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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
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第2章第8話 前夜

 何も考えずにずっと歩いていると、十分ほど歩いた後にやっとジルの陣幕に着いた。もちろん周りは精鋭の中の精鋭近衛軍に厳重に警備されているので近寄ったら威嚇(いかく)されたが、身分証明書を見せたらあっさり引き下がってくれた。

 黄門様を真似して「この身分証明書が目に入らぬかァーッ」と言おうとしたんだけど、別に俺そこまで偉くないので自重した。どうせ誰も元ネタ分からないから滑るだろうし。これこそが、折角良いパロネタのギャグ思いついたのに、元ネタみんな知らなそうだから自重する気持ちか。


 さて、ジルを見つけたぞ。


 即興の国王専用椅子に座るジルの隣には護衛のリッツが立っており、警戒を怠らずその目を鷹のように光らせて周囲を見渡している。ジルの右斜め前に座っているのは表面上伏兵を率いていることになっているブルゴー騎士団長。美形orzとだけ言っておこう。あとは小者ばかり。伝達兵とか、そんなもんだ。まあ、俺はそういう情報伝達の軽視は良くないと思うんだけどね。情報収集能力はかなり重要だべ。


 俺は近々、つまりこの戦争に勝って経験値上昇☆(ここ重要)&発言力を大きくした後に、諜報組織を作ろうと思っている。できれば、誤情報の流布や暗殺なんかもやってくれるとありがたいな。


 なぜ情報をこんなにも重視するのか。それは……ん? 強い視線を感じるぞ。誰だろうか。


 ……、あー、ブルゴー騎士団長か。その視線が国王陛下に御挨拶しろと言っている。ちなみにブルゴー騎士団長の目は鷹とかそんなもんじゃない。いうなれば、ブルートゥスに裏切られたカエサル。もっと分かり易く言うと、べジータにブルマを寝取られたヤムチャ。


「国王陛下、只今到着しました」


 ま、一応挨拶はしておく。着いてから大分経っているが、そこはノーカン。ジルはそんなに心の狭い奴じゃない。


「……まあよい。では、早速だがお主の見解も聞こう。敵はいつ動くと思う?」


「敵が我々の存在に気付くのは明朝かと。動き始めるのは……明日の昼である可能性が高いと思います」


 今は真夜中なので、敵がもし既に着いていたとしても仕掛けてくる可能性は低い。今日は様子を見て、伏兵には明朝ごろ気付くだろう。なら動き出すのは昼かなーみたいな推理だ。


「その心は?」


 もちろん、明日の昼敵が動くと思われる要素はこれだけではない。つかこれだけだと推理になってねえよ。ジルがなぞかけを知っていたのは意外だったが、今は話を先に進めることを優先しよう。


「私がこの地域の住民にこの地域の気候について聞いた所、この時期は昼に霧が発生するらしいという情報を掴みました。通常は霧が発生したら静観した方が安全ですが、今シャルロワは国王陛下を討ち取ろうと躍起になっているはずです。奴は気が強いことで有名でしたし」


 シャルロワは気が短い訳ではないが、強気な性格である。その決断力で宰相の地位にまで上がってきたのだ。もちろん、これもシャルロワについて取材したから分かることなのだが。ちなみに、霧についての情報はブルゴー騎士団長に借りた騎士と共にそこらのおっさんに聞いた。忙しかったぜ。


「目の前にはたった千の兵隊に守られた国王陛下。そして突然の霧に身動きできず、シャルロワもそうだろうと油断しているだろう我々。ここで動かずして国王陛下を討つことはできぬ。……とでもシャルロワは考えているのではありませんかな?」


 なるほど、と唸るお二方。しかし、ふとブルゴー騎士団長が俺に疑問を呈した。


「しかし、あのシャルロワだぞ。何を考えているのか分からない。もしかしたら、静観するかもしれない。いや……そもそも彼奴が伏兵を先に潰そうとしてきたらどうするのだ?軍議では気付かなかったが、策はあるのか?」


 色々と質問が飛んできたな。


「まず、静観する可能性ですが、まああることにはあるでしょう。ですが、そうなっても我々が損することはありません。それに、シャルロワの過去の戦績を見てもそこまで思慮深いわけではなさそうなのです。政治謀略の場では冷静沈着かつ老獪なシャルロワですが、戦争はあまりパッとしません。猪突猛進と言う訳ではありませんが、強気な戦略に出ることは間違いないかと。同じ理由で、伏兵を先に潰す可能性もナシです」


 俺はシャルロワ反乱の報せを聞いてからしばらくシャルロワについて調べていたんだよ。うん、俺偉い!


「ほう、なるほど……まあここは秘書殿を信じることとしよう」


 ブルゴー騎士団長は一応納得したようで、これ以上聞かないと意思表示を行った。その目には俺への不快感がにじみ出ている気がするが、気にせず。


「国王陛下もブルゴー騎士団長も仮眠を取ったらいかがです? 敵が動く可能性は低いのですし」


「いや、俺は起きている。ここは戦場、何が起こるか全く分からないからな。国王陛下。陛下は存分に睡眠を取って下さいませ」


 敵が来ない以上起きていても無駄骨だと思うが……。まあ注意する程の事ではないだろう。


「そうだな、寝るか。リョウ。お主も寝てよいぞ」


「は!」


 俺は兵士に簡易椅子を渡された。ジルも座って寝るらしい。まあ仮眠だし、仕方ないか。


 ふぁーあ、もう寝よ。眠いったらありゃしない。










 所変わってシャルロワ軍。夜の二時半、本営には白い髭を生やした禿げ頭の男が座っていた。既にシャルロワ軍は戦場に着いたが、ある情報を聞いてどう行動するか迷っているところだった。


