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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
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第2章第10話 戦場

「オオォォォォォォォーーーーッ!」


 鳴り響く喚声。あちらこちらで剣と剣がぶつかりあう音が聞こえる。ここは、戦場。ブルゴー騎士団長率いる三千五百がシャルロワ軍に突撃したのだ。


 俺はただの一般人。それをブルゴー騎士団長も分かっていたはずだ。なのに、どうしてこんなことに…………あれ?


「うわあっ」


 ぼーっとしていたら敵の兵士が剣で斬りかかってきた。驚いて一歩後退すると、兵士は手首を返して下から斬り上げる。


「やば――――ッ」


 手に持っていた軽量剣で刃を交差させなんとか防ぐも、咄嗟のことだったので強く握れなかったのか俺の剣は後方に飛んでしまった。兵士の顔が狂笑に歪む。兵士は剣を握り直し、俺の胸めがけて剣を突き出した。


 グジュ。


「クッ」


 俺は態勢を崩し後ろに転んでしまった。土が濡れていて、足を取られたようだ。運の良いことに、その動作は敵の突きを避けていた。兵士は剣を突いて伸ばした手を元に戻し、倒れた俺を刺し殺そうと剣を天高く振り上げて――――ッ


「ぐあァッ」


 瞬間、俺は丁度兵士の金玉の下にあった足を上に振り上げた。兵士はうめき声を上げながらのけぞり、俺を睨みつける。自業自得だ。


 再び態勢を整えて俺を刺し殺そうと剣を振り上げた兵士だが、横から味方の騎士が槍で一閃してくれた。兵士は血を吐き、俺に呪うような視線を向けた後ゆっくりと倒れた。


「……ありがとうございます」


「ほう。君があのリョウ殿、だな。そんな格好している者は他に居ない」


 全身を鎧兜で覆っているので性別は分からなかったが、どうやら女性らしい。ソプラノの澄んだ綺麗な声だ。……って、なんで俺有名なの?


「あの……何故俺だと……?」


「噂はかねがね聞いているよ。聞いたよりは悪い人物ではなさそうだな。意外だった。ほれ、これが貴方の剣だろ」


 投げつけられた剣を受け取る俺。そして俺は、助けてもらったお礼を言っただけで驚かれる程度には悪評らしい。


「では。幸運を祈る」


 動揺している俺を余所に彼女は敵軍へと雄(?)たけびを挙げて突っ込んでいった。二、三人の兵士に囲まれるも全く押されることなく互角に戦っている。


 呆けた俺がようやく正気に戻ると、周りには味方しかいなかった。どうやら、ブルゴー軍はシャルロワ軍を押しているようだ。


「ふう、良かったわ小学生の時剣道やっていて」


 俺は一回敵兵士の剣を防いでいた。あれは、剣道の経験のおかげだ。俺は元の世界では剣道部に在籍していた。一番良かった成績でも県大会三回戦負けとあまりパッとしないから、あれは恐らくまぐれだろうが。


 ふと、さっき騎士の女性に殺された敵兵士に目を向けてみる。そこにあるのは死体。周りには血が散乱し

、体からは内臓が見え


「おえええェーッ。ハア……ハァ……気持ち悪ぃ……」


 口から溢れ出るモノ。黄土色で泥の様な質感を持つソレを、俺は地面に吐き出した。元来グロい系統の物に苦手意識は無いが、平和主義の国日本で育った俺にグロい死体は流石に守備範囲外だった。


「俺も……こうなってたかもしれないのか?」


 俺の問いに答える者はいない。だが、ここに至ってようやく実感した。


「戦争は、ボードゲームなんかじゃない。遊びなんかじゃないんだ。何で今まで気付かなかったんだろう。戦争は――――殺し合いだ」


 体中を恐怖が駆け巡る。死ぬかもしれない。俺は、いまこの瞬間も死の危険に晒されているんだ。


 嫌だ、死にたくない。死にたくない。死にたくな……いや、違うか。死ぬわけにはいかない。元の世界に戻る為に、ここで死ぬわけにはいかないんだ。


 再び思考が冷静になった時、既に俺は答えを導き出していた。適当に後ろから見てれば死なない。流れ弾に気をつけていれば、安全だ。


「さて、と」


 とりあえず周りの様子を観察する。半径十メートル以内に敵は居ない。だが、二十メートル先の前線では激戦が繰り広げられている。兵も、死に物狂いだ。まあ混戦になっていないようなので安心した。


