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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
26/85

第2章第15話 終局

 シャルロワ軍別働隊退却。


 シャルロワ軍本隊を打ち破ったジル軍だったが、もしかしたら別働隊一万が進軍速度を緩めずに王都へ進軍するかもしれないので、速やかに王都の方向に戻った。しかしそれは杞憂だった。シャルロワ軍二万人が僅か四分の一しか居ないジル軍に敗走した、という報せを聞いて別働隊の長が退却を決心したそうだ。


 連戦にならなくて一安心だ。激戦で兵士たちは相当疲れているだろう。もしも別働隊と交戦したら大敗したかもしれない、というか多分負けていただろう。俺は、安堵のため息をついた。


「なあジル、兵士はみんな疲れているの?」


 試しにそう聞いてみると、ジルはかぶりを振った。


「いや、激戦の疲れよりも勝利の喜びが勝っているみたいでさ。凱旋を楽しみにしているよ」


 凱旋か。俺はジルの言葉を聞いて、ふと想像してみた。パッパラパーというラッパの音と、それに合わせて王都で行進するジル軍。天皇よろしくにこやかに国民に手を振っている馬上の国王ジル。


 確かに、命がけで国を守った彼らにしてみればテンションが上がるだろう。


 ちなみに、ここはジル軍の陣営。俺とジルと護衛のリッツしか居ないのでタメ口である。場所は、……何だっけ。忘れたけど、あと二日で王都に到着するらしい。


「まあ、凱旋と言っても所詮内乱の鎮圧を収めただけなんだけどね。しかもまだ内乱は終わっていないし」


 いや、むしろ始まったばかりだろうとジルの言葉に俺は心の中で付け加えた。反乱軍は、一度打ち破ったとはいえまだ降伏も全滅もしていない。東からはカール一族が攻め寄せてきているし、北からは大国フリーダ皇国の攻勢が厳しい。南のマグナ族も相変わらず反王国一色だ。


 もちろん、この戦いで戦況は一気に楽になった。一度シャルロワ軍を打ち破ったので、反乱軍からジル側になびく貴族は多いだろうと予測されるのだ。しかしシャルロワ等反乱軍の首魁はフリーダ皇国と深いつながりがあるだろうし、そう簡単にはなびかない。少しでも内憂を抱えている状況で北東南三方の外敵と争うのは厳しい。つまり、プラス10マイナス110で合計マイナス100といった感じだ。


 前途多難である。


 閑話休題。今回の戦いの顛末(てんまつ)を纏めておこう。


 シャルロワ軍をなんとか撃破した俺達だったが、まずシャルロワ軍の別働隊が退却したのは前述のとおりだ。また、タケチュリア山道入口付近の五千人も同じく退却した。味方のジル軍千人は、無傷。恐らく今後時間の経たないうちにまた戦争するだろうが、彼ら千人が要となってくるだろう。


 さて、シャルロワ軍別働隊に相対した千人のジル軍だったが、彼らも奮戦したようだ。破竹の勢いで千人のジル軍を粉砕しようと攻めてきた相手に対して、魔法で守ったらしい。とにかく専守防衛。柵を作って、その中から攻めてくる敵に対して中長距離魔法を放ちまくった。なんとか柵の地点を突破した敵兵も槍や刀や近距離魔法で一人残らず殺された。もちろんこれは俺の指示。


 こうしてなんとか一日目を凌ぎ切ったジル軍。その日の夜には奇襲を繰り返して敵兵に精神的肉体的疲労を積ませた。二日目には敵の攻勢も大分落ち、午後には魔力が底を尽きかけたらしいがなんとか守りきった。そしてその日の夜。奇襲をしようとしたら、シャルロワ軍は逃げ去っていたらしくもぬけの殻だった。


 こんな事情で別働隊と堂々やりあったので、この千人もかなり疲れている。


「陛下」


 陣営に、諜報員が入って来た。何か報告することがあるらしい。毎度の如く悲壮な顔だ。


「フリーダ皇国軍がクリム城を落としました。ベル伯爵は自刃したようです」


 フリーダ皇国は四万という圧倒的な兵力で、ベル伯爵とやらが立て篭もったクリム城を力攻めしたらしい。あいにく、楠正成(南北朝時代に活躍した武将。後醍醐天皇について二十万もの幕府軍に対して僅か五百の兵で渡り合った)のような人は居なかったのか。