「ふむ。四千人の伏兵か……どうしたものかの」


 千人の本隊に四千人の伏兵。思い切ったものだ、とシャルロワは苦笑いしていた。


「たった千人しかいないのですし、単純に本陣を攻めれば勝ちではないのでしょうか。ジル・カタパルトを討てば敵は総崩れするはずです。たった四千人程度の伏兵など、一万程で備えていれば返り討ちにできると思います」


 居並ぶ貴族の内の一人が言った。亮の思惑通りだ。だが、シャルロワは浮かない顔をしている。


 そう、シャルロワは決して強気な性格ではない。政争も戦争も慎重に行うタイプなのだ。一方で、決断力は優れている。上に立つ者としては、バランスがとれている。少々果断過ぎる位で丁度いい。


 亮は、強気と果敢をはき違えてしまっていたのだ。


「少し待った方がよいのではないかの。こちらに五千を割いているということは、西に迂回した別働隊に相対するのは多くても二千。別働隊はどうせ勝利するのだから、勝ちに行ってわざわざ危険をおかしたくないからの」


 何故多くても二千なのかというと、総兵力七千の内戦場の五千、王城内に少なくとも五百、タケチュリア山道入口に少なくとも五百あると考えられるからである。


「お言葉ですが、四倍の兵力があるのですから、勝ちを狙ってもなんの問題もないかと」


 また別の貴族が発言した。みな戦いたがっているようだ。当然である。彼らはマクシムを中心とした新政権の中で出来る限り高い地位が欲しいのだ。その為に今できることは戦功を挙げることだが、戦わないとその機会をみすみす逃してしまう。


 その上に、今回は国王であるジルが出陣している。その周りを守るのがたった千人ならばジルを討てる可能性も大きい。敵の親玉であるジルを殺せば間違いなく戦功第一となり、もしかしたら閣僚にさえなれるかもしれない。


 このようなカモがネギをしょってきたような状況では、焦らない方がおかしいのである。


「なるほどのう……。とりあえずは様子を見るかの……」


 シャルロワは迷っていた。どうもあの伏兵が罠の様な気がしてならないのである。文官職に就いているとはいえ戦歴も若いころにそこそこ積み重ねてきたシャルロワは、何か危険な匂いを感じ取っていた。


「大公殿」


 若い貴族がシャルロワを呼んだ。大公というのはシャルロワの官位のようなものだ。宰相というのは彼らにとっての旧政権におけるシャルロワの役職だったので、新政権の一翼を担うシャルロワは既に辞職している。まだ新政権は正式には立ち上がっていないので、シャルロワは無職である。


「どうした」


「今即座に攻めた方が良いかと思います」


「何故かの?そこまで急ぐ必要はないと思うがの」


「どうせ戦うのなら、敵が油断しているであろう今攻めるのが良策かと。それに、敵はすでに伏兵を置いているのですから、これ以上の罠を張っている可能性は低いのではないでしょうか」


 彼の言っていることは道理だ。様子見をする必要性はあまり無い。しかし、シャルロワは不安を拭いきれなかった。何の、と言われれば返す言葉は無いが、どうにも怪しい気がした。


 とはいえ、直感だけでは居並ぶ貴族達を納得させることはできまい。杞憂だろう、とシャルロワは遂に重い腰を上げた。


「そうじゃの。お主らの言うことも道理。では、ニャクルツッペリ卿の意見を採用しようかの。一万は敵本陣に、一万は敵伏兵に割く。伏兵に対しては鶴翼の陣形で、本陣に対しては……蜂矢の陣形で相対。こんな次第で勝てるのではないかの。ただし、蜂矢の後方に位置する四千人程は、いつでも反転できるようにしておいてくれ」


 鶴翼とはVの字の陣形で、大将はVの尖っている所にいるのが普通だ。敵が大将の居るであろう尖っている所に向かっているのを左右から押し潰す、いわば大軍向きの陣形。伏兵の二倍以上の軍勢を有しているので、これが最上の判断だろう。


 一方、蜂矢の陣形は↑型の陣形で、攻撃的な陣形だ。本来兵力の劣っている方が使う陣形で攻撃力は優れている。だが、今回は敵総大将のジルを殺すのが目的なので、攻撃力に最大の焦点を置いた。今回はシャルロワが後ろで指揮するので、代わりにニャックルツッペリ伯爵に指揮を取ってもらおう、とシャルロワは考えていた。シャルロワとしては自分がわざわざ功績を立てる必要は無い。ニャックルツッペリ伯爵はシャルロワの腰巾着なので、手柄を奪われたといった感じにはならないのだ。


 大まかな作戦を決めた後シャルロワは各貴族の割り当てを発表した。本陣殲滅部隊に選ばれなかった貴族は落胆している者が殆どだった。全ての準備が終わったのは四時。もうすぐ夜が明ける位の時間だった。


「では、ジル殿には申し訳ないが、あっさりと勝たせてもらおうかの」


 シャルロワは妙に攻撃的な目をして呟いた。そして、シャルロワの命令を今か今かと待っている貴族に対して告げた。


「出撃だ。総大将ジル・カタパルトの首をマクシム様は御所望の様子。必ず討ち取れ」


「は!」


 貴族たちが自分の持ち場に散っていく。シャルロワはふと、空を見上げた。まだ太陽は昇っていない。


「日が昇るまでに終わらせるかの」


 呟く。だが、戦争はまだ始まってすらいない。これからだ、とシャルロワは気を引き締めた。

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