 しかしその矢先。前方から敵の兵士が突進してきた。


「お前は旧王国勢だなッ」


 若い金髪の男。凡庸な顔立ちだが、自信ありげな空気を纏っている。俺が慌てて剣を構えなおすと、男はその手に持っていた槍先をゆっくりとこちらに向け、獲物を見つけた狼の様にギラギラとした視線で俺を凝視してきた。


「お前で三人目だ……悪く思うなよ、俺の出世の糧になってくれッ」


 三人目って俺殺されること確定かよ。どんんだけ自信があるんだこの野郎。


 男は上下左右に足を動かしながら少しずつ間合いを近付ける。俺も同様に足を動かしながらタイミングを計っていた。俺が狙っているのはカウンターだ。男は槍を持っているのだから当然突きを放つだろう。その突く瞬間に上がる手首を斬り落とす。


 十秒ほど対峙し、男はようやく自分の間合いに入ったのか一瞬後ろに体重を移動した。そして、槍を突き出す。


 ビュン、と。その槍は空気を切り裂き、穂先を俺の胸へ向け一直線で迫ってきた。予想外に速い。俺は咄嗟に槍先を左側にいなした。カウンターする余裕が無かったのだ。しかし男はその力を利用して左上に槍を掲げ、


「うおおおぉっ」


 斬り下げた。


 しかしその槍は空を切る。剣では防ぎきれない、そう確信した俺が後ろに跳んだのだ。そしてその選択は正解だった。相手は今槍を地面に対して打ちつけてしまい、隙を見せている。今しかない。


 俺は左足に体重をかけ、敵に向かって跳んだ。剣先は敵の首の高さと同じ。狙いは――――突きだ!


 だが相手もさる者。後ろに下がりながら首を右に捻って俺の突きを避け、それと同時に手首を返して俺の腰を下から斬り下げようとしてきた。カウンターだ。俺の動きを見透かしていたのか。だが、


「甘い」


 俺の剣は男の喉を切り裂いた。男の避けた方向に剣を水平移動したのだ。首からは血が噴水のように噴出し、男の体は崩れ落ちる。首を斬られたので、男は断末魔さえあげられずこの世を去ることとなった。


「ハア、ハァ……」


 たった十秒足らずで勝負は決したのだが、それでも俺は息を乱していた。ジルに誤召喚されてから、運動なんて殆どやっていないのだ。体力が落ちているのは当たり前である。剣道の勘が鈍るほどこの世界に居なかったのは救いだったな。


 閑話休題。今の戦いには、俺が勝利する二つの要因があった。


 一つは、剣道をやっていたということ。前述の通り俺は中学生の頃、剣道部に入っていた。だからこそ、敵の突きをいなしたり咄嗟に後ろに下がったり首を正確に突いたりできたのだ。さっきの男は戦い慣れてはいてもスピードはなかったので、お世辞にも剣道が強いとはいえない俺でも勝つことができた。


 そして、もう一つ。それは、俺のこの傍観者じみた性格だ。最初こそ動揺したものの、俺はこの異世界にすぐ馴染んでいった。チート能力を授かった訳でもなければ、この世界に居場所を見つけた訳でもないのに、だ。それに、前述の剣道県大会三回戦負けだってそう。俺は予選すら突破できない程の実力だったのに、県大会に進出しさらには二回も勝利することができた。全国大会優勝とかしている最強系主人公には見劣りするものの、俺的には快挙だ。


