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9 思い出したのに、婚約!(2)

 その後、お母様は傷痕も一切残らず全快。お父様が聖騎士団を辞することもなかった。もちろんお兄様もチャラ男になっていない!

 つまりは、シナリオを一つ変えることができたのだ!

 この調子で魔王に対抗する力を身につけていけば、死ぬ運命だって変えることができるかもしれない!  


 いつも通り朝から剣術の稽古を受け、その後、元気を取り戻したお母様から手厳しい淑女教育を受けていた午後。

 休憩時間のお茶と言いつつも、お茶の作法も気が抜けないので全く休憩ではないのだが、それを顔に出してもいけない。身体を動かす方が好きな私には、拷問のような時間だ。そんなティールームに、聖騎士団の騎士服に身を包んだお父様がやってきた。


「ソフィア! リディア! 聞いてくれ!」


 何やら興奮した様子のお父様。

 後から付いてくる側近の方もお兄様も、何だか高揚した顔つきだ。


「まぁまぁ! そんなに慌ててどうしましたの?」

「ついに結論が出たのだ! リディの魔石はすごいぞ!」

「!」


 なんでも、私が聖魔法を込めた魔石は、お父様をはじめとする聖騎士団や公爵家の専門家の皆さんで調べ尽くし、やはり「少しの魔力を加えるだけで聖魔法と同じ効果を発揮できる」と判明したのだそうだ。


「我がメイトランドの大発明だ! これが魔王討伐の手立てとなるに違いない! リディ、君は聖女様かもしれんぞ!」


(残念! 私は悪役令嬢ですー)


 しかし、本物の聖女であるヒロインは、光魔法で重宝されるのに、光魔法が誰でも使えそうな石を開発してしまった……。

 ごめんね、ヒロイン。シナリオを変えた代償はあるのかしら。怖いけれど、必ず貴女の恋を応援して、アラン様とハッピーエンドに導きますからね!


 この発明品は王室にも報告され、『聖石』と名付けられた。そして、メイトランド公爵家の功績として大々的に発表されることになった。その際、発明したのはお兄様ということにしてもらった。「次期公爵を侮るな!」というアピールの為だ。

 正直に発明者は私だと発表すると、私の命が危ないんですって。恐ろしい! その点お兄様は私より強いし、学園に入学してしまえば他の貴族の影響を受けづらいということで、お兄様に大変な役割をお願いすることになったのだった。


 後日、お兄様には名誉勲章が授けられることになった。


 お兄様は私に悪いと言って下さったが、全く気にしていない。だって私は、この世界では悪役令嬢なわけだし、生き残ってアラン様ルートの神スチルを見学することが目標なので、勲章だの功績だのには興味はないのだ。


(そういえば、アラン様にはずっとお会い出来ていないわ……)


 二年前、記憶が蘇って気を失った際に出会って以降、きちんとご挨拶する機会はなかったように思う。お父様と同じ聖騎士団に所属されているのだから、会えてもいい気がするのに。残念!


 でも、三年後、学園に入学すれば会えるはず。そうしたらヒロインとの仲を全力で応援しなくちゃ。


 生き残って神スチルを見学するぞー!!



 まだ十四歳の次期公爵が、『聖石』という奇跡のアイテムを産み出した──それは社交界に大変な衝撃をもたらした。


「流石、筆頭公爵家の嫡男! 我が国は安泰だ!」

「これで魔物が現れても安心だ。メイトランド公爵にも、御子息にも感謝せねば」

「ふん、公爵家の者ばかりが良い思いをしよって……!」


 ささやき声が群生して、ガヤガヤとする広間の中心には、メイトランド公爵とその嫡男、ディーンが頭をたれている。

 

 その先の玉座へ国王陛下、王妃殿下、王子殿下がやってきたところで、広間はしんと静まり返った。


「此度はメイトランド公爵家が創り出した『聖石』によって、我が国は魔物に対抗する力を手にすることができた! これからは魔物による魔障に悩まされることもなく、聖魔法が使えずとも魔物に対峙することができるのだ!」

「おお!」

「なんと素晴らしい」


 妬みの視線と賞賛を浴びながら、メイトランド公爵とディーンは、これがあのお転婆娘の功績だということは、墓場まで持っていかねばと決意した。


「ここに、その栄誉を讃えよう!」


 その後、王宮ではささやかな祝賀パーティーが開かれた。リディアはデビュー前である為留守番だ。

 ディーンの友人であるクリストファー殿下は、幼馴染の功績に深く感嘆していた。


「ディーンにこんな才能があったなんて知らなかったよ。おめでとう」

「ありがとう、クリス……公には出来ないが、色々あるんだ。また今度我が家に遊びにこいよ」

「そうさせてもらう。……リディア嬢にも会いたいしな」

「!?」


 クリストファー殿下の瞳はうっとりと細められた。この場にいない自分の妹を美化し、幻想を抱いているのだと容易に分かる。ディーンはうんざりと「リディは猿だぞ……」と呟いた。


「何を言う。あんなに可憐で清楚なレディに猿などと。実の兄でも言って良いことと悪いことがあるぞ」

「ええ……」


 何を言っても恋は盲目。

 クリストファー殿下の淡い恋は、相手の本性を勘違いしたまま、膨らんでいくばかりだった。


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