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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
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第2章第7話 布陣

 軍議から十日後の今日。兵士の姿をしている俺はジルに従軍しており、天幕の内にいるジルの隣に居た。少し後ろには護衛としてリッツが剣を片手に立っている。他は誰も居ない。


「暇じゃの」


 と、ジルが呟いた。足が小刻みに震えてている。俗に言う貧乏揺すりだ。もちろん、こんな大事な状況で暇を持て余しているのではない。恐らく、作戦がうまくいくかどうか不安なのだろう。


 作戦計画立案なんて初めてなんだし、俺だって不安だ。隣のジルが物凄く心配そうにしているので、俺は落ち着いていられるが。


「今は報告を待つしかありません。ただし、情報が来たらすぐに動きますので鋭気を養っておいて下さい」


 ここで状況を説明しておこう。


 現在俺達はタケチュリア山道出口から少し北、つまり王都の方角に居る。俺の進言通りタケチュリア山道入口付近に千人の兵士を置き、今はシャルロワ軍の動向を窺っているのだ。もしも馬鹿正直にタケチュリア山道入口へ攻めてきたら、誘導してタケチュリア山道出口で迎え撃つ為に。


 総勢六千人がここで陣幕(テントのようなもの)を張っており、今は一杯の酒を飲んでいることだろう。これは俺の進言で、必ず上司が酒を飲ませてやるように通達してある。適量の酒を飲ませることでリラックスさせ、やる気を上げさせるのが狙いだ。


「そうだね。今は待つべき時、か」


 どうやら理解してくれたようで、ジルは砕けた口調に戻った。だが、貧乏揺すりは収まらない。完全に緊張がほぐれていないようなので、俺は特殊アイテムを懐から取り出す。


「じゃさ、ジル。こんなのどう?」


「大事な決戦前に酒を飲めと?」


 酒瓶を出した俺にジルが眉を(ひそ)めた。俺がふざけているのだと思っているのだろう。


「リラ……緊張をほぐしてもらう為だ。酒飲めば少しは緊張も取れるだろ」


 おっと、横文字は通じないんだったな。


「まあ、確かに一理あるね。一人だけど折角だから飲むか。リョウは飲めないんでしょ?」


「ああ」


 納得したジルは酒瓶を手に取り、ゴクゴクと飲む。


「プハーッ。旨い」


 ジルは、まるでビールのコマーシャルの役者さんのようにたまらないといった顔をした。俺の知らない感覚だ。


 ここで俺の役職を説明しておこう。俺はジルの軍師になった。……なんちって。冗談だよ。結局俺の階級は変わっていないのさ。秘書のまま。しかし、秘書は戦時中君主のジルにぴったりくっついていなければならないらしい。つまり、なんか作戦変更しなきゃいけない事態になったらジルに言えばいいのだ。やることは軍師と何も変わらない。


 ちなみに俺は反省している。何をって、軍議の時のことをだ。あの時は一種の興奮状態になっていたので軽く軍人さん達に喧嘩売るような言動をしてしまったが、今思うとぞっとする。ジルの後ろ盾が無かったら殺されても仕方なかったのだ。そもそも、秘書が口を挟むこと自体越権行為だし。調子に乗り過ぎた感が否めなかった。


 ただ、俺が口を挟まなきゃ敗北決定寸前だったのは明らかなので後悔はしていない。もうちょっとソフトに自分の意見を通せば良かったなと思っただけだ。


「申し上げます!」


 諜報員が国王用陣幕に入ってきた。敵軍が動き出したようだ。どうなるんだろ、マジ緊張するわ。


「申せ」


 ジルはリラックスモードから一転、精悍な顔つきで諜報員に聞く。俺も表情を整え、諜報員の方に向いた。


「敵軍、動き始めました。秘書殿の献策通り、四千人程がタケチュリア山道入口付近に抑えとして残されました。あとは東に迂回した二万人弱と西に迂回した一万人強の二つに分かれたようです。恐らく、二万人の方にシャルロワが居るかと。シャルロワ一族の『下り藤』の旗が堂々と掲げてありました。一応裏も取っておりますし、間違いは無いかと」


 予想通り。俺の言ったとおりに敵は動いている。倒さなきゃいけない敵が二万人も居るのは不満だが、そこら辺は妥協。ケケケ、こりゃあ勝てるかもしれないぞ。


「陛下」


 出撃を促す。ジルも俺の意を汲み取ってくれたようで、頷いた。


「では、諸将に伝達致します。出撃、でよろしいですな」


「うむ」


 俺は陣幕の外に出て、連絡係の兵士に出撃の意を伝えた。






「皆の者。これより、戦場に向かう。敵は我々の優に五倍もおる。厳しい戦いになることは明らかだ。しかァしィッ。ここで退くわけには行かない。よいか、これは正義の戦いぞ。先代国王陛下を殺して国家の転覆を謀った逆賊シャルロワを今ここで倒し、このカタパルト王国に再び平和を取り戻すのだァ!」


 ジルの演説。戦闘直前に国王から直々の言葉を貰うことによる士気(やる気)アップが狙いだ。正義の戦いとか第三者から見れば「戦争を正当化しているとか(笑)」としか言えないけど、自分は正義だと思い込むことによって士気は上がるらしい。だから、マクシムのことは口にしない。それを言ったらこの戦争の意味が逆賊討伐から王族の争いにグレードダウンしてしまう。


 演説が終わると兵士はみんな持ち場に戻り、上官の命令に従って着々と準備を進める。俺はジルに駆けより、共に馬車に乗った。もちろん、護衛のリッツも一緒だ。馬に乗ることにならなくて良かったなぁ。


 俺達が馬車に乗り終わると、出発の笛が吹かれ、カタパルト王国軍は一斉に動き出した。


 ゴゴゴゴゴッッッッッ――――。


 騎馬が歩き出し、轟音が聞こえる。軍事パレードみたいだ。


 ……、暇だなぁ。やることねぇー。寝よっかな……うん、そうしよう。羊が一匹羊が二匹羊が三匹羊が四匹…………






「戦場に到着したぞ」


「ふぁ?……あ、分かりました」


 眠りは浅かったようで、君主モードのジルに一声かけられるだけで俺は起きた。男の娘でもない男が「ふぁ?」なんて気持ち悪い声出すな、と思った人。僕はあなたが大嫌いです。男が擬音発したっていいじゃない!


