崩れるだろう。そしてその瞬間、敵の思いもしない所を叩く。

 うん、これなら緒戦を制することも可能だろう。勝利で手にするものは少ないが、それでフリーダ皇国軍の動きを止めれれば十分だ。いい案見っけ。


 また、会戦での策を成功させる為には何か決戦兵力or兵器が必要だ。魔術師の部隊は確かに強い火力を持っているが、敵も同数の魔術師を擁しているのでそれだけじゃ不十分。信長みたく長い槍を使わせるか? ……厳しいな。短時間で長槍を使いこなせるようになる人数は少ないだろう。


 いや、待てよ。決戦兵器なら案外簡単に考えつくんじゃないか? 日本の教育水準は元の世界の中でも上の方だったし、科学の知識を生かせれば何かできるかもしれない。粉塵爆発なんて小説でよく使われているだろ。その要領でいけばなんとかなるかもしれん。カタパルト王国の科学者達にアイデアを貰おうか。


「ふむ。ここの地形、もしかしたら利用できるかもしれん」


 昨日チャラ男が言っていた「戦場になる可能性の高い」場所の一つだ。一定の時刻に雨が降るだとか霧が沸くだとかそういう地形は、異端者であるフリーダ皇国軍に対して悪い方向に作用する可能性が高いので大歓迎なのである。


「あれ?」


 そこで、俺はとある事実に気付く。視線の先は地図の中でもクリム城の周辺。大きな街道の全てがクリム城周辺にあるのだ。クリム城と関わりのない街道の中に大規模なものは、ない。つまり、クリム城こそがフリーダ皇国軍の兵站線の要所なのである。


 ライルという兵站の得意な将軍がいなくても、結局兵站を攻めるのは無理だった。頑張って食糧を奪ったり焼いたりしても、クリム城に支えられた兵站線がある限りフリーダ皇国軍が飢えることはないだろう。いくらなんでもこんなに固い城を落とすとか無理だし、最初から兵糧攻めはムリポだったらしい。




 その後落胆しつつも色々な策を検討し、もう大体アイデアが出尽くしたと思われるところで俺は図書館を出た。


 それにしても、あっという間に時間が経った。もう昼飯の時間だ。


「お前今度はアンの奴といちゃついてたんだって? 食えない奴だなあ」


「いや、誤解だよそれは! たまたま転んだ時に押し倒しちゃっただけだって!」


「羨ましいねぇ」


「人の話聞けよ!」


「いやいや、でも真面目な話、お前結構な人数の女の子に好意持たれてんぞ。この分だと、男まで落とせちゃうんじゃねーの?」


「だからそれはお前の深読みだって言ってんじゃんか!」


 前にも見たことがあるような童顔とサル顔コンビのやかましい遣り取りをぼーっとして聞きながら、俺はどんどんテンションが下がっていくのを感じた。悩みがなくて羨ましいなぁおい。こちとらたった十五歳で国の命運とか殺人の罪悪感を背負ってんのによぉ。


「あっ……すいません」


「いや、こちらこそすいません」


 おっと。自己逃避するあまりに周りへの注意を怠ってしまったようだ。ぶつかったのが俺より階級が下位の、恐らく下士官であろう童顔少年だったから良かったが。これからは気をつけよう。偉い奴にぶつかって変に絡まれたら困る。


 食堂に着くと、そこにはリディーさんがいた。最近あまり話してないな。随分懐かしい人物だ。軍服を着ているがあまり目立たない、地味な男性となにやら話をしている。


 プライベートな関係なのだろうか、いや、違うな。俺が見る限り、彼女は仕事と私事をきっちり分ける人物だ。リディーさんの鉄仮面の様なきつい表情も崩れていないし、仕事の話かな。

 そういえば、男性の着ている軍服のあの紋章は、確か隊長レベルの階級を示す物だった気がする。地味な男性は高級軍人なのだろう。やはり、仕事関係の話かな。リディーさんって軍事関連の知識も深いし。


 まあどちらにせよ俺には関係ないか。


「ん? これ新メニューじゃね。よし、これ頼むか。華零羅啞麺を一つ下さい!」


 要するにカレーラーメンである。カレーラーメンを新製品として店頭に出すなら、もっとポピュラーな味噌ラーメンとかをメニューにしろよと思わなくもないが、最近醤油ラーメンばかりで飽きていたのでいいタイミングである。この世界の華零羅啞麺は果たしてどのようなものなのか、期待は膨らむばかりだ。


「へい、お待ちィ!」


 待望の新メニュー華零羅啞麺。匂い良し。見た目良し。味は……味も良し!


「旨い旨い」


 俺はズルズルッとしばらく夢中で麺をすすっていたが、半分ほど食い終えた所でなんとなく顔を上げると、俺のよく知る人物が居た。ギルさんだ。

 厨房の近くから食堂全体を眺めているようで、ぼーっとした様子で立っている。何を食べるか悩んでいるのだろうか。


「こんにちは」


「おお、リョウ殿」


 柔和な笑顔を見せるギルさん。執事長兼国王専属秘書というVIPな役職を持つ彼は、食堂に居てもどこか異彩を放っている。


「奇遇ですな。私も丁度昼食を食べに来たのですよ」


 食堂にごはんを食べる以外の理由で来る人が居るのだろうか、と心中で野暮な突っ込みをしつつ、俺は少し恐縮していた。ギルさんみたいな大人物に私事で敬語を使われると、多少心苦しいものがある。仕事の合間の食事休憩ですら公的な時間だと考えているのか、もしくはデフォで敬語を使用しているのか。


 俺を目上だと見ている、ということはないだろう。まず、人間のクオリティーが違う。割と冷静沈着で、不良に絡まれた時でも電車にひかれそうになった時でもあまり動じなかった俺が、立ち会うだけで圧倒されるのである。俺の他人の内面を感受しやすい性質も原因の一つだろうが、ギルさんは敵に回してはいけない人である。


「では、また。今度の策も期待していますぞ」


 ギルさんはそう言うと、俺に背を向けて厨房の方へ歩いて行った。俺がもうすぐ食べ終わるのを見て、相席は遠慮しようと思ったのだろうか。しかし、羅啞麺を食堂のおっちゃんに頼んだギルさんは、ふと俺の方を向いてこう言った。


「裏切りには、お気をつけなされよ、亮殿」


「裏切り」


 裏切りに気を付けろって、つまり裏切り者が居るってことか? それとも……、


「貴方が思いもしない所。まったく警戒していない所。そういう所からの裏切りが、実は最も恐ろしいのですよ」


「思いもしない、者?」


「たとえば、私。貴方、私のこと警戒してないでしょう? 信用して下さるのは結構ですが、盲信してはならないですよ。それが恋人や家族であっても、ね」


少 し遠くに目をやりながら、語るギルさん。ギルさんの説法を聞けるのは有難いが、どうしたんだろ。


「は、はい……。気を付けます」


「これは紛れもない善意、いや、老婆心からのものですが。いや、つかぬことを言ってしまった。まあ、念頭に置いていて悪いことは無いでしょう、というだけのことです。お気になさらず」


 では、とギルさんは去って行った。もうちょっと具体的に聞きたかった俺だが、ギルさんは何かはぐらかす様な感じだったので深くは聞けなかった。う~ん。何か、妙な雰囲気だったなぁ。

これにて、第3章完結。次は間章を何話か挟んで、第4章に突入します。

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