「であるか。下がって良い」


 ジルの顔はそこまで陰りを見せていない。想定内だったのだろう。


「陛下」


 今度は別の諜報員が入って来た。


「東方のカール一族一万人の侵攻に三千の兵力で相対しようとしたジュネ将軍でしたが、後方から八千の賊軍に襲撃され敗走。なんとか立て直したようですが、一万八千となった東方の敵軍はますます勢いを増しているとのこと。援軍を要請してきています」


 おいおい。これから俺達は四万もいるフリーダ皇国軍と戦わなければならないんだぞ。援軍とか無理無理。カール一族と戦っている間にフリーダ皇国がカタパルト王国を荒らしちゃうよ。


 ジルの顔も幾分か余裕を失っている。折角五倍ものシャルロワ軍に勝利したのに、こんな奇跡を何度も続けないといけないなんて、とでも思っているのだろうか。


「……、であるか。下がって良い」


 どーしましょ。どーしましょ。このままじゃカタパルト王国が滅亡しちゃう。内心はこんなもんだろう。


 俺としても、もしもカタパルト王国が滅亡したら、唯一の召喚術を行使できる人間の居るセリウス王国に接触する手段がなくなるからな。あまり他人事ではない。戦争がリアルだってことは実感したけど相変わらず俺の思考回路はゲーム感覚だから、気を引き締める必要があるだろう。


 さて、と。なんか起死回生の案でも無いかなぁ。


 まず北のフリーダ皇国軍に付いて考えてみよう。彼らは四万という大軍を率いてカタパルト王国に侵攻してきた。わざわざ標高の高い山まで越えて大軍を率いてきたのだから、グラビット鉱山だけが狙いではないだろう。クリム城を落とし、既にグラビット鉱山の地域は制圧しているだろうから、次の狙いは何かと考えてみる。


「ふ~む」


 地図をよく見る。…………お?


 俺が着目したのは、グラビット鉱山を背にしているクリム城の立地だった。クリム城がカタパルト王国側に属しているなら問題はない。しかし、フリーダ皇国側に属していると仮定すれば、孤立しているのだ。フリーダ皇国に面している北側は殆ど山に遮られており、咄嗟に援軍を送りにくい。平地を通るのと山を通るのではかかる時間が違うのだ。もしもカタパルト王国が全軍を以て攻めれば、援軍が山を越えてクリム城に到着する前にクリム城はカタパルト王国の手に落ちてしまうだろう。


 ならば、クリム城から南方の一帯を制圧するだろうな。そこら辺を全部フリーダ皇国のものにすれば、援軍が山越えするまで耐えることができる程度の戦力を徴兵・保持できる。


「ジル、どっちから片付けるつもりなんだ?」


 どっち、というのはフリーダ皇国軍とカール一族&反乱軍の二つだ。ジルは、不機嫌そうに返した。


「決まっている訳ない。馬鹿なことを言わないで」


 そりゃそうだわな。すまん、と謝り再び思考する。


 どちらを先に潰すか。


 勝利前提なのは仕様だ。てゆうか、どちらと先に戦うにしても、負けたら終わりなのである。とりあえずフリーダ皇国カール一族が撤退するまでは、連勝しなければならない。


 さて、どちらと先に戦うかだが。まず、フリーダ皇国軍と戦った場合を考えよう。超超頑張って勝ったとして、一万八千ものカール軍(カタパルト王国反乱貴族含む)を三千人しか擁していないジュネ将軍が足止めできるか。できないね。ジュネ将軍が無能って訳ではないけど、六倍の敵に勝つなんて奇襲が成功しない限り無理でしょ。


 しかもフリーダ皇国軍は一度破られたところで、クリム城で態勢を立て直すことができるのだ。俺達は城攻めなんかしているとカール軍に王都を落とされるので、一旦王都に戻るしかない。そこでカール軍と戦い撃退する。しかしその間にフリーダ皇国軍は態勢を立て直し終わり、再び戦わなければならないだろう。