 さて、今俺達が居るのはタケチュリア山道の東にあるまっさらな平地。ここに偽国王率いる千人の偽本陣が敷かれるのだ。ということで、これから面倒くさい作業に入る。偽国王、つまり役者さんとジルが入れ替わらなければならないのだ。敵のスパイがここら辺に居るかもしれないので、あくまでも秘密裏に。そしてその後見せかけ伏兵軍は隣の山に移動する。天王山の戦いみたいだな。(本能寺の変を起こした明智光秀と中国大返しをした羽柴秀吉の戦いで、もちろん秀吉が勝利した)


 この暗さ、今は夜なのだろう。今日は地球で言う新月の日で、秘密裏の行軍にはぴったりなのだ。二つある月の両方が新月とは、なかなか無い偶然だ。今回はばれるのも戦略の一部なので、あまり要らない幸運なのだけれども。ま、どちらにせよシャルロワは伏兵に気付くだろうから無問題。


 そう、今秘密裏の行軍と言ったが敵軍はもう間近に迫っているのだ。戦場につくのももうすぐだろう。大体、みせかけ伏兵軍が山に登りきった位の時刻だと予想されている。


「では、儂の代わり、頼んだぞ」


「は!ありがたき幸せにございます!」


 よし、ジルと金色のカツラかぶった役者さんが入れ替わった。俺とジルは兵士になり替わり、伏兵を率いる(と敵軍に思わせる予定の)ブルゴー騎士団長の元へ。先導する兵士についていく。


「ここです」


 ジルの為に馬が用意してある様だった。とはいえ、馬に国王が乗っていると敵のスパイにばれてはいかんので、ジルは兵士に差し出された(かぶと)を被った。……俺はどうなるの?


「あの、俺はどうすれば?」


 さっき先導してくれた兵士に聞いてみる。こういう細かい所は俺は知らないのだ。


「ああ、兵士に紛れて下さい」


 あなたは兜を被る必要が無いのでしょう?とにこやかに言われ、俺は反応に困った。潜む場所まで走って進む訳ではないので体力面の心配は要らないから、大丈夫かな。でも、なんか不安だわ。……ま、いっか。


「分かった」


 と答えたのが運のつき。俺は、軍隊を舐めていた。






「ハアハア、ハァァー。……死ぬだろ……」


 行軍を開始してから時間ほど。周りの兵士達はこれから始まる戦いが楽しみだー、とか汗一つ掻かずに言っているが、俺は今死にかけている。よくよく考えると、カタパルト王国に誤召喚されてから俺運動してないんだよなぁ。それがいきなり自衛隊の訓練みたいな行軍させられちゃ、たまんねえよ。


「まあ、気を取り直してジルの居る陣幕に向かおう。えーっと、ここをずっと真っ直ぐ行って、って長ぇなぁ。暇だし、歩いている間は兵士の挙動をじっくりと観察しようかな」


 今俺の周りに居るのは騎士団。彼らはみんな馬を持っていて、それに乗って戦うのだ。武田信玄の騎馬隊でさえ馬に乗っている兵士は五十パーセントだったのに、全員騎乗して戦うとか……そもそもそんなに馬はあるのか?


 さて、騎馬団員の肉付きを見てみようか。……ゴリマッチョと細マッチョが半々ずつ。ゴリマッチョはおっさん臭いゴリラ顔の人間が多く、細マッチョはイケメンが多い。もちろん、顔が微妙な細マッチョも居るには居るけどね。


 ん? 一人だけ女の人が居るぞ? そこだけなんか輝いて見える。周りに居るのがゴリラ(雄)なだけに。顔はというと、少々目つきはきついがキリリとしていて、可愛いというよりは綺麗と形容できる女性。そのまるで燃えているように紅い髪が女王様的オーラを纏っている。


 とはいえ、止まって鑑賞する訳にもいかないので、名残惜しいが進むことにする。


 ふう、胃がキリキリすんなぁ。ジルには緊張ほぐせなんて言ったけど、俺の方が緊張しているっぽい。異世界(ここ)に来てもう二ヶ月は経っているのでこの世界には慣れてきたとはいえ、これから始まるのは戦争。テレビ越しにも滅多に見たことのない、俺にとっては手の届かない非日常だ。届きたくなんかなかったけど。


 おっと、ネガティヴ思考は萎えるから打ち止めだ。ぼーっとしながら歩こうかな。あまり思考にふけてもいいこたぁ無い。たまには、無心でいようではないか。明鏡止水、ってやつだ。

くそっ。また戦争までいかない!


どうも、トッティーです。やっと戦争の日程(?)が決まりました。次の次です。ここまで焦らしたのですから、質も当然高くしなきゃ……自分でプレッシャーをかける作戦です。


ちなみにこの紅髪さんはいつか登場します。結構メインかもですよ。……お姉さんキャラだけでなくロリキャラも出さねば。女性の平均年齢高ぇよ。僕の好みは1○才位なのに……




ちなみに最期の方は独り言です。

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