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第23話 満月の日に開く門

 満月の日の前日から俺は遺跡で張り込みをしていた。

 満月の日のいつ転移できるか確証がないからだ。


(万が一これでなにもなかったとしても満月の日は関係ないって分かるしな)


 複数人の異世界人が遺跡に飛ばされていることから場所については何らかの関係があるのは間違いないと思うが、それも確証がある訳ではない。


 なので可能性があることは一つ一つ検証していくしかないだろう。


「これで元の世界に帰れればそれが一番なんだけどな」


 期待していないと言ったら噓になる。


 だけどそうそう上手くいかないだろうと自分に言い聞かせる。ここで期待し過ぎてもダメだった時に落ち込みそうだから。


(これでダメでも諦めたりしない。必ず元の世界に帰ってやる)


 そう心の中で誓いながらも遺跡の中でひたすら待つ。


 日が昇って、昼過ぎになり、夕暮れになっても変化はない。


 やはりそう簡単にはいかないのか。そう思い始めていたその時だった。


「なんだ、この感じは?」


 正体は分からないが何かを感じる。


 そう、何かの力のようなものがこの場に集まってきているのが感覚的に理解できるのだ。


 いや、集まってきているというよりは既に集まっていたものの隠されていたそれがあらわになると言うべきか、とにかく感覚的なことで説明は難しいが何かが起きている。


 その力を感じる方へと足を進めていく。


 危険かもしれないが、ここまで来てそれが何なのか確かめないなんて選択肢はない。これが元の世界に帰る手段や手掛かりになるかもしれないのだ。


 そうして力の感じる方へ行くと外に出た。


 俺が目覚めたのが遺跡の中だったからてっきり中に何かが起こると思ったのだが、異変は外のそれも祭壇のような場所で起きているようだ。


「何も見えないけど確かに感じる。これは……真力、なのか?」


 そこに集まっている何か。それは量や大きさが比べ物にならないが真言を得る時に貯まっていくときに感じたそれに似通っている気がする。


 詰まるところそれは真力ではないだろうか。


 考えている内にも真力と思われる物が祭壇に集まっていく。

 だがそれなりにそばによってもこちらには何の変化も影響もない。


 あの時のように視界が歪むこともなければ平衡感覚が狂うこともない。


 その感覚は彼女達も感じていたようなので、それがないこの状態ではきっと今のままでは転移は起こらないだろう。


「……覚悟を決めるか」


 近付けば何が起こるかも分からない。そもそも多少の距離があっても問題ないなのかも分からない。


 だけど、それでも、可能性があるなら。


 俺はゆっくりと慎重に、だけど確実にその力を感じる方へと足を進める。


 すると近づけば近づくほど周囲の景色が歪んできた。


 その覚えのある感覚に期待と不安を覚えながらも更に足を進めると平衡感覚も狂ってくる。間違いない、あの時と同じだ。


(このままゆっくり行くと辿り着く前にぶっ倒れかねないし一気に行くしかないか)


 恐怖はある。このまま進んだら感覚が狂って死んでしまうのではないか。

 そうでなくても体や脳にダメージが残るのではないかなど考えればキリがない。


 だけどもしかしたら帰れるかもしれない。


 あの時の覚えている感覚が起こっているという期待に俺は足を止めることが出来なくなっていた。


 だから大きく息を吸い込んで少し下がると、


「ふっ!」


 走って勢いつけてその力が存在する方向へと跳躍する。


 真力による強化がなされた身体能力で一気に詰めた。

 空中では引き返すこともできないし後戻りなど考えないように。


 近付けば近付くほど周囲の景色が歪むどころか視界がチカチカしてきて、もはや自分がどうなっているか分からない。


(帰る、俺は帰るんだ)


 最後はその願いだけを胸に俺の意識は暗転した。





「ちょっとお客さん! 起きてください!」


 そんな声と体を揺すられる感覚に意識が浮上していく。


 目を開けるとそこには駅員と思われる制服を着た人物が俺を上から覗き込んでいた。


 そのことを理解した瞬間に意識が瞬時に覚醒する。

 勢い上半身を起こしながら俺は周囲の様子を見る。


「……ここはどこですか?」

「どこですかってね、あなた酔っぱらってるんですか!? 線路の上で寝るなんて死ぬところですよ!」


 線路、それは俺のよく知るものだ。

 俺が起きた場所は遺跡なんかではなく、よく知る電車の線路の上のようだった。


 間違いない。駅のホームと線路の上という些細な違いはあるが、ここは数ヶ月前に俺が飲み会の後に居た場所だ。


「あれが夢……ってこともなさそうだな」


 自分の格好を見下ろして、これまでのことが酒に酔って見た夢でないことの確証は得られた。


 衣服だけでなく腰の辺りに差された短剣などがその証拠として残っている。


「く、くく、やった! やったぞ!」


 戻ってきた。その事実だけで十分だった。喜びとか安堵とかの複雑な感情が込められた笑いが口から溢れ出て止まらない。


「な、なんだこの人」

「おい、ヤバイ薬やってるのかもしれないぞ。警察に通報した方がよくないか?」

「あはは、あはははははは!!」


 そんな会話が耳に入ってこなくて笑い続けた結果、警察に通報されて危うく銃刀法違反で連行されかけるのだった。

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