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第63話 強腕猿との戦い

 転移したフロアは前の草原とは違っていた。


 あちらが背の低い草花しかない見通しの良い環境だったのに対して、今のフロアはそれなりの高さの木々が生い茂る山の中といった感じで。


「どうにもここは視界が悪いな」

「転移した辺りには魔物はいないそうですが、念のため気を抜かないでくださいね」


 当然ながら『小鬼感知』では強腕猿は感知できないので、敵の居場所は俺にも分からない。


 木々の上などで待ち伏せされていることも考えられるし、警戒するに越したことはないだろう。


(……ん? この音と匂いは)


 警戒しながら進むことしばらく、真力による強化は五感にも及ぶこともあってそれによって研ぎ澄まされた聴覚と嗅覚が異変を感じ取ってくれた。


 少し離れた木の上、何かが隠れ潜みながらこちらを窺っているようである。


 と思ったら、何かがその木の上から降ってくる。

(視界の悪い森の中を頭上から奇襲か。知恵が回るのか厄介な攻め方をしてきやがる)


 落ちてくる位置からして狙いは初島さんだ。


 それを素早く判断した俺は棍棒を取り出すと、初島さんを庇うようにして敵が落ちてくるだろう位置にそれを振り抜く。


「うわ!? びっくりしたー」


 魔物に襲われかけたにしては随分と呑気な発言をしているが、この場合はビビらない根性の持ち主ということにしておこうか。


 棍棒によってぶん殴られたことで吹き飛ばされた強腕猿はそのまま地面に叩きつけられるとしばらくゴロゴロと地面を転がっていく。


(なんだ、あの腕。下手すれば貧弱な胴体以上に太いんじゃないか?)


 強腕猿の外見は細見というかガリガリの猿といった感じで、それこそ現実世界の猿とほとんどそれほど差異があるようには思えなかった。


 ただし一箇所だけ違うのが、その異様に発達した腕回りだ。


 鍛えられたというよりはまるで腕だけが空気を込められた風船のように膨らんでおり、明らかにバランスが悪い体型になっている。


「なにあれ、キモ」

「確かに私達から見れば異様な風貌なのは否定できませんね」


 女性陣がそう発言するのも頷けるほど、腕だけ太い姿は異様なものに思えた。


(真言の影響で腕の筋肉が異様に発達でもしてるのか?)


 そんなことを考えていると、ようやく転がるのが止まった強腕猿が起き上がりながら怒りの声を上げる。


「キャー!」


 怒りを表すようにその太い腕を地面に叩きつけると、かなりの音と共に地面の土がえぐれている。


 やはり真言で強化されているのか、その腕から放たれる攻撃は相当なものになりそうだ。


 少なくとも俺以外が受けたら最低でも怪我は避けられないだろう。


 勿論そんなことはさせるつもりはない。


 強腕猿はその両腕から繰り出される攻撃は厄介だけど、逆に言えばそれさえ気を付けていればいいだけの魔物であった。


 なにせ一番目に手に入るのが第二階梯の『強腕』と戦闘面でもかなり役に立つものだ。


 それに対して、二番目に手に入る真言は第一階梯の『悪臭』。三番目は第一階梯の『大声』で四番目も第二階梯の『握力』とそれ以外は戦いに使えないような真言ばかりなのだ。


(『握力』は掴まれれば厄介かもしれないけど、だったら掴まれなければいい)


 それも合わせて腕回りしか警戒しないでよいのなら今の俺ならどうとでもなるというもの。


 敵が未だに怒りのままに吠えて、真言による影響か五月蠅い鳴き声を上げている敵にその隙を突くようにして接近する。


 そしてあっという間に短剣が届く範囲まで接近を果たすと、その頼みの両腕に対して新しい銅の短剣による斬撃を放つ。


 太い腕だけあって流石にそれで両断するには至らなかったが、それでも大事な両腕に大きな傷を与えることには成功した。


「ギャー!」


 大切な両腕に傷がついて焦ったのか、強腕猿はなんとか木の上に逃げようとする。


 だが切れ味の鋭い銅の短剣によって深く傷ついた両腕ではまともに木登りすることができなかったのか、途中で自分の出血によって汚れた木の幹を滑るようにして落ちてくる。


 そのまま地面に倒れたところを逃さず、俺は踏みつけるようにして動きを封じる。


「今です! 止めを!」


 強化された両腕さえ封じられれば強腕猿は真力6の魔物でしかない。


 圧倒的に俺の方が保有している真力は上なこともあって、抑えることはそう難しいことではなかった。


「わ、分かった。まずは私がやる」


 突然の奇襲に少しだけ動揺していた酒井さんだったけど、すぐに冷静さを取り戻すと俺が押さえつけている強腕猿の首に渡していた武器の刃を滑らせる。


 その一撃で頸動脈を傷つけたのか首から大量出血したと思ったら、やがて力尽きたように動かなくなり、最終的には魔石だけを残してその肉体が消えていく。


「これは『握力』の魔石みたいですね。これも売れば多少は金になるそうなので甲冑亀の時と同じように回収しておきましょう」


 ここに入るためにそれなりの費用も掛かっているのだ。


 少しでも消費した分を取り戻すための努力を惜しむつもりはなかった。


 迷宮の魔物なら魔石を取り出すためにその身体を解体する必要もないのだし。


「この調子でどんどん魔物を倒して『強腕』の真言を手に入れましょう」


 初めの内はかなり早く真言が手に入るとは言え、四人全員がそれをやるとなればそれなりの時間が必要となる。


 危険な夜になるまでに町などの人気のある場所まで戻っておきたいしのんびりしている暇はない。


「ああ、よろしく頼むよ」


 最初こそ少し動揺の色が有った彼らだが、先ほどの甲冑亀での経験があるのかすぐに順応して、想像よりも早く予定を済ませることができたのだった。

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