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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

物欲×裏切り×断捨離

作者: 沖田 楽十

 人間は裏切る生き物だ。でも、物は裏切らないから好き。ーーそれが、私の考え。





「………で。その考えだから、こんなに部屋が散らかっていると? 」



 アズミの部屋を見て、私は溜息を吐いた。一人暮らしに、仕事で部屋を片付ける時間がない。わかる。解るのだが……だとしても、この部屋は散らかり過ぎだ。

 物が多く、何処に何があるかわからない状態なのだから…。



「これ、めちゃくちゃホコリ被ってるじゃん! 捨てないと…」


「駄目駄目っ! それ、大切なんだからっ!!! 」


「じゃあコレは? もう空箱からばこだし、食べ物入ってたヤツだから、カビ生えてるかもよ? 衛生的に好くないって」


「駄目駄目っ! まだ、写真撮ってないからっ!!! 」


「じゃあ今撮れ。で、捨てろ。要らないし、さっきも言ったケド、ほんっっっとうに衛生的に好くないから」


「っ……でも…」


「思い出を取っときたい気持ちも解らなくは無いケド、断捨離が得意な人=思い出を大事にしない人、じゃないから! 物理的なのを如何いかに精神面に持っていくのが上手い人だからね!? 」


「っっ………でもさ、なにかを思い出す時とかに、物は必要じゃない? 物があるから、感情が動いて、記憶の引き出しから思い出を引き出し易いというか……」


「あー…それは聞いた事ある。感情と記憶は結び付き易いって……じゃないっ!!! アンタ、そんなんだから、部屋がこんなにゴミめになるのよっ! 」



 言って、目の前のゴミと化した食べ物を入れてたと思われる空箱をグシャっと丸め、用意していたビニール袋の中にほうる。



「あ"あ"ああ"ぁ"っっ!?!!! 」


「アンタが捨てられないなら、私が捨ててやる」


「ひっ…酷いッ! 私の、こっ…コレクションがああぁ!!! 」


「あの箱のデザイン、公式のサイトで探せば、いくらでも見られるでしょ? 」


「それじゃ駄目なのっ! サイトのページがいつ消えるかわからないし、それに…手元に置いてなきゃ意味がないのよぉっ!!! 」


「………アンタ……」



 断捨離をする際に、トキメキがくなった物に対して、【捨てる】か、【トキメキが再熱するのか判らないものは一時的に保管ほかんする】の二択の考え方がどうとかって、聞いた事がある。

 アズミの場合、トキメキがいつ戻るか判らないから残すという考え方が多く、結果的に捨てられない事の方が多いのだろう。



「……また欲しくなった時に買えばーー」

「“また”なんてくるかどうかわかんないじゃんっ! 私が子供の頃に手放てばなしてきた物、今じゃプレミア付いてて買い辛くなってるよ!? 」


「……………」



 地雷を踏んだっぽい。話題をらしてなんとか片付けに話を持っていかなきゃなぁ…と思っていると、


「解ってるもん…。本当は、ちゃんと断捨離して、部屋も自分の心もスッキリさせた方がイイって、解ってるもん…」

 ぽそりと、聞き取り辛い声で、アズミは言った。



「…解ってるならさ、じゃあ早速ーー」

「でもこのコ達がいたから、現在いまの私があるんだよ!? 簡単に捨てられるならとっくの昔に捨ててるわよっ! でもっ、このコ達に支えられてきて此処まできたのに、その私がこのコ達を裏切ってイイの!? 」


「……………」



 ……いや、待て。なんの話だ、コレ? 私は要らない物を捨てて部屋を片付けろ、って言ってるんだよな? なのに、物に申し訳ないから捨てられない…アズミはそう言ってる様な気がするのだが?



「裏切るって、大袈裟おおげさな……。あのさ、生きてると価値観や考え方って変わっていくものじゃん? つまり、現在いまアンタが大事にしてるコレとかソレとかが…まぁ、アンタの中で要らない物だと思ってしまう日がくると思うのよ、私は」


「ッッ…でっ…でもっ、そーゆう日がきても、再熱する日だってあるじゃんっ! その時に過去に持ってたグッズを断捨離した事を後悔するのは嫌だっ!!! 」



 ああ言えばこーゆう…話は平行線を辿る気がした。一向に進む気がしない。ーーただ、話していて、断捨離出来ない理由がなんとなく解った。


【捨てる】というコトは、“罪悪感との戦い”なのではないのか? と。


 生活にはかせない日用品など、使い捨ての物は、【捨てる】という行為が当たり前化されてる為に、捨てる事に対して罪悪感をいだづらい。

 だが、洋服などの自分が身に付ける物や、心の栄養にと集めたりする事が多い推し活グッズなど、“自分の意思で、残すか捨てるかを決める事が出来る物”は、現在いまの自分が過去むかしの自分を否定してる感覚におちいやすいから、捨てる事への抵抗感が強いのではないのか? と。



「……だったら…欲しいからって…買える時は今しかないと思うからって…片付けに困るぐらいに買わなければイイのに……」


「っっ…わっ…、解ってるもん…ッ」


「いや、アンタは解ってないわよ。ってか、アンタ自身、アンタの座右ざゆうめい…というか考え方を冒涜ぼうとくしてるわ」


「………えっ…? 」


「だってアンタ言ったじゃない。【人間は裏切る生き物だ。でも、物は裏切らないから好き】だって…。それってさ……現在いま、ゴミ溜め化した部屋の中により、アンタが大切にしてきた物達がもれてるって事よね? 物は裏切らない…確かに、劣化れっかして発売当時の姿では無くなるケド変わらないわね。でも、アンタ自身が物を大事にしてないから、このゴミ溜めの中に埋もれてるって事でしょ? 心変わり…つまり、アンタの裏切り行為によってね! 」



 ………フッ、決まった。今度こそ、有無うむを言わさずに部屋の片付けをーー


「ッッ……じゃ…じゃあ質問だけど……今まで大事にしてきた物を、トキメキが失くなったからっていう理由だけで、直ぐに手放せる人は、信用出来る人なの? 」


「………へっ…? 」


「だって私みたいに大事な物を部屋の中に埋もれさせるのが“物への冒涜”だっていうなら、今までお世話になった物を軽く手放せる人は物を大事に扱ってる行動だって事でしょ? 」


「……………」



 また極端きょくたんな話を持ち出してきたアアァ!!!

