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異世界の智将  作者: トッティー
第二部 紫雷編
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第3章第6話 無職への道のり

 秘密会議が終わり、閣僚たちはみんな退室した。俺とジルとギルさんだけが残る。


「リョウ。話がある」


 ジルがいきなり口を開く。何だろうか。俺はジルの顔を直視した。


「話、っていうのはさ。リョウの役職のことについてなんだ」


 俺の役職は秘書である。カタパルト王国の戦略行動について口を挟むのは本来ならば越権行為だ。ジルの寵愛がなければ俺は秘書を解雇、最悪の場合首を斬られているだろう。


「君の役職は秘書、だ。僕はそれ以上の大抜擢をするつもりはなかった。なかったんだけど……ちょっと状況が変わって来ただろ?」


 状況が変わったというのはフリーダ皇国の侵略のことだ。


「今のカタパルト王国が生き残るには君の智略が必要なんだ。五倍の兵力を率いたシャルロワ軍をも打ち破る作戦を提示したその能力」


 別に俺は能力がそんなに高い訳ではない。あの分断作戦だって、国王を囮にするという発想こそ斬新だったが、勝利のカギはカタパルト王国の兵士達の質の高さだった。もちろん訂正する気はない。相手が自分の能力を高く買っているのなら、それでいい。


「でも、残念ながら君はただの国王直属秘書に過ぎない。僕はこれから君の役職を上げていきたいと思うんだけど」


 確かに、このまま俺が越権行為をし続けるのはいいことではない。それなら、越権行為にならない程度の役職を与えてもらえばいいだけの話だ。


「確かに。俺もそれは思うよ。まあ俺はちゃんと実績を上げたから不満はそう出ないだろうけど。秘書って身分のままじゃ不便ではあるよ」


「そっか。だよね。もちろん、今すぐにリョウの役職を変える訳にはいかない。ただ、この戦争が終わったら君を然るべき役職にするよ。約束する」


 だから何だと言うのだろうか。俺にとって役職が高位になるのは嬉しいことだが、今話すことではない。まさに、とらぬ狸の皮算用である。


「分かった。他に何かある?」


「あ、いや……うん。特には」


 何故そんなことを言う為だけにわざわざ俺を呼びとめたんだろう。良く分からない。まあジルも何か考えることがあるんだろうな。瞳の色が少しだけ変わっている。


「じゃあさ、こっちからもお願いが一つあるんだけど」


 折角だから言っておこう。


「俺はもうすぐ秘書じゃなくなるんだろ? だったらさ、秘書の仕事じゃなくて他のことしてもいい? 少し気になることがあってさ。作戦の計画立案にもその方がいいと思う。今は兎にも角にも時間が足りないんだ」


 最後の言葉は嘘ではないが、気になることがあるというのは半ば嘘だ。俺が今時間を欲する理由は他にある。


「……いいよ。確かにリョウの秘書の能力は高いとはいえ、代わりが居ないと言うほどじゃない。どちらかと言えば作戦参謀としての能力を買ってるからさ。秘書室はそのまま使い続けていいよ」


 ぶっちゃけたなジルの野郎。まあ、いいや。通ると思っていなかった申請が通って俺は一安心。これで、ゆっくり心の整理ができる。


「じゃあね。…………失礼しました」


 俺は執務室を出て、自分の部屋に向かった。








 所変わって俺の自室。一人で部屋に籠って心の整理をつけるかぁと思ったのだが、先客が居た。……そういや、この部屋相部屋だったな。


「おう」


 リッツだ。久しぶりに会ったような気がする。まあ戦争の時は殆ど喋らなかったからな。お偉いさんの護衛と言うのは基本的に空気にならなければいけない。見ざる聞かざる言わざるの三ざる、だ。偉い人の護衛は四六時中離れない為に時には国をも揺るがす大陰謀を知ることもある。だが、そんな時でも護衛はその三ざるを貫きとおさなければいけないのだ。


「おひさ~。つーか、どうしたんだその傷」


そ して今気付いたんだが、リッツはその美形に切り傷が二、三箇所あった。護衛って、国王の傍に居るんだから戦わないはずじゃ……


「国王陛下の傍にいたからだよ。激戦だったんだ、傷の一つや二つ少ない方だろ」


 そういや、俺だったな国王に敵本陣へ奇襲するように言ったのは。


「んなことより、お前凄いことになっているぞ」


「え? 顔が?」


「違ぇよ。お前は、秘書の身でありながらシャルロワ軍を倒す秘策を献策したんだ。今兵士たちの一番の注目の的はお前だよリョウ」


 おー、と俺は感心しているのかどうでもいいのかよく分からない反応を示した。俺の本心をぶっちゃけると「棚ぼたじゃんw」っていう感じ。どこから広まったのか知らないが、俺が分断作戦を献策したことは周知の事実らしい。それは「リョウ・ヨシダは知恵者」という噂が広がっているということでもある。


