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第46話 洞穴のゴブリン退治

 まず見張りのゴブリンを始末する。

 それは別に難しい事ではない。


 見張りと言っても常に警戒している訳ではなく、それどころかウトウトとして居眠りしかけているようだったからだ。


 そんな奴の死角から忍び寄って仕留めることくらいできなくて、何が小鬼狩りだろうか。


(まあ別に自分で好き好んで名乗ってる訳でもないんだけどさ)


 幸いそれで仲間を呼ばれることもなく見張りを排除できたので、俺は慎重に洞穴の中へと足を踏み入れる。『小鬼感知』で分かる限りでは、中のゴブリン共も動いている個体は少ない。


 たぶん大半は安全な巣穴で眠りこけているといったところだろうか。


(本来沼地に生息している色蛙もこいつらを避けてるって話だから、明確な敵が現れることも少なかったんだろうな)


 だからこそ油断しており、こうして侵入者を許す羽目になっている。


 ちなみに本来なら真っ暗で動き辛いはずの洞穴の中だが、洞穴のあちこちにこちらの世界で採掘できる光石という光る石が散りばめられており、それが光源となってくれるおかげで薄暗い程度で済んでいる。


 この光源はゴブリン達が自分で用意したものだろう。


 ゴブリンもそれほど夜目が効く魔物ではないので、光源がないと自身も真っ暗な状態では移動が困難になるからだ。


(半端とはいえ知恵が回る点はこちらかすれば厄介だけど、今回はそれで助かってるな)


 そうして敵の集団がいる近くまでやってきた俺は、中に居る奴らにバレないようにこっそりと覗き込む。


 幸いにも奥にも光石は存在しており、中の様子が分からないということも無い。


「……」


 そこで見た光景で俺は中の奴らを殺戮することを決定した。


 元々そうするつもりではあったが、より一層殺意が増したのである。


 残念なことに生き残りはいない。


 ただしその亡骸と思われるものが複数地面に転がっているのだ。


 奴らの食糧の残骸がゴミのように床に撒き散らかされているのと同じよう。


 まるで遊び終わって壊れた玩具を捨てたかのように。


(……ったく、最悪の気分だな)


 それを行なったゴブリン達に怒りが湧くが、だからといって死んだ人間はどうあっても助けられない。


 いくら真言という不思議な力であっても死者蘇生が可能になるような万能なものではないのだから。


 だとすれば俺に出来ることは、これ以上の被害を生まないために元凶であるこいつらを始末することだけ。


「……やるか」


 可能なら遺品などを持ち帰ってやりたいところだが、ここでそれを取りに行くのはリスクとなる。


 生き残りを助けるのならともかく、それで俺の命を危険に晒すことはできないと判断した形だ。


 非力な俺ではまだまだ圧倒的な数の暴力を覆すことは難しいので。


 だから俺は感知で洞窟内の敵を排除すれば一先ず安全になるのは確認した後、奥からは少し離れた場所から『火炎』と『増強』を同時使用する。


「くたばれ」


 そうして生まれた強化された火球を容赦なくゴブリン共が寝ている中に叩き込んだ。


 中で着弾した火球は容赦なく周囲に火をまき散らし、眠りこけて隙だらけなゴブリン共に襲い掛かる。


 流石にここに至って眠ったままのゴブリンもいる訳もなく、この敵襲に対して多くが活発に動き始めた。


 だが既にそれは遅過ぎる。


 何故なら今回の『火炎』の真言で作った火球は、威力よりも発生した火が拡散して敵を燃やし尽くすようにコントロールしたからだ。


 これ以外まともに戦闘で使える真言がないこともあって暇さえあれば『火炎』の真言を練習して成果である。


(やっぱり鍛錬して使い込むほどに真言は活用の幅が広げられるな)


 もっともまだまだその精度は完璧とは程遠く、今後も精進が必要だろう。


 ただ今回は地面にまき散らされた食料の残骸など燃えやすいものが周囲に配置されており、それによってあっという間に火が広がってくれる。


 広がる炎には犠牲になった人の怒りが乗り移ったのではないか。

 そう思うほどの勢いで燃え盛り容赦なくゴブリン共を焼き殺していく。


 中にはその炎の中から必死に脱出して、入口まで辿り着きそうな個体も出てくるが、


「逃がすかよ」


 そいつらは入口付近で待ち伏せしていた俺に狩られることとなった。


 『火炎』と『増強』を使ったので真力は八まで減っているが、ゴブリン相手にはそれで十分というもの。


 そしてゴブリンであれば外からでも生き残りがいるかどうかを俺には感知できる。


 最後の一体が洞窟の奥で息絶えたことを真言の能力で確認した俺はやりきれない思いでいっぱいだった。


(ここで犠牲になった人は俺の時と何ら変わりない。ただ俺は運が良かっただけだ)


 それに自分がもっと早くここに来ていれば、ゲートマスターとなって転移門の暴走を止めていれば、彼らはこんな地獄の中で息絶えることもなかったかもしれない。


 こんなことを考え始めればキリがないのは頭では理解しているのだ。


 だけどそれでも考えてしまうというのが人間というものだろう。


「……はあ、最悪な気分だぜ」


 だけどこれでゴブリンの巣穴は潰せたはず。他にも巣穴がない確認する必要はあるが、俺の予想が当たっていればこれで異常繁殖は一先ず止まるだろう。


 そして次が起こらないように転移門も見つけなければならない。


(奴らは転移してきた獲物を巣穴に連れ帰ることを考えると、転移門は巣穴からそう遠くない場所にあるはず)


 暴走状態の転移門はこっちの世界で満月の日に開くので、それまでは巣穴を捜索するなどして時間を潰して、その日がきたらこの巣穴周辺を確かめに来ればいいだろう。


「あとは遺品が残ってるかどうかだな」


 先程の攻撃で燃え尽きてしまっている可能性が高いが、それでも亡くなった人の手掛かりとなる物が残っていればそれを持ち帰る。


 それもまた俺に課された仕事の一つでもあるので。


 その後、しばらく時間が経って中に入れるようになった洞穴の中で俺は亡くなった人の冥福を祈りながら遺品探しをするのだった。

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