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王弟 2


 シャルル6世は、数か月にわたって狂気の中を彷徨い、その間夫に拒絶され続けたイザボウは、失意の中にも希望を捨てず、各地の聖堂を巡礼し続けた。

 まだまだ医療の概念が未熟であったため、原因不明の病や疾患は神の怒りと見做されることが多かった。夫の側によることもできなかったイザボウは、せめて自分にできることをと、身重の身体で旅を続けたのだ。その甲斐あってか数か月後には、周囲の尽力と義妹であるヴァレンティーナの献身によって、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

「余の妃はどこにいる?なぜ、姿が見えない」

 明瞭な意識を取り戻した王は、真っ先に妻の姿を求めた。

「恐れながら陛下。妃殿下は、陛下の回復祈祷されるたびに出ておられます。オルレアン公が向かっておりますゆえ、今しばらくお待ちを」

「ルイが?・・・・そうか」

 シャルル6世は、自分より先に弟が妻に会うことに不満を覚えたが、長らく彼の妻を側においていたことを聞いていたので、辛うじて口には出さなかった。

 彼は、明るく人好きのする弟を愛してはいたが、第一王位継承権は彼が持っている。弟が不満に思わないよう、様々に融通を利かせてやってはいるが、叔父のブルゴーニュ公と利害が衝突することも多く全て叶えてやることはできない。そのため、疑心暗鬼に陥ることも多かったのだ。

 ともあれ、数日後妻は無事に帰ってきた。それも、戻って数か月後には三人目の王女を無事出産し、巡礼の際に立てた国王が回復した暁には神への感謝の証として、次に生まれる王女を修道女として神に捧げると言う誓いまでした。

 それを知った国王は、妻が愛情深い母であることを知っていたので、その献身と愛情に深く感謝した。そしてまた、そんな身体で各地を巡礼して回ったと言う事実は、更に二人の愛を深める結果となった。


「義姉上。陛下の御回復、まことにおめでとうございます。臣下として、また、王家の一員として、喜ばしい限りです」

国中が国王の回復を歓び、長らく続いたお祝いムードが落ち着いたころ、イザボウはオルレアン公の訪問を受けていた。

「まあ、ありがとうございます。だけど、わざわざお見舞いいただくなんて、何か特別な意味でもあるのかしら?」

「もちろん。僕にとっても、陛下がご健在であられることは重要な意味がありますからね」

 オルレアン公は、王弟だ。王の回復は、言うまでもなく彼の王位継承の可能性が低くなったことを意味している。イザボウは、過ぎし日に聖堂で彼と交した言葉を忘れたことは無かった。

 警戒する様子を見せた彼女に、しかし、ルイは意外なセリフを言い放つ。

「これで。我が国は安定するというもの。本当に僕は、心から良かったと思っているんですよ」

 

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