 ここで問題となるのは南に敗走したシャルロワ軍だ。彼らも俺達が何度も戦争している間に態勢を立て直し、北上してくるに間違いない。前門に虎、後門に狼ってのを具現化することになる。ここからさらに二連勝しなければならない。きついね。


 ということで、フリーダ皇国軍を先に倒すととんでもないことになりますね~。という結論に達した。


「じゃあカール軍が先か?」


 俺は誰にも聞こえない位小さな声で呟いた。横目でジルを見るとジルもまた何かを考えているようだった。あまり話しかけて欲しくなさそうな顔をしているので絡むのは控えておく。


 思考を継続しよう。


 カール軍を先に倒したらどうなるか? どうやって撃退するかは置いといて。


 あれ?こっちの方がもっと駄目じゃね?カール軍なんか相手にしているうちに、フリーダ皇国軍が北方を全て制圧しちゃうじゃないか。南からはシャルロワ軍が再起するだろうし。


 結論。またの名はQ.E.D。


 まともにあんな奴ら相手にしていたら駄目だね。北東南どれか一つを相手にしていると残りの二つがのさばる。


 じゃあ他にはどんな作戦があるだろう。たとえば、三つの内どれか一つと和睦するとか。お?これはいいかもしれない。


 北のフリーダ皇国軍。駄目だ。講和する条件で北の大地を丸ごと奪われてしまうだろう。


 東のカール一族はどうだろうか。また、東や南の反乱貴族。……和睦は無理だ。てゆうか、よく考えてみればわざわざ攻め入っている時点で和睦とかしてくれないだろ。


 全然よくなかったな。


 でも、今の思考で一ついいことを思いついた。


 反乱貴族の懐柔。反乱に参加した貴族は、恐らくシャルロワの様な積極派と積極派に誘われて参加した消極派に分かれる。フリーダ皇国と直接つながっているだろう積極派はともかく、消極派ならカタパルト王国側に内応(裏切り)してくれるかもしれない。俺達は先の戦いで勝利したのだ。勢いはこちらにある。


 いわゆる、離間の計ってやつだな。これは使える。功を奏せば、戦っている時相手の足並みが乱れたり反乱貴族の一部がこちらに寝返ってくれるかもしれないし。


 さて、起死回生の策を考えなきゃ。戦争で勝つ手段も大事だけど、とりあえず頭を整理しよう。


 三方から押し寄せる敵軍。俺達はこれを撃退しなければならない。各個撃破を繰り返し、五回位勝てば敵は全て撃退できるかな。もちろん奇跡が五回も続くはずもなく。なるべく戦わずに済めば嬉しいんだけど。


「……、思考、思考、思k――――ッ」


 遠交近攻という文字がふと頭に浮かぶ。これだ、と亮は目を輝かせた。


 そもそも、遠交近攻とは、外交姿勢のあるべき一つの姿だ。遠くの国と親交を結び、近くの国を攻める。遠くの国とは戦争できないし、近くの国と仲良くばかりしているといつまで経っても領土を広げられない。領土拡張政策を取っていたのなら当たり前とも思えることである。


 さて、今は逆に攻められている訳だが。俺が思いついたこと。それは、「フリーダ皇国周辺の小国やカール一族領周辺の豪族とよしみを通じて(仲良くして)、フリーダ皇国やカール一族領を攻めさせればよくね?嫌でもカタパルト王国に進めている兵力を本国に戻さなきゃいけなくなる」という考えだ。


 そんなにうまくいくはずもないだろうが、全力を尽くすのはいいことだ。もしかしたら、敵が本当に退却してくれるかもしれない。


 他に何か良いアイディア無いかなぁ。要は、戦争せずに敵が退却すればいいんだろ?う~ん。


「駄目だ、もう頭が働かない」


 大体、人生初の戦争が終わって疲れているんだ。もう寝よ。


 そう思いジルの方を見てみると、未だに難しい顔をしていた。何を考えているのだろう。まあ、ジルは国王だけど俺も国賓みたいなもんだし、気兼ねする必要ないでしょ。


 俺は、座りながら目を閉じた。すると、睡魔がいきなり襲ってきて、意識は一分も保てずに落ちた。

第一部終了

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