 別に優越感に浸っている訳ではない。俺は世論がこちらに傾くのを単純に喜んでいるのだ。


 あの徳川家康も常に世論を気にしていたという。それで若い頃は「東海道一の弓取り」とか言われて良い評判だったのだ。そのネームバリューは凄まじく、関ヶ原の戦いに勝利した大きな要因の一つは評判の良さだと俺は考えている。

 つまり、勉強善し交友善し運動善しの優等生と賭け麻雀喫煙飲酒の不良の二人が居たとする。この二人が喧嘩したとして、どちらが悪いか大人の目から見たら理由を探さなくとも後者だと決めつけるだろう。つまりはそういうことだ。


 おっと閑話休題。


「まじか」


 とはいえ、そんなことでテンションが上がるほど俺に精神的な余裕はない。そのため、対応もいつもより淡白なものになった。


「あれ、あんまり喜ばないんだな」


 意外だったとでも言いたげな顔で俺を見るリッツ。まあ合理的な判断で喜んではいるが、それも些細な感情だ。今の俺の心は萎えと鬱が殆どを占めている。


「つーかさ、個室は無いのかよ個室。俺は今をときめく話題の天才軍師だぜ、もっと良い待遇しろや行政」


 まあ、冗談みたいなものだ。個室が欲しいというのは本音だけど、自分のことを天才だなんてこれっぽっちも思っていないし。


「だよな~。俺だって前の戦争では、国王陛下を守りながらも十六もの首級を上げたんだぜ。もう少し良い待遇しろっつーの」


 一人になりたいというのに……。王城は何処に行っても人の気配が絶えない。その上自室が個室じゃないとくれば、不満が出るのも当たり前だ。


「だよな~」


 ベットに腰掛けてリッツと駄弁りながら、これからどうするかを頭の片隅で考える。どうせ一人になれないんだったら、本当に秘策を考えるのもいいかもな。つか、秘書の仕事を自分から辞退した俺は暇人になっちゃったし、それ位しかやることがない。

 もちろん何も考えないとか何もしないという選択肢もあるにはあるのだが、今の最悪な精神状況ではそれはかえって悪影響だ。何かをして気を紛らわさないとやってらんないよ。


「なんかお前元気ねえなぁ」


 とりとめの無い話をしていると、リッツが不意にそう言った。まあ、元気が無いのは確かだ。


「まあ、色々と考えることがあってね」


 ただ、リッツは勘が鈍くて助かる。ここで色々詮索されると嫌な気分になってしまうのだが、そんな無神経なことリッツはしなかった。


「へえ……」


 本当は分かっていて追及しないのかもしれない。


 俺はさっきの思考に戻る。数秒で「そうだ、秘策を考えよう」という結論に達した。そうだな、とりあえずは執務室でジルに返した資料と第一級資料室にあるだろうカタパルト王国北部の地図を持ってこようか。俺は腰を浮かせ、この部屋を出ようと足を一歩前に踏み出す。しかし、俺の行動はつんざく様な奇声によって中断された。


「ああーッ」


 何だ? とその声の主、リッツの方を向く。些細なことでこんな変な行動をする奴じゃない。何か、大変なことに気付いたのだろうか。心配だ。


「おいどうした?」


 すると、リッツは唇をわなわなと(?)震わせて一言呟いた。本当にどうしたんだろうか。俺はこの世界での数少ない友人を本気で心配s


「ミクルとした約束。忘れてた」


 ……心配していた時期もありました。俺の思考を破って耳に届いたその言葉は色々と突っ込み満載だが。


「そうすか」


 なんでそんなことで百戦錬磨のお前がびくびくしているんだよとか、なんでラブコメの主人公やってんだよとか、色々言いたいことはある。でも俺はそれを口には出さなかった。


「んじゃ。お先に失礼するわ」


 急いで外に出る支度をしているリッツを横目に俺は部屋を出る。大方、そのみくるちゃんとやらとデートの約束でもしたんだろう。

 扉を閉め、俺はもう一度ため息をついた。今度のはリッツとは関係ない。今朝から安息の地がないことを嘆いているのだ。


 召喚される前は春休みでのんびりゆったり過ごしていて、家に居る時は暇な時間も多かったのになー。今じゃ穏やかに過ごす時間もないとは。


 つーか、これいつ元の世界に帰れんだ?

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