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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
3/85

第1章第2話 俺を無視するな餓死してしまう

 結局、俺は三時間ほど悩んだ挙句、今すぐ元の世界に戻るのを諦めることにした。

 事故って召喚されただけらしいから、何をさせられるというわけでもないらしいし。もし「神に選ばれし勇者よ。今民は魔王によって苦しめられている。どうか、魔王を討伐してほしい」なんて言われたら、死ねる自信があるけどね。

 それに、怒りも冷めたのだ。俺は自分で思っていたよりも薄情なのかもしれない。


 それはおいておいて、俺の当分の目標は生活費稼ぎだ。ここには親なんて居ないし。後でジルと相談してみよう。俺に気まずいという感情は無い!


 だが、それはそれで問題がある。


「腹減ったー」


 そう、ジルの奴がなかなか現れないのだ。こちとら一日間寝ていて飢餓状態に(おちい)っとるんじゃい!


 グーーー。


「あああああ」


 俺の喉は極限の空腹で枯れ、壊れたスピーカー並みの音しか出ない。なんという悲劇。体力も無くなり、椅子に座った俺は動けなくなった。このまま死んでしまうかもしれない。すると、


 コンコン。


 扉を叩く音がした。ジルの奴、やっと来たか。


「ジル様の御客人、リョウ殿ですか?」


 と思ったら、執事らしき人が来た。ベテランっぽい風格を漂わせている。若々しい黒髪とは裏腹で老練そうな顔つきが渋いねえ。

 一瞬猫耳メイド(もしくはドジっ娘メイドでも可)ではないことに怒りを覚えたが、その手には飯が! 俺の執事さんへの好感度が50アップした。


「は、はい。あの、ご飯を食べていいですか?」


「どうぞ」


 その言葉を聞いた俺は肉食獣のように食事の置かれたテーブルに走りこむ。人間は常に力をセーブしていて平時は50パーセントも出していないというが、それは真実のようだ。さっきまで感じていた体の重さは無くなり、俺の目には食事しか映らなくなった。




 ガツガツモグモググビグビ×20




「あー食った食った。」


 うぅ……。なんか執事さんを待たせるのは悪い気がしてきた。もう遅いけど。つか、何でここに残っているんだろう。


「いえ、ジル様から用事を頼まれたので。」


「心読まれた!?」


 この人は読心術でもたしなんでいるのだろうか。つか、用事って何だろう?


「ジル様がお呼びでございます」


 ああ、なるほど。まああれでも一応王子様だからな。わざわざ出向くわけにはいかないのだろう。

そう思い、とりあえず執事さんに付いていく。扉を開けると、道に沿ってカーペットが広がっていた。柄は紅白で、いかにも王城といった感じだ。壁には絵画や彫刻品などの美術品がかかっている。高級そうだなぁ。


 それにしてもここ、王城というよりは迷路みたいだな。部屋を出てから何回曲がったっかもう分からないし。ということで俺は頭がこんがらがるのでこの城の地理を頭に入れるのは止め、いかにも名匠が創ったような物をボーっと見ながら俺はしばらく無言のまま執事さんに付いていくことにした。

 つか、まだ?


 そう思ったら、執事さんは他よりも幾分か豪華な扉の前で止まった。この部屋にジルが居るようだ。


 コンコン。


「ギルバートでございます。」


 へえ、執事さんの名前ギルバートっていうんだ。


「おう、入れ」


 入ると、そこは執務室みたいな場所だった。大きな机の上には書類が重ねてある。そしてなんと、横には美人な大人の女性が!歳は恐らく二十代前半。理知的な瞳とウェーブのかかっている長い黒髪が印象的な、可愛いと言うよりも綺麗だ、と表現すべき美しさである。

 すると見られているのに気が付いたのか目が合ってしまい、少し気まずくなりつつも俺は机の前にあるソファーに座った。


 ああ、ジルの奴うらやましい。どうせこのお姉さんも美形であるコイツにかかればあっという間に初心な少女になっちまうんだろ。いや、妬み過ぎかwwww。


「で、何の用だ?」


「どうやら気持ちに折り合いがついたようだね」


 ジルはほっとした顔で言った。まあ、俺が怒っていたらそれを鎮めるのも面倒くさそうだしな。


「ああ」


「聞きたいことがあったら、何でも聞いてくれ」


 わざわざお前に聞かなくてもギルバートさんに聞けばいいんだけどね。まあ、召喚されたことに負い目を持っているんだろう。多分。

 さて、聞きたいことか。ふむ。とりあえず俺の処遇だな。異世界から来た俺は知り合いがジルしか居ないので、微妙な立ち位置にある。流石に見捨てるなんてことはないだろうが。


「俺はこれからどうすればいいと思う?」


「そうだね。リョウをこの世界に召喚したのは僕の不手際だから、僕が責任を取るよ」


 責任、ねえ……。


「じゃあ俺を雇ってくれよ。ただで養ってもらうんじゃ他の人が不満を持つだろうからさ」


 それに、ただ養われるのもしゃくだ。


「何かできることはあるの?」


 確かに。できること何もないじゃん。せいぜいが雑用くらいしかできねえ。本職の執事やメイドにはとてもじゃないけど敵わないからな。

 いや、待てよ。俺には異世界の知識がある。それだけでも大きな武器になるし、取り柄が無いって答えるのはプライド的にアレだ。


「無い。……けど、俺には元の世界の知識があるし、頭も回る方だった。少しは役に立つと思うぜ」


「じゃあ、僕の話し相手にでもなってもらおうかな。身分は使用人だから低いけど、事実上の側近だから気にしなくていいよ。」


 使用人。悪い響きだな。俺が一人でみじめに雑用をする姿しか思い浮かばない。いや、使用人の人を蔑視している訳ではなく。貴族とか王族の使用人って色々無茶ぶりさせられそうで怖いじゃん。

 だが、ここでぜいたくなことをいうのもなんだし、ここで言い返してギルバートさんとかそこの秘書さんに悪く思われるのは後々悪い方向に作用する気がする。


「他には?」


「この世界の歴史とか。知識はゼロに等しいからさ」


「そうだね。簡単に説明をしよう」


 ジルから聞いた話は簡単に纏めるとこんな内容だった。


 この国の名前はカタパルト王国。ジルは一応この国の王位継承者で父親は第二十四代国王らしい。あとは大体がテンプレ。魔法があったり騎士団があったり戦争があったり魔物が居たり。


 地理的な説明をすると、東には大河を挟んで広大な土地が広がっている。しかし、そこは紛争地帯で数々の勢力がひしめきあっているという。確か、イピロスとか何とか言ったっけ。南と西は海で、北は中原と呼ばれているカタパルト王国以上の大国が覇権を争っているという。この大陸はアリア大陸というらしい。(余談だが、このアリアというのはかつて世界を悪魔から守ったとされている英雄神である)


 歴史的な説明をすると、今はアリア歴1600年。アリア歴1200年くらいまで大陸を治めていたピタゴラス帝国が崩壊してからかれこれ400年ほど戦火が絶えないらしい。一時的に平和になった時期もあったがすぐその体制も崩壊したんだとか。


「へえ。あとさ、もう一つ質問。俺の使っている言語は日本語っていうんだけどさ、何で言葉が通じるの?」


「この国で使われている言語は、カタパルト王国を建国したケンジという人物が広めた言語なんだよ。日の丸語といわれている。カタパルト王国以外では主にイングリ語と大陸語が使われているんだ」


 イングリ語って、明らかに英語だろ。

 ただ、けんじという名前から早くても明治時代の人だろうし、文字も通じるな。良かった良かった。けど、戦前って確か右から左に読むんだったよな。めんど。


「もう無いの?」


 無いわけないだろう。俺はこの世界をほとんど知らないんだぞ。

ま、そんなのおいおい知っていけば良いことだし。急ぐ必要は無い。そして、それよりも重要なことがある。


 信用できる人物がジルしか居ないことだ。


 俺は今のところジルすら心からは信頼していない。だが、ひとまずの信用はしている。実は俺には何かの才能が眠っていてその力を利用するために飼い慣らそうとしている、とかいう事情かもしれないがそれでも大変になるのは後々のことだろう。しばらくの生活には苦労しまい。


 だが、他の人はどうだろうか?


 この国がたとえ王制だとしても、いや、だからこそ派閥とか政争とかはあるに違いない。そして俺はそういう情報を全く知らない。これは拙い。もしもばったり要人と会ったりしてジルとの関係を問い詰められたらアウト。もしかしたら処刑されるかもしれない。いや、悲観し過ぎかなこれは。


「俺の素性を知っているのは誰だ?」


 ジルはう~んと悩んでいる。あの美人秘書さんは何か呟いている。あの人さっきから俺をがん見してきて嫌だわー。恥ずかしい。ギルバートさんは無言。だが、こころなしか微笑しているようにも見える。


「まずここに居る二人。それから僕が召喚の練習をしていた時に立ち会った大魔導士のハンナ。彼女には一応口止めしておいたから誰にも伝わっていないと思うけど。それぐらいかな」


「国王は?」


「父上にもまだ知られていないよ。父上は今異民族反乱軍討伐の為に、ビスケット城で軍を編成しているから」


 良かった。国王なんて胡散臭い奴信用できないからな。

 それにしても、異民族討伐か。人種差別があるっぽいねこの世界でも。


「じゃあ、俺のこと秘密にしておいてくれないか?信用できるかどうか分からないし」


「……。いや、多分ばれると思うよ。それに隠していたことを怒られるかもしれないし。でも大丈夫。父上には僕から話を通しておくから」


 う~ん。まあ、大丈夫かなぁ。いや、大丈夫だ。なんとかなる。


「頼んだ」


 すると、会話が途切れたのを察した美人秘書さんがすかさず会話に割り込む。


「ジル様。閣議の時間が迫っています。お急ぎを」


「分かった。じゃあね、リョウ。ギルバートに部屋とかその他諸々を教えてもらって」


「おう」


「ギルバート、頼んだよ」


「分かりました」


 美人秘書に先導されて、部屋を出ていくジル。どうやらかなり急いでいるようだ。すると、ギルバートさんが言った。


「では、付いてきてください。部屋を今すぐには用意できないので使用人の相部屋になりますが」


「あ、はい」


 そう言って部屋を出ていくギルバートさん。それにしても、相部屋かぁ。相手が気難しくなければ良いなぁ。

ここまで読んでくれてありがとうございました。トッティーです。


ああ、早くシリアスパートに進みたい。ただ、ろくに世界観も人物も出していないのでそうはいかないのが現状です。できるだけ早くしますが、マンネリ化しては困るので笑いも入れたいですねww。才能があるかどうかは分かりませんが。

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