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7 思い出したので、筋トレ!(6)


「リディアは少し顔がキツイけれど、美人でスタイルもいいものね。流石私の娘だわ!」

「……ありがとう、お母様」

「お嬢様はお顔が怖い時もありますけど、赤髪と陶器のような白いお肌がお美しいのでなんでもお似合いになりますね!」

「……どうも、メアリー」 


 王都で流行りのドレス店に連行され、さっきから着せ替え人形のごとくいろんなドレスを試着しまくっている。いつもは公爵邸に商人を呼んでお買い物をすることがほとんどだが、こうしてお店に足を運んだ方が、数多くの品物から選べて楽しいようだ。お母様のテンