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無怖公 4

 

 ルイとイザボウの反論を受けたジャンは、国中の貴族や聖職者、各都市にあてて事件の詳細と自分の行動の目的を説明する使者を出し、弁明に努めたる。何と言っても、彼はパリにいて、国王と王太子を保護しているのだ。そう簡単に折れる理由が無い。

 かといって、ルイもイザボウも譲歩する気は全くなかった。武力行使を厭わない姿勢のジャンに対して、ルイとイザボウは、対抗するべく軍を集め始める。何と言ってもイザボウは、このフランスの王妃であり王太子の母であり、王の勅命により指定された摂政なのだ。無怖公ジャンが、パリを封鎖して王と王太子を人質に立てこもり、我欲のために無理を通そうとしていると公表する。大儀名分さえ整えば、王家に恩を売りたい貴族や褒賞が欲しい者などいくらでもいるのだ。

  このままでは内乱は避けられない。それも、今までのような小競り合いではなく、王家と大貴族の衝突となれば、どれほどの混乱を招くか計り知れない。危機感を覚えたブルボン公は、ルイに軍の解散を提言し、王妃にパリへ戻ることを懇願したが、イザボウは、ジャンが王太子を解放し軍を解散させない限り、此方の譲歩は一切ないと宣言する。続くアンジュ―公とパリ大学代表の説得も全くの無駄足に終わり、9月に入ってからはベリー公もルイを説得にかかったが、二人は決して頷かなかった。

 

 このまま膠着状態に陥るかと思われたが、状況は徐々に変化する。猪突猛進型のジャンは、長期戦が性に合わない。ましてや、相手は王から指名され、摂政権の全権を委譲された王妃だ。王の叔父であった父、先代ブルゴーニュ公ならともかく、今となってはジャンは単なる王の従兄弟で王族ですらない。王弟であるルイでさえ、彼よりはるかに身分が高く、武力で攻撃するのは無理があるのに、王妃が共にあるとあっては反逆と捉えられてもおかしくはなかった。

 ジャンは、しぶしぶながら譲歩する。彼は、軍の大半を解散させることに同意したが、同時に王妃と王族たち(この場合は、オルレアン公、アンジュ―公、ベリー公、ブルボン公の四公を指す)が、国王の回復後ただちに彼の改革案を検討することを条件に付け、ルイ以外の王族がそれに同意した。

 折しも回復した国王により、和解の会談はヴァンセンヌで行われた。そこでシャルル6世は1403年の親書を持ち出して、イザボウに仲裁の役目を託す。王妃の前で国王はアンジュ―公、ナヴァル王、ベリー公、ブルボン公が揃う中、ブルゴーニュ公ジャンとオルレアン公ルイに争いの中止を命じ、二公爵は王の意により完全な和解を受け入れて、今後永遠の友情と信頼を誓い合った。

 こうして政府内でルイと同等の権力を手に入れたジャンは、財政権は全てルイに任せることを表明した。彼はルイの強欲を見抜いていた。何より王国の財政難は深刻であり、争うよりも今後も上がり続けるだろう税金に、民衆の怒りが全てルイに向く方が得策だと判断したようだった。事実、この後も重税にあえぐパリ市民は、ルイとイザボウの二人を憎悪し続けることになる。


 一見、丸く収まったように見えたこの事件だが、ベリー公は、ジャンの野心がこれで満足するとは考えていなかった。彼は、この機会にルイとイザボウに、内乱を避けるための強力な派閥を作るように提案する。二人は、1405年に❝国王及びその子等(王族を指す)の敵❞に対抗するための党派結成の調印をする。この❝敵❞がジャンを指していることは明白だった。

 また、ブルゴーニュ公ジャンは、この事件を大変な屈辱として自らの心に刻む。彼は、結果に満足などしていなかった。父の死後、一時期危うい状況に陥ったが、自分が継いだブルゴーニュ公爵家は、財力武力共に間違いなくフランス一の大貴族だと自負していた。だが、実際はどうだ?どれほど力があろうとも、王族という地位の前では、否、反逆という汚名の前には全く無力だ。彼ら、というよりは王の権威の前で武力に訴えるわけにはいかないのだ。

 それは、これからもずっと、永遠にあの生意気なオルレアン公に頭を下げ続けるしかないことを意味している。自分よりも年下のくせに、ずっと父と対立してきたあの男。自分では何の力も無く金さえ持たない男に、ただ王弟というだけで。


 ジャンは、亡き父の言葉を思い出す。

 ❝お前は、王の従兄弟にすぎない❞

 あの時、自分は何と答えた――――――?

 ❝ならば、新しい王朝で権力を握ればいいのです❞


 馬鹿々々しい。いずれ、娘のマルグリットが王妃となれば、国王の義理の父だ。現王はあの通りで、王妃は外国人。その頃には、あの煩わしい王の叔父も世代交代しているはずだ。そう、今から王太子をこちらに取り込んでしまえばいい。わざわざ王朝交代など考えるまでもない。


 この後、王太子ギュイエンヌ公ルイは、王妃である母イザボウと、未来の舅であるブルゴーニュ公ジャンの間で翻弄され続けることになる。



実は王太子については、パリ脱出に連れて行こうとして途中で捕まったという説と、置いて逃げたという説があります。

今後の展開のため、おいていった説を採用しています。

それにしても、イザボウは5人の男子を産んでいますが、成長したのは不貞の噂のあるシャルル7世一人だけです。それも、ギュイエンヌ公ルイとトゥレーヌ公ジャンは17,8歳で疫病で死亡。この後で詳述しますが、何というか、陰謀の匂いがする死因です。

現代に残る手紙では、イザボウは母らしく子供たちを気遣っているので、とことんついてない女性だよな~という印象があります(個人の感想です)(T_T)。

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