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異世界の智将  作者: トッティー
第一部 血風編
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第2章第1話 閣議

「それでは、閣議を始める。欠席者は総務大臣のジギスムント・ベルのみ」


 閣議室にジルの威厳のある声が響く。ジルの国王即位宣言から二週間。俺は秘書として、ジルが行う会議に参加していた。もちろん発言権は無い。ジルの右隣やや後ろに立っているだけだ。左後ろにはリディーさんが立っている。


 閣議室は日本と同じ感じで、みんな椅子に座りながら意見を出したりする。国王の椅子だけやけに豪華である。ここら辺は近代的だ。まあ、閣議室はただ会議するだけの場所で論功行賞とか任命式は中世的な場所で行うらしいが。


「まず、状況説明を行う。さっき入った情報によると、東方の豪族カール一族に不審な動きが見えるとのことだ。また、昨夜マグナ族がクリスパンテリル砦とベゼブルキー砦を落としたとも聞いている。これは由々しき事態である。早急に対応を検討する必要性がある」


 先代国王であるエドガー二十四代国王が死んでカタパルト王国は混乱しているようだ。


「カタパルト王国の権威を復興する良い手段を考え付くものはいるか?」


 いや、戦争しかないよ。わざわざ聞く必要はないでしょ。と思ったが、俺はすぐにジルの考えが読めた。


 戦争しか手段が無いことははジルも分かっているのだ。では何故それをすぐ言わないのか。理由は求心力不足にある。


 兵士の前の大演説の時など、いざという時の威厳から考えてジルはかなり求心力があると思ったが違ったのだ。

 たった二十三歳の若造がいきなり国王の地位を担ってもよっぽどのことが無い限り家臣は尊敬しない。当たり前だ。たまたま先代国王の子供に生まれた若造のくせに生意気な!って感じ。


 失敗をした訳ではないから不満は無いだろうけど、不信感はある。だから、反発を生まないために家臣の方から意見を出させてそれを採用するという手段を取ったのだ。上から一方的に命令するのと下からの意見を採ってそれを命令するのじゃ、後者の方が家臣としては納得が行くってこと。


 ただ、俺としては少し低姿勢ではないかなぁとも思う。


「……であるからにして、蛮族の反乱軍のこれ以上の反撃を阻止する為に国王陛下自ら討伐軍を率いこれを撃退するのが最上の策かと存じます」


 おっと、聞いてなかった。


 今喋っていたのは、過激派の内務大臣で、マリオン・レーデという名前だ。


「異議あり」


 そう言って手を挙げたのは、保守派の経済大臣ヤニク・カロン。


「レーデ殿。貴方は国防というものを全く理解できていない。敵はマグナ族だけではないのですぞ。たとえば、東の豪族カール一族。たとえば、北の小国群。たとえば、西の海賊集団。また、国王の暗殺の噂を聞いて一揆が起こるかもしれません。ここで無闇に戦いを挑んでは、最悪苦戦している間に王都陥落となる可能性が極めて高いのです」