 そう、俺はいつだって冷静になることができるのだ。だから、俺は命の取り合いだと言うのに冷静に戦うことができた。


「それにしても、やっぱ死体は気持ち悪いな……」


 もちろん、一般人なので死体を見て平然としていられるほど冷静ではない。


 俺は迫りくる吐き気を堪えて、辺りを見渡した。俺のすぐ前では二人の男が剣戟をぶつけ合い、激闘を繰り広げている。いつのまにか混戦になっていたようだ。……ヤバい、ヤバいぞ。混戦ってことは前後左右どこから敵が攻撃してくるか分からないってことだ。


 とりあえず剣をちゃんと握って臨戦体勢を整えた。さっき二回とも助かったのは運が良かっただけなのだ。一回目は騎士の人が助けてくれなかったら死んでいたし、二回目も綱渡りだった。油断してはいけない。


 瞬間。


「おおオォォォーッ」


 空気が変わった。ブルゴー軍の騎士たちが喚声を上げているのだ。その視線の先には、先程俺を助けてくれた女騎士の姿。馬上で彼女はいかついおっさんの首を持ち上げている。首の根元からは血がジュルジュル垂れており、グロイことこの上ない。彼女の手は垂れる血で真っ赤だ。


「敵将、ペケ男爵討ち取ったり!」


 敵兵士たちの顔が変わった。ついさっきまで数で勝っているとはいえ精鋭であるブルゴー軍に対してあんなにも必死で戦っていたのに、彼らの顔が恐怖に歪む。副官らしき男が声を張り上げて恐怖にとりつかれた兵士たちを纏めようとするが、すぐさま女騎士に首を斬られた。


 敵兵士の理性はそこで完全に切れた。情けない声を出しながら、味方の居る本陣に逃げていく。背を向けて逃走しているので、後ろから矢で射たれたり剣で斬られたりと散々だ。


 もちろん俺は逃げる敵を追ったりはしない。自分から死地に飛び込むなんて兵士でもない俺がそんな危険なことする訳ないだろう。逆に、俺は周りを警戒しているくらいだ。追いつめられた敵兵士が俺に危害を与えてくる可能性も無きにしも非ずだしな。


 一分位経っただろうか。女騎士は潰走した敵を追うのを止めた。


「急いで小隊ごとに纏まれ。すぐに敵と当たるぞ」


 どうやら、女騎士がこの二百人程を指揮する権限を持っているようだ。さて、次からはちゃんと後ろで安全確保しなきゃな、と今回死の危険に二度も晒されたことの反省をしていると、女騎士が話しかけてきた。


「リョウ殿、先程敵兵士をたった十秒で葬った動き、なかなか良かったぞ」


 いや、一分経つか経たないかで敵軍を潰走させたあんた達の方が凄いでしょうよ。こんなに質の差があったのなら、わざわざ戦略立てなくても真正面からぶつかって勝てた気がする。


「こちらこそ、貴方に助けてもらえなければ今頃死んでいたでしょう。ありがとうございます」


 とりあえず、謝礼をば。命を助けてもらったのだ。感謝しきれない。……ん?今彼女何か呟いていなかったか?


「あの、何か?」


「いや、なんでもない。……そうだ、まだ名乗ってなかったな。リョウ殿は私の名前を知らないだろう。私の名は、エレナ・シュマンだ」


 へえ、シュマンさんっていうんだ。


「シュマン隊長、用意ができました」


 副官らしき男が言った。兵士は皆整列している。……また戦場に行かなきゃいけないのか。嫌だなぁ。


「分かった。……皆の者、今度はプリクト侯爵の軍勢を潰すぞ! 気を抜くなよ!」


 シュマンさんもまた気を引き締めて、小隊を指揮しようと副官の位置まで戻ろうとする。


 しかし、不意に振り向いてシュマンさんは俺に向かってにやつき、そして健闘を祈ると言った。……不思議だ。俺がにやついてもキモいとしか言われないのに、シュマンさんがすると頼もしい。


「健闘を祈る、か。……こっちの方こそ祈ってるよ。あいにく俺は戦場じゃあ何もできないんでね」


 今も、戦況は刻々と変化している。だが、戦争なんか経験したことの無い俺なんかが口出ししても意味がなく、今の俺は居ても居なくても変わりがない。あとは俺の立てた作戦を彼らが実行するだけだ。もう俺の出る幕は無い。

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