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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
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第2章第4話 急報

 部屋に戻り、俺は地図を見ていた。フリーダ皇国側に立って、何か良い作戦がないか探しているのだ。これこそ、俺の「将棋盤をひっくり返す」考え方。単純だが意外に効果は高い。


 む。パクリって言うな。


「ふ~む」


 だが、特に良さそうな作戦が見つからない。そもそも、まともに戦ってカタパルト王国が勝てるかというと勝てないのだからただ「全面対決でぶっ殺してやるわー」と考えたのかもしれない。戦争に私用の地図を持っていくつもりだったので、持ってきた意味がないという訳ではないが。ちょっと残念だ。


「失礼します!」


 汗だくのおっちゃんが入ってきた。部屋の中にはジルと俺しか居ない。こいつが暗殺者だったら、ジル死ぬんじゃね?いや、忍びの者的な人がいるとか言ってたし大丈夫か。


「ど、どうしたんだよ」


 そういえば、ジルの返事を聞かずに入ってきたなこの兵士。どんだけ焦っているんだよ。リディーさんが居たら、説教されるぞ。いや、あの人なら解雇もありえるか。


 ん? なんかデジャヴが。この風景前に見たぞ。あの時は、フリーダ皇国の侵攻を報告された。それと同じ位……いや、それ以上に拙い事態が起こっているのか? いや、そんなことは……


「シャルロワ宰相返り忠!シャルロワ宰相返り忠!」


 返り忠ってなんぞや? と俺は疑問を持ったが、言葉の意味が分かったらしいジルは口をポカンと開けた。予想通りヤバい事態の様だ。


「……、う……嘘だ。そんな馬鹿なことがある訳が……」


 ジルは目尻に涙を浮かべ、放心状態になった。おいおいどんだけ~。シャルロワ宰相何したらこんなにジルがショックを受けるんだろ。まさか裏切った訳じゃあるまいし……裏切り?


「なぁ、ジル。まさか、シャルロワ宰相が裏切った訳じゃないよね?」


「そんなの、僕が聞きたいよ」


 返り忠って、裏切りという意味らしい。俺の人生、いやカタパルト王国オワタwwww


「し、失礼します」


 悲壮な空気に耐え切れなくなったのか、兵士は逃げ去った。残されるのは、目の死んでる国王と生気の無い秘書。


「……ハ。ハハ、ハハハハハハハハハハハーーーーーーーーッ」


 ジルは壊れたように笑い出した。その瞳は絶望色を浮かべている。闇の様に黒く、そして深い。現実に耐え切れなくなった様だ。だが、そこまで絶望する事態なのかなと俺は思った。


 だってさ、たかが一人謀反しただけだぜ。大した事態じゃねえだろ。余裕余裕。こんな時こそ主人公補正発揮してやるよ。これって最早開き直りか。


「ケケケ」


 これが自分の声だと理解するのに、数秒かかった。怖い笑い声だ。友達に「笑い方怖い」って言われていた理由がやっと分かった。


「どうしたのですかジル様」


 するといつの間にかギルさんが居た。彼は、主従揃って壊れたように笑っているのを奇怪に思ったようだ。ギルさんを認めた俺は、馬鹿みたいに笑っているジルは答えないだろうと推測し、代わりにギルさんの質問に答えた。


「ジルは壊れちゃったみたいです。シャルロワ宰相が裏切ったとか兵士に言われて。そんなにヤバいんですかね?」


 するとギルさんはさして表情を変えず、俺に言い放った。


「その報告は私もさっき受けたところです。それよりも、リョウ殿。何をボーっとしているのです。主君が不調な時こそ家臣が正気を取り戻して差し上げなければいけないのですぞ」


「すいません」


 確かに。俺はもっと冷静になれば良かった。

 俺を叱ったギルさんはくるっとジルの方に向いた。目が吊り上がる。


「ジル様!」


 パシィン!


 その瞬間いつまでも笑い続けているジルの頬をギルさんが引っ叩いた。ジルが椅子から転げ落ちる。流石にやり過ぎでは?と非難の視線を向けたが、ギルさんは微笑した。これ位大丈夫らしい。

 一方、ジルは目でキョロキョロと周りを見渡し、口を開いた。


「あ、あれ?何で僕は椅子から落ちているの?それに、何でギルバートが居るの?リョウしか居なかっ……そうだ。シャルロワが、返り忠をしたって聞いて、それで……


「ジル様は正気を失っておりました」


 ギルさんがジルの言葉を遮る。まるで、親が子供を叱っているようだ。どちらかというと、執事に怒られている資産家の次男かな。


「え?あれは夢じゃないの?シャルロワ宰相本当に返り忠をしたのかよ」


「はい。シャルロワ宰相の返り忠は紛れもない真実でございます。ですが、ジル様。どうか気を強く持ってくださいませ。あなたは、この国の未来を背負っているのですぞ」


「う、うん」


 ジルはようやく正気を取り戻したようだ。さっきの情けない姿とは一変、頼もしい王の姿になっている。


「じゃあ、軍議の前に出席者全員に情報を通達しておいて。あと、緊急でシャルロワ反乱軍の情報を纏めて。会議に間に合う?」


「はい。大丈夫です」


 ギルさんは走り去る。なんか重大な局面だけど、俺は何すればいいんだろう。やること無いのかな。じゃあ、この地図を生かそう。北部の地図は要らないけど、全体の地図なら少しは使える。


 って、シャルロワ軍の情報が無きゃ意味無いじゃん。会議まで時間はあと四十分。十分は考える時間が欲しいから、三十分以内にシャルロワ軍の資料が欲しい。


 どうせ軍議で配るんだから、十分位我慢しろって?それじゃあ意味が無い。俺は、軍議で「こんな手があったのか」的な作戦を発表するつもりなので考える時間が欲しいからだ。秘書なのに無理して出しゃばるな、と思われるかもしれないが、これだけは避けて通れない。理由は二つある。


