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危険な同盟 2


 オルレアン公の初代は、フィリップ6世が2番目の息子フィリップに授けた公爵位で、以来王太子に次ぐ王家の男子に与えられる地位となった。嫡子(男子に限る)があれば継承されたが、いなければ王家に返還される。初代オルレアン公には男子がおらず、尚且つ今まで王太子以外の男子が王家に残らなかったため、父シャルル5世がルイに授けて現在に至る。

 現在、ルイと妻ヴァレンティーナとの間には一男一女がいるが、嫡男であるシャルルは身体が弱かった。しょっちゅう熱を出して寝込み、そのたびに命が危ぶまれ、後継ぎとしては不安が大きい。数年前にヴァレンティーナが出産した子は男子だったが、産声を上げる間もなく死去した。もし、シャルルに何事かあった場合、オルレアン公爵家はまたしても一代限りで断絶となってしまう。妻はまだ、十分に子供を望める年齢ではあったが、事はそう簡単ではなかった。

 ヴァレンティーナは、美しく淑女らしい気品に溢れ、夫の不貞の子供さえ受け入れて気配りできる懐の深い素晴らしい妻であり、ルイも彼女を深く愛している。それこそ、兄との不倫疑惑が噂される中、彼は決して妻を責めたりせずに、夫婦仲は変わらなかった。

 しかし、万一の時、後継ぎとなれるはずの次男が死んだとき、ルイは紛れもなく安堵した自分に愕然とし、本心に気付いた。彼は、死んだ子を、完全に自分の子と信じることが出来なかったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――一度そう思うと、もう妻を抱く気にはなれなかった。


 ルイは、今までオルレアン公爵に相応しい財力と権力を手に入れようと、奔走してきた。王国で最も格式の高い貴族家として、相応しい力を手に入れて次代に受け継がせたかった。ブルゴーニュ公との対立もそのためだ。

 オルレアン公という地位は、王家に次ぐ最も高い王族という位置づけなのに、領地からの収入はほぼその管理と維持でなくなってしまうほど少なかった。ルイは、自分と家族にかかる費用を兄に強請ることで賄っており、フランス国内に彼に譲れるようなめぼしい所領が無い以上、自力で事業を起こすか国外に権力を求めるほかなかった。ブルゴーニュ公との衝突によりそれもままならず、かくなるうえは蓄財に励むしかなく、そのためにかなりの悪評を被ってきた。それなのに、兄の子()()()()()()子供が、自分の全てを受け継ぐ可能性がある?

 王として優れた男であり、善き兄でもあった。だが、この時代、乳幼児の生存率は極めて低く、特に男子は弱かった。事実、祖父であるジャン2世こそ王太子のほかに3人の息子がいた(この3人こそ叔父のベリー公、アンジュ―公、ブルゴーニュ公の三公である)が、ヴァロア朝初代フィリップ6世から父のシャルル5世まで、王子は一人か二人しか成人していないのだ。現在の王妃イザボウも、既に二人の王子を亡くしている。

 それは、つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という思いを抱かせるに十分すぎるほどだった。


 ―――――先に生まれたことにより、全てを手に入れた兄は、今度は、自分が懸命に築いた大切なものを奪う―――――あくまでも可能性の話でしかないのは分かっている。それでも。

 狂気であるから、正常な思考ができないから。それが何の理由になるだろう。

 

 (ヴァレンティーナ)が産む、()の子()()()()()()、自分達夫婦の子供

 兄の妻(王妃)が産む、自分の子()()()()()()(国王)夫婦の子供


 何という醜悪な茶番なのか――――――そして、そんなことを考え出す目の前の女の、なんと恐ろしいことか――――――

 ルイは、思わず笑いだしそうになるのを堪えた。

 ああ、それは、そんな保証などできるわけがない。彼女が産む子は、必ず王の子と認知されなければ、何の意味もないのだから。

 だけど、きちんと確認しておかなければならない。空恐ろしい提案をしてきたとはいえ、イザボウは、十年近くも文句ひとつ言わずに耐えてきた。なのに今更、どれほどの醜聞に塗れるか、本当に理解しているのか。それは、()()()必要なことなのか。


「義姉上。貴女は、それでいいのですか」

「何がです」

「僕達は、二人で摂政権を独占する。本当にその意味が解っていますか。どれほど慎重に行動しても、周囲は勝手に噂する。そして、関係を隠し通すことは難しい」

 一時閨を共にして、男子が生まれればそれでお終い。摂政権が絡む以上、そんな単純なものではない。二人で国政を執る以上、関係は長期間に及び、やがてそれは国内外に拡大する大きな醜聞になること必至だ。

「貴女の名誉は、地に落ちるということです」


「それが、何だと言うのです」


 イザボウは、義弟のそんな躊躇いなど見事に一蹴して見せた。 


 


 

 

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