 それを聞き、産業大臣と司法大臣が拍手をした。


 ここで閣議出席者の説明をしよう。閣議には文官七人武官三人の合計十人が出席する。この十人を閣僚と呼ぶ。


 文官は宰相と内務大臣、産業大臣、外務大臣、経済大臣、司法大臣、総務大臣である。

武官は第一将軍といわれている騎士団長、第二将軍といわれている大魔導師、第三将軍といわれている歩兵軍団軍団長である。


 このうち騎士団長と大魔導師は革新派、歩兵軍団軍団長と内務大臣は過激派だ。それ以外は全員保守派なので、過激派と革新派が一緒になっても保守派に数では敵わない。


「ではどうするというのだ」


 レーデ大臣が怒りを抑えてたずねる。俺も意味が分からない。東西南北敵ばかり、という事実をそう自信満々に言われても。そこ落ち込むところだろ。


 この問いには宰相のユルバン・シャルロワが答えた。


「陛下自ら攻めるのではなく、家臣に命じて戦えばいいのです」


「それで勝てるというのか。今兵士は前国王の死で士気が下がっているのだぞ。国王陛下が居なければ勝てるかどうかも怪しいではないか」


 俺もレーデ内務大臣に賛成だ。


「何を気弱なことを言うのです。マグナ族が前国王陛下を暗殺したといえば、兵士たちは弔い合戦と信じます。当然、士気も上がるのです。異論はありますか?」


 確かに。いまだに前国王を暗殺したのは誰なのか分かっていないけど、嘘も方便だしな。この方法なら確実に士気は上がるだろう。

 やっぱり、シャルロワ宰相に賛成だ。顔は賄賂(ワイロ)大好き政治家で痴漢常習魔みたいだけど、言っていることには納得がいく。


「くっ……。そうだな、それも一理ある。しかし、……それなら同じことがいえないか。国王陛下が攻めている間に来た敵が前国王を暗殺したといえば、同じように士気が上がり撃退できる。少なくとも国王陛下が凱旋(がいせん)するまではな。

その上、国王陛下がマグナ族を討伐すれば名声が高まる」


 なるほど。レーデ内務大臣の言うことも理にかなっている。巧く切り返した。やっぱこっちが正しいのでは?


「攻めなら士気は上がるかもしれないが、守りだと士気は上がらないのですぞ。国王陛下が凱旋する前に王都が陥落するでしょうな。よって、国王陛下自らが攻めるべきではないと考えます」


 う~ん。どっちも正しいように聞こえるなぁ。これが話術か。


 どうやら、この舌戦はシャルロワ宰相の勝利のようだ。レーデ内務大臣は悔しそうにしている。ジルの方を見ると、悩んでいるようだった。まあ、どちらも正しそうだからな。


 しかし、ここでレーデ大臣がニヤリと笑みを浮かべた。


「なるほど。確かにシャルロワ宰相の言っていることは一理ある。しかしシャルロワ宰相の言葉から推測するに、マグナ族討伐軍を出した場合東西北三方位の敵が王都に向けて攻めてくると言っておられるように聞こえる。

ならば、国防にそれなりの兵力を割かなければなりませんな。数でいえば少なくとも二万人を。ならば、シャルロワ宰相はマグナ族を四万人で討伐できるとでもいうのですか?

しかも、カタパルト王国の財政は決して余裕がある訳ではない。つまり、短期間で討伐しなければならないのですぞ。


シャルロワ宰相にそれが、できるのですか?」


 前国王のマグナ族討伐軍は五万人。それよりも少ない四万人しか動員できないのに短期間で、しかも士気は段違いなのに勝たなければならないのだ。もちろん段違いってこっちの方が低いよ。王様死んだもの。


 レーデ内務大臣の言葉に苦渋の表情を見せたシャルロワ宰相。口を横一文字にしたまま、地面をにらみつける。

 そう、マグナ族討伐の手段なんて分かるはずもないのだ。この人はあくまでも文官。諸葛亮公明みたいな万能軍師とは違う。マグナ族だって馬鹿ではないから、そこら辺の武官でも分からないだろう。


 しかし、シャルロワ宰相はいきなり顔をレーデ内務大臣に向けた。




 微笑。




 そして、


「できますよ」


 断言した。


 面食らったレーデ内務大臣。だが、これは他の人間も変わらない。俺ももちろんその中に含まれる。何言ってるの?て感じである。


 この反応に満足したのかもう一度微笑む。じじいがやっても気持ち悪いだけだが。


「むしろ、貴方はできないのですか?簡単じゃないですか。あのような蛮族を倒すなんて、赤子の手を捻るようです」


 挙句の果てには挑発を始めやがった。こいつ、本当に勝算があるみたいだ。


 一方でレーデ内務大臣は混乱しているのか何も言わない。それに追い打ちをかけるようにシャルロワ宰相は言葉を紡いだ。


「レーデ殿、どうなんですか?」


「……できぬな」


 絞り出すような声。しかしレーデ内務大臣の目にはまだ闘志が眠っている。闘うといっても、舌戦って悪く言えば口喧嘩みたいなものだから格好良くはない。レーデ内務大臣は少年ジャ〇プの主人公ではないのだ。