 シャルロワ宰相が裏切ったのは相当の痛手。このままだとカタパルト王国が滅亡してしまう可能性が大きいので俺も何か良い作戦考えなきゃ、というのが一つ。これを機に俺の発言力を増やしておきたい、というのが一つ。このままいつまでも秘書の地位に甘んじていたら、元の世界に帰れないんだよ困ったことに。


 何故なのか。詳しく言おう。元の世界に帰る唯一の手段は、セリウス王国の召喚術だ。だから、とにかく政治的影響が欲しい。別にカタパルト王国を裏切ったって構わない。だが、今俺を欲しがる奴なんて居ないだろう。だから、俺は偉くなるのだ。セリウス王国の神官エーベル一族に命令できるくらい偉くなってやる。権力を得るのだ。


「暇だなー。そうだ、南部の地図を取ってくるか。ジル。俺用事あるからちょっと出かけるわ」


 難しい顔をして何かを考え込んでいるジルに一応声をかけて部屋を出る。そして俺は再び第一級資料室に向かった。








「あ、ギルさん。もう終わったんですか?」


 俺が部屋に戻るとギルさんが書類を抱えて机に置いているところだった。相変わらず仕事が速い。


「見るかい?」


「ありがとうございます」


 ギルさんは気が回る。俺はギルさんからありがたく資料を貰い、地図と見比べた。


 シャルロワ軍は総勢三万五千人。マグナ族討伐軍がそっくりそのまま反転した様子だ。その中には革新派や過激派の貴族もいる。シャルロワ宰相は随分前から反乱を画策し根回ししていたようだ。

シャルロワ軍は今ビスケット街道を通っているらしい。ビスケット街道はその名の通り南の要塞ビスケット城から北に延びている街道である。


 一方カタパルト王国軍は総勢八千人。だが千人にはいざという時に備えて城に残ってもらうので実際出兵できるのは七千人。構成は魔法部隊三千、騎士団二千、歩兵軍団三千。歩兵軍団はジュネ歩兵軍団長が精鋭二千を率いて東に向かったので、練度はそこまで高くない。とはいっても、民兵に比べれば天と地の差ではある。


 ここで民兵と直轄兵について説明しよう。民兵は戦争をする前に領民から徴兵した兵士で、戦前の赤紙で出兵した兵士がそれだ。要するに普段は農業などの普通の仕事を営んでいるが戦争になったら活躍するぜ!な人。一方、直轄兵は国に仕え戦争を生業としている。自衛隊の人や中世の騎士みたいに。常に訓練をしているので、民兵に比べれば練度は高い。


 閑話休題。


 戦力差はこんな感じである。簡単に言うと敵は五倍。北に散った貴族も含めればもっと増えるが、その中には保守派の貴族も含まれる。彼らが裏切っている可能性は大きい。北の貴族の中には信頼できる人も居るらしいので北に備えて兵を残す必要は無いらしいのでまだ勝算はある。だが、それでも勝つ可能性は1%位だ。憶測だけど正しいだろう。


「むぅ……」


 これはやばい。ジルが正気を失ったのも頷ける。大ピンチだ。ようやく実感がわいてきたよ。


 資料は見たので、秘書机に南の地図を広げる。シャルロワ軍の進路を予想してみよう。ビスケット街道最北終了地点の北にはいくつかの群がある。ここで言う群は日本の市とか県とかそういう括りの群だ。その北はパセリ平原。地理的にパセリ平原はシャルロワ軍と王都の真ん中なので、ここでで両軍はぶつかるだろう。


 と考察してみたが、そこからがうまくいかない。見渡す限り何も無い平原でどう戦えばいいのか、という問題である。これは単純に采配で勝つしかない。ハメ手も奇襲もできないのだ。ま、パセリ平原で衝突しないかもしれないのでとりあえずギルさんに聞いてみよう。もしも間違っていたら考えなくてもいいことを考えて時間を無駄にしてしまう。


「あの、ギルさん」


 最近ギルさんにちょっと砕けて呼べるようになった。親しくなったかな。


「なんですか?」


「あの、ちょっと地図見て下さい。俺達とシャルロワ軍が衝突するのって何処だと思いますか?俺はパセリ平原だと思うんですけど、一応ギルさんの意見も聞いておきたくて」


「そうですね。このままならパセリ平原で間違いないでしょう。できるだけ広い場所で戦った方があちらとしても数の利を生かせますから」


「ありがとうございます」


 ふむ。やはりギルさんもそう思っていたか。そこまでに至る理由は違うけど。流石ギルさん。目の付けどころが違う。数の利を生かすとか、頭いいなー。


 ん? 何かが引っ掛かるぞ。んー。数の利を生かす?


「あ」


 分かった。この考察は相手の立場に立ってばかりだったんだ。広い場所で戦えばシャルロワ軍は数の利を生かせるので勝ちは間違いなし。カタパルト王国側の勝利は不可能だ。なら。




 そんな場所で戦わなければいい。




 こっちが仕掛ければシャルロワ軍も応戦せざるを得ない。先手必勝ってこと。


 で、具体的に何処で戦おうか。う~ん。そうだな、あっちが数の利を生かそうとするんだから、こっちも何かを生かさなきゃ。でも、こっちに利なんてあるかな。


 いや、生かさなくてもいいか。相手の数の利を『打ち消す』。それだけでいいんだ。数の利を打ち消し、同数で戦えば練度の高いこちらが勝つ。


 方向性は定まった。あとは相手の数の利を打ち消す、つまり相手を分散させる作戦を練ればいい。

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