 ………いや…待てよ? 極端から極端な話題に論点ろんてんをすり替えてるという事は、アズミも部屋の片付けをする為に断捨離をした方がイイと思い始めてるのでは?

 考えろッ!! 今をのがすと、また振り出しに戻って更に説得し辛くなる筈だ。


(言葉選びは慎重に……)



「………ひっ……ヒトによるかなぁ? 」


「………説得力に欠けるなぁ」


「っっ…たっ…例えば、誰かに自分が要らなくなった物をゆずるとしましょう。で、ある時に物をあげた人物と何気ないやり取りで、『私が渡した物如何してる? 』とたずねたら、使わなくなったから【捨てた】と答えられた。アズミ…アンタだったら、物をあげた人物に対して、どーゆう気持ちになった? 」


「そもそも、私は誰かに物をあげたりしないわ」


其処そこッ! 茶々(ちゃちゃ)れずに、質問に答えなさいっ! 」



 それにアズミは不満そうに唇をとがらせ、わざとらしく溜息を一つ吐くと、やれやれ…と言った感じで、肩をすくめた。



「………そう、ねぇ……うーん……私なら、腹立つわ」


「…自分であげたのに? 」


「たっ…確かにあげたケドさっ! ……自分があげた物を捨てられるのは、嫌だ…」


「……でも、あげた時点で、貰った人がどう使うかは、その人の自由だって理解はしてるのよね? 」


「……………なにが言いたいの? 」


「私、思うのよ。【捨てる】事が罪悪感を抱くものなら、じゃあ、自分が要らなくなった物を他人に譲るの心理状態は如何なのかなぁ、って。あれってさ、罪悪感を他人に押し付けてる場合もあるのではないのかなぁ、と」


「……どーゆう事? 」



 意味が分からないと言った顔で尋ねるアズミに、私は話を続けた。



「例えば、他人に物を渡す場合は、あげる人物の為を想ってか、自分が要らなくなったから、だとして…。あげた時点で、貰った人がその物の所有者になるわけだから、所有者がどう扱おうが自由だっていうのが、頭では理解してるのよ。只、あげる人物の為を想って渡すよりも、自分が要らなくなった物を渡した方が、所有者がその物を手放す行為が許せない様な気がしてね」


「…如何して? 」


「だって……自分が罪悪感で捨てられないから、ソレを貰う側に譲る、という名目めいもくで“罪悪感を押し付けてる”だけな気がしない? 」


「………」


「だから…うーん、と……自分が片付けるべき罪悪感せきにんを、誰かにあげるという名目で背負せおわせて、その癖、勝手に捨てたら言いがかりをつける様な奴は、信用出来ないと、私は思うわ」


「………私は、“信用出来る人”の特徴をいてるんだけど? 」


「そんなの判らないわよ。ってか、そんなの私が知りたいぐらいだし…。というか、特徴というよりも、自分に対して見せてくれるかおで、判断すればイイんじゃないの? 」


「見せてくれるカオ? 」



 言って、首をかしげるアズミに、私は「えぇ」とうなずく。



「だって、裏表がない人間なんて誰もいないし…というか、ヒトによっては、対応を変えなきゃならない場合だってある。例えば目上の人に対して、家族に向ける様なものや、友達に向ける様な態度は取れないでしょ? 」


「そっ…それは、まぁ……でも…私に対しては態度がイイからって、理由なくヒトによって態度を変えたり、自分よりも立場が弱い人をもっともらしい理由をつけて平気で傷付ける事を正当化する人は……ッ」


「アズミの信用出来ない人間の特徴…それでイイんじゃない? 」


「!」



 共感は、他人の心を開かさせる…って、聞いた事があった様な無かった様な気がする。


(もうひと押し…)



「断捨離って、普段から実用的なのや、なんだかんだ手放せない物だけが残るんじゃないかなぁ、と思うんだ。だってさ、自分の好きや価値観はどんなに誰かから嫌味を言われたって、中々変わる事が出来ないでしょ? 」


「………そっか……そう、だよね…」



 うん、と何処か納得した様子で私を見るアズミに、ようやく本題に移っても問題がない事をさとる。


(なっ…長かったぁ……)



「だっ…だからアズミ。断捨離して、部屋をーー」

「じゃあ、このコ達は捨てなくてもイイ、って事だよね? 」


「………ん? 」


「アナタが言ったんじゃない。実用的なのや、“なんだかんだ手放せない物だけが残る”って。この家の中にある全ての物は、実用的なのか、なんだかんだ手放せない物だけよ? 」


「…………………」











後書き

部屋の掃除や断捨離が苦手な楽十さんは考えました。

如何したら、部屋の片付けとか断捨離がほんの少しだけでも出来る様になるのか?と。

誰かにアドバイスされるよりも、自分自身にアドバイスをした方が、私に寄り添ったアドバイスになるのではないのか?と。


正直……特大ブーメランが何回も私を追い駆けてきてます。そんぐらい、痛い内容…。

でも、書いてて楽しかったし、なんとなく、片付けの参考になった気がします(`・ω・´)❤️(←⁉️)


罪悪感せきにんとの向き合い方かぁ…。

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