「だが、シャルロワ宰相はできるののだな?」


「無論です」


「ならばシャルロワ宰相にその勝利の手順を教えてもらいたい」


 今の状況で舌戦は不可能と思ったらしく、態度を軟化させた。狙いは、言葉尻だ。シャルロワ宰相が失言をした瞬間それにつけこもうという魂胆なのだろう。


「お教え出来ませんな」


「何故だ?勝算があるのでは無いのか?まさかまだ考えていないとは言わぬよな」


 そんなに追い詰めていないけど鷹の目をするレーデ内務大臣。気持ち悪い微笑を浮かべるシャルロワ宰相。


「もちろん構想はできています。しかし今言えば作戦が成功しなくなるかもしれないのです」


 遠慮のない発言にレーデ内務大臣は顔を茹でだこの様にした。漫画なら頭から湯気でも出しそうだ。


「お主は、儂が敵に通じているとでもいうのか!答えよ、シャルロワ!」


 ガチ切れしたよ。何怒っちゃってんの(笑)


 と思ったのは俺と保守派だけのようで、「そーだそーだ!」とのヤジが飛ぶ。ヤジを飛ばしたのは過激派の歩兵軍軍団長、革新派の騎士団長、同じく革新派の大魔導師の三人。それ以外は保守派ばかりなのでヤジを飛ばさずこのやり取りをじぃっと見ている。


「貴方とは誰も言っておりません。しかし、ここに居る人々の誰かがカタパルト王国の敵と通じているかもしれないのですぞ」


 正論だし、当たり前のことだ。秘策は誰かれ構わず言いふらすものではない。できる限り誰にもばらさず秘密裏に準備を進めなければならないのだ。


「…………」


 何も言い返せずだんまりを決め込むレーデ内務大臣。舌戦の勝敗は決したようだ。


 それを察したのか空気と化していたジルが口を開いた。


「では、決を採る。マグナ族討伐軍を儂が率いるかどうか」


 ちなみに決を採ったからって多数決で全てが決まるわけではない。あくまでも参考程度に、だ。カタパルト王国は国王専制政治なのである。


「儂が率いるのに賛成の者は手を挙げよ」


 手を挙げたのは三人。レーデ内務大臣とジュネ歩兵軍軍団長と大魔導師ハンナさん。ブルゴー騎士団長は革新派だが手を挙げなかった。


「では、反対の者は手を挙げよ」


 七人。保守派全員とブルゴー騎士団長だ。革新派は一つに(まと)まっていないらしい。


「ふむ。では、皆の意見も考慮に入れて命令を下す。シャルロワ宰相。三万五千の軍勢を率いてマグナ族を討伐せよ」


「御意。必ずや蛮族を討伐してみせましょう」


 ジルはシャルロワ宰相の秘策にかけてみるようだ。俺も、あんなに自信満々に言われたら信じたくなる。それに、「できますよ」と断言した時の目が深かったのだ。全てを知り尽くした目、って感じで。


 一体、その秘策とやらは何なのだろう?

 亮が冷静すぎる……最早三人称レベルです。でも、これが亮の性分なんです。それ以外にも理由はありますが、それは本編で明かされることとなるでしょう。作者が伏線を忘れなければ、ですが。


 さて、ここからが大変です。ヒロイン不在のまま戦争に突入!?そもそもヒロイン誰にするか決まっていないんですがね。


 ヒロインはジルでいいかなぁ。とか思っている駄目な作者ですが、どうか見捨てないでください。←僕男だよ! BLは嫌いだよ! そういう意味じゃないからね! (誤解されそうな気がしたんだ…)

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