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アンジュ―公妃 2


「公妃どの。わたくしの顔が何か?」

「まあ、陛下。畏れ多いことでございますが、少しばかり気になることがございまして・・・申し上げてもよろしいでしょうか?」

「何なりと」

 イザボウは、この海千山千の義理の叔母が、人に内心を気付かれるようなヘマをするなどとは信じていなかったが、敢えてその手に乗った。

「陛下は大変流行に詳しく、とても洗練された地位に相応しいご趣味と聞き及んでおりましたが、噂など当てにならぬものと。なにゆえ、放置されておいでなのですか」


 なるほど――――そうきたか。

 巷で噂のイザボウは、その高貴な身分を誇示したいがために華美を好み流行を追って、常に豪奢な調度品や宝飾品を買い入れ、ドレスにも高価な宝石や稀少な羽飾りを取り入れることに余念がない、とんでもなく金食い虫の王妃として名を馳せている。だが、実際の宮廷はどうかと言えば、王宮らしく豪華ではあるが、決して流行の品で埋め尽くされているわけではない。むしろ、伝統に則った以前からの調度品をうまく配置して、重からず軽からずの絶妙なバランスで高雅な雰囲気を醸し出している。王妃のドレスも同様で、流行を取り入れ、高価な宝石を使ってはいるが過剰に華美なわけではなかった。

 だが、それでは噂に聞く散財は、何のために使われているのだろうか。抜け目のないアンジュ―公妃がそう考えないわけがない。つまり、こう訊いているのだ。


 わざわざ悪評をばら撒いてまで大金を集め、一体何を企んでいるのか、と。


 アンジュ―公妃ヨランド・ダラゴンは、王妃イザボウとの面識はあるが、これほど側近くで親しく言葉を交わしたことは無い。今回の縁談の申し出については、実は側近に任せれば事足りる程度のことで、彼女自身がわざわざ出向くほどのことではなかった。なぜそうしたかというと、宮廷やパリの様子を実際に自分の目で確かめたかったことと、この縁談を確実に成立させるためだった。

 第5王子シャルルは出自に疑惑が多く、母である王妃が、彼を目立出せたくないと考えていることは明白で、アンジュ―公家との縁組は、良くも悪くも衆目を集めるうえに、彼の王位継承権を際立たせることになる。つまり、何かと理由をつけて断ってくる可能性が高い。一度断られれば、同じ話をするまでに数年は開けなければならず、そうなるとシャルルを手元で教育するには、些か年齢が高くなりすぎるのだ。教育はある意味刷り込みであり、思考の誘導だ。幼い子供ほど結果が出やすいものなのだ。

 夫はナポリ、息子はアラゴンの王位を手に入れるべくかなりの犠牲を払ったのに、結局王冠はこの手をすり抜けていき、二度と手が届くことはない。ならば、他国ではなく、このフランスで王位を得る努力をして何が悪かろう?

 

「公妃どのが気に掛けるほどのことでは。そうそう、今後のシャルルにかかる養育費のことについては、王家からも相応のものを用意する予定です」

「まあ、そんなお気遣いは無用のことでございます。未来のアンジュ―公のためでもございますし、王子殿下をお迎えするのですから、その程度の負担は当然当家で賄うものと心得ております」

「アンジュ―公妃。わたくしはシャルルに対しできることはなんでもしてあげたいと考えています。むろん、教育の過程や教師の選定にも関わっていきたい。であれば当然王家にも相応の負担があろうというもの。どうか、子を送り出す母としての気持ちを汲んでもらいたい」

「そう言うことであれば、無論、わたくし共に否やはございません」

 イザボウは、母としての心情を前面に押し出して公妃の追及を躱しつつ、シャルルの養育に係ることを認めさせた。王子の身分に相応しい生活を賄う費用は高額で、これにより莫大な資金の行方に対する疑惑も払拭できたはずだ。何しろ国庫は空で、イザボウには面倒を見るべき子供が、まだ6人もいるのだから。


 イザボウの答えを聞いたヨランドは、密かに胸をなでおろす。シャルルとマリーの縁談は成立し、シャルルを手元で養育する権利を得た。王妃はどうやら、自分と子供たちの安全確保に余念がなく、そのために資金を貯めこんでいるらしい。考えてみれば至極最もなことだ。狂気に陥った王は、妻子を護ることなどできず、頼りにできる権臣もいないとなれば、王に万一のことがあった場合など、考えたくもないだろう。

 だが、少なくとも。我がアンジュ―公家は、決して王妃の敵にはならないと言える。イザボウに彼女を邪魔するほどの力があるとは思えず、何と言っても、この遠大な計画が成就した暁には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 こうしてイザボウの末の子シャルルは、未来のアンジュ―公となるべくヨランド・ダラゴンと共にパリを旅立っていった。イザボウはこの後、何度となくヨランドに書簡を送り、次期公爵家当主として相応しい教養を身に着けるべく、つける教師の提案や進捗状況を照会し、体調を気遣った。また、シャルルにも王を補佐する王弟としての心得を、また、いずれは高位の王族として次兄とよく協力するように指導している。



 この時のイザボウは、アンジュ―公妃ヨランド・ダラゴンに対する不信感はあったものの、よもや自分が我が子と対立することになるなどと、一切予想もしていなかった。

 


 



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