歳三様、恋唄 始末記
~ 登場人物 ~ ※年齢は1863年当時
❦ 土方 歳三 (28)
新選組、鬼の副長。
俳句を詠むのが趣味(史実)。
美形で、女性にモテモテ。
京の芸者から貰った手紙を束にして、多摩の親戚に送った事がある(史実)。
❦ お琴
歳三の婚約者。三味線屋の娘。
❦ 土方 為次郎 (51)
歳三の兄。土方家の長兄。盲目で、目が見えない。
❦ 佐藤 のぶ (32)
歳三の姉。佐藤 彦五郎の妻。
❦ 佐藤 彦五郎 (36)
佐藤のぶ の夫。歳三からは義兄に当たる。
❦ 小島 鹿之助 (33)
歳三の親戚。近藤とは、義兄弟の契りを交わした仲。
❦ 近藤 勇 (29)
我等が新選組 局長。
以前の名前は、島崎 勝太。歳三とは幼馴染で、
「歳」「勝っちゃん」と呼び合う仲。
❦ 近藤 つね (26)
近藤 勇の妻。多摩で、天然理心流 試衛館 道場を切り盛りする。
~ 文久3年 11月 ~
―― 多摩・小島 鹿之助 宅 ――
「京の歳三から、文が届いたんだって?鹿之助さん」
「早く、早く開けましょうよ!」
「まぁ、待て待て。彦五郎さんも、のぶさんも。
そう急かすな」
多摩、近藤 勇の義兄弟・小島 鹿之助 宅。
新選組 副長・土方 歳三の姉、のぶと、その夫、佐藤 彦五郎が、集まっている。
「どれ、どれ」
カサッ……
鹿之助は、折り畳まれた手紙を開いた。
『寒くなって来たが、元気にしているか?
俺達 新選組は、元気だ』
「アタシも、元気だよぉ~!」
「もう、お父さんは、いいのよ!」
『十一月廿日、
同郷の、松本 捨助が、京の壬生の宿に来た。
何でも「新選組に入隊したい」と、抜かしやがった。
意味が分からんので、追い返した。
後は、そっちで、宜しく頼む』
「捨助……」
「何やってんの……」
『仲々、便りも出せず、済まない。
新選組の、京での活躍は、捨助から聞いてくれ。
松平肥後守 御預り 土方歳三』
「会津藩の、お預かりになったんだね!」
「良かった、安泰じゃない」
「まだ、続きがあるぞ」
『小島の兄君へ
俺達は、報国を目指しているが、
俺はこっちで、ご婦人方にモテ過ぎて、手紙に書き尽くせない程だ』
「は?」
『京都は島原の花君太夫、天神に一元、
祇園には、所謂 芸妓が3人程、
北野には君菊、小楽という舞子、
大坂新町には、若鶴太夫と他にも2~3人、
北の新地になると、沢山 居過ぎて、書き切れない』
「書き切れない、って……」
『報国の 心忘るる 婦人かな』
「俳句だけ、文字、デカっ!」(←※注:史実通り)
『誰か、天下の英雄が居たら、上京させてくれ。
じゃあな』
「「「………………」」」
「元気そうだな……」
「あっちでも、ブイブイ言わしてんのか……」
「あの子らしいわ……」
―― 京・新選組 屯所 ――
「歳。お前、多摩の小島さんに、便りを出したんだって?」
「あぁ。偶には、元気なとこ、伝えてやらねぇとな。
勝っちゃんも、つねさんに、送ってやれよ」
「どんな事、書いたんだ?」
「こっちで、俺の相手をした、芸者達の名前を連ねて、送ってやった」
「………………。
お前、確か、多摩に残して来た、許嫁が居たんじゃなかったか?」
「あぁ、お琴さんか。
何、その辺りは、姉上達が、上手くやってくれるさ。
あの人に、伝わる筈が無い」
「……お前、本当、程々にしないと、いつか、女で身を滅ぼすぞ」
―― 多摩・小島 鹿之助 宅 ――
「あっ、あの!鹿之助様!」
「おっ、お琴さん!」
「京の歳三様から、文が届いた、って……!」
「いっ、いや!」
「元気に!元気にしてるから!」
「お願いします!私も、読みとうございます!」
「大丈夫!元気だから!」
「私は、歳三様の、許嫁でございます!
読む権利は、あるでしょう?」
「あっ!」
「……………………」
~ 数年前 ~
―― 日野・土方家 ――
『歳三。お前に会わせたい、いい娘が居るんだ』
『誰ですか?兄上』
『私の行き付けの、三味線屋の娘なんだが、
名を「琴」と言う。
これが、大層な美人で、三味線の腕も達者、器量も良くてな。
是非、お前に、引き合わせたい。
どうだ?一度、会ってみないか?』
『……為次郎 兄上が、そこ迄、言うなら』
『お琴で、ございます』
『…………!』
『歳三様は、私の事が、お嫌いなのですか?』
『そうじゃない。
そうじゃないが……俺には、成したい事がある。
だから、あんたとは、夫婦にはなれない』
『…………でしたら』
~ 現在 ~
―― 多摩・小島 鹿之助 宅 ――
「だから……だから、私、身を引きましたのに!
あの時の言葉は、何だったのですか!」
「お、お琴さん、落ち着いて……!」
「これが、落ち着いていられましょうや!」
~ 5年後 (慶応4年) ~
―― 多摩 ――
「お琴さん」
「……歳三様」
「京から、こっちへ戻って来たから、立ち寄った。
久し振りだってのに、何て顔してるんだ?」
(顎クイ)
パシッ
「なっ……?」
「……これは、何かしら?」
「!!
そ、それは、俺が、小島さんに送った文……!
な、何で、お琴さんが!?」
「貴方、京に上る前、私に、こう仰ったわよね?
『成したい事があるから、夫婦にはなれない』って。
だから、私は身を引きましたの。
京で一体、何をしてお出ででしたの?」
「い、いや、これは……!」
「さぁ、申し開きしてご覧なさい!」
「……ちっ!」
ぎゅっ
「!な、何をなさるの?」
「黙って、俺に身を委ねてろ」
「狡いですわ……そうやって、貴方は、何人の女の耳元で、囁いて来たの?」
「あっ!お~い、土方~!」
「捨助!お前、何で、ここに?」
「呼ばれもしないのに、現れるのが、捨助でございますよ!
土方!お前、よくも、俺の事、袖にしたな~?」
「お前に、新選組の隊士は、無理だ」
「俺だって、勝っちゃんと一緒に、戦いてぇんだよ!」
「……捨助さん」
「あっ、お琴さん!相変わらず、別嬪さんだな~!
やい、土方!お前、京で、芸妓の君菊さんと、子供、こさえてただろ?
こんな美人の許嫁が居るのに、隅に置けねぇな~!」
「ばっ、馬鹿!」
「……と・し・ぞ・う・さ・ま~!?」