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ガラス屋ニーナは瑠璃のなか  作者: コイシ直
第5章 ニーナの真実

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(5−6)ニーナと秘密の終わり②


 ニーナは、ぎゅっと両手を握りしめた。ハーフォードが来る。来てくれる。

 だったら怖いものなんて、あるものか。


 バタバタと遠くから、いくつかの足音が駆けてくる。

 いきなり部屋の扉が開けられて、先ほどの灰色のローブの男が飛び込んできても、いきなり自分の手首を痛いくらいにつかまれても、ニーナは顔を逸らさなかった。


 思い切り、怒りの眼差しを男にぶつける。


「予定が早まった。もう時間がない。臨終の床でなくとも呪文は発動するはずだ。こちらへ」


 焦りの表情を隠せない男に、ぐいぐいと腕を引かれる。引かれた方に、逆らわず、前に一歩踏み出す。次の瞬間、一気に体を後ろに引き、自分の腕を上方に跳ね上げ、男の手を勢いよく振り切った。


「触らないで!」


 絶対に、行くものか。自分の腕をかばいながら、後ずさる。次は、タイミングを見て、あいつの股間を思い切り蹴り上げてやる。ニーナはじりじりと様子をうかがう。


「チッ」

 舌打ちとともに、魔術師の指が鳴る。とたんにニーナの首から下がぴたりと止まった。自分の意思で動けない。

「連れて行け」

 男の手下の兵士に、荷物のように肩に担がれる。悔しい。足さえ動いたら、こんなやつの胸、思い切り蹴り砕いてやる。


 ふいに、ドン!っと遠くで何かが崩れる音がした。廊下の壁が震えて、またあの魔術師が忌々しそうに舌打ちをした。

「急げ、こっちだ!」


 走り出す、大きく揺れる肩の上。ニーナは何とか動いた頭をもたげ、歯を食いしばって長い廊下の向こうを(にら)みつける。ハーフォードは絶対来てくれる。魔術師たちは、彼の襲撃に慌ててニーナを連れ出したのだと信じられた。だったら、絶対、大丈夫。


 ドン!ダン! また、何か大きなものがひっくり返るような音。次第に近づいてくる!


「ディー! ハーフォード! 私はここ! ここにいる!」


 ニーナは大声で叫んだ。聞こえるかどうかはわからない。でも、近くにいる。絶対に来てくれる。揺れる視界に胃がひっくり返りそうだ。いっそ、この男の背中に吐いてやろうか。とにかく、あがく。彼が来てくれるまで。


 思った瞬間、廊下の壁が轟音(ごうおん)とともに吹っ飛んだ。丸くぽっかり空いた空間から、ニーナの待ち望んだ人が走り出てくる。


「ニーナ!」

「くそ! 中に入れ」


 目の前の分厚い扉の中に押し込められる。体の自由が効かず、つんのめって、床に転がりながら、ニーナは大きな声で笑い出したい。ハーフォードが来た! ほら、やっぱり、もう何も怖くない!


 ドン!と間髪いれず、扉が吹っ飛んだ。部屋の「外側に」。

 廊下に吸い出されるように、破片が勢いよく飛び散って、廊下の天井にも壁にも突き刺さる。部屋の外側なにもかもがボロボロの中、ハーフォードだけが無傷で走り込んで来る。とたんに体の拘束魔法が消えたのを感じる。ニーナを傷つけないために、あえて自分の方に爆破の破片を飛ばすなんて、


「うちの彼氏がかっこよすぎる!」


 ニーナは転がったまま両腕を広げる。


「だろ!」


 ハーフォードはニーナの両手をつかむと、風魔法でふわりと体を支えて引き寄せ、ぎゅうと思い切り抱きしめた。ニーナも思い切り、その首にしがみつく。力の入っていた全身から、ふわり、と気負いが抜けた。よかった。帰ってこられた。——ここが、私の居場所。


 腕にしっかりとニーナを抱きしめたまま、氷の眼差しで、ハーフォードは周りをゆっくりと見回した。


 とたんに、しん、と静まり返った。魔術師たちは、床にひっくり返っていて、奥の扉を守っている兵士たちは、殺気に押されて身動きさえできない。


 低い声が、ゆっくりと、問う。


「で? どうしてくれんの、これ? あんたたちの大事な宮殿に、山ほど穴を開けちゃったけど。お前たちは、それをされても当然なことをしでかしたって、理解しているのかな?」


「……て、帝国の末永い繁栄のためだっ!」


「知らないな、そんなもの。人の尊厳を踏み(にじ)って成り立つ国など、勝手に滅びればいい。で? その奥に、滅びようとしている皇帝がいるのか?」


 悠然と、淡々と、ハーフォードは切り捨てた。


 部屋の奥、ごてごてと黄金で飾り付けられた扉がある。いつもは、両側に立つ、飾り立てた軍服姿の男たちが、ふたりがかりで引き開けるのだろう。


 だが、ハーフォードは、軽く人差し指で手招きするような仕草をする。それだけで、ぎい、と扉が軋みながら開いた。


「お、お前! それ以上は一歩たりとも中に入ることは許されない!」

 動揺した兵士の声に、


「《止まれ》」


 たった一言、魔術語を投げる。それだけで、そこにいた全員が身動きを止めた。


「ちょっと挨拶してくるだけだよ。この件の礼をしないとな」


 恐ろしいほど静かに告げたハーフォードは、腕の中のニーナをひょいっと横抱きにすると、すたすたと奥に向かった。


「ディー!もういい!自分で歩ける!」

「だめだ。俺がニーナを抱っこしないと一歩も前に進めない」


 よくわからないことをいい、腕の中のニーナの髪を、すうっとかぐ。「よし」と小声で妙な気合を入れながら、また奥にある同じような黄金の扉を、またもや魔術で勝手に開ける。


「《止まれ》」


 ぴたり、と部屋の中の人たちが、凍りついて動かなくなった。




続きは、今晩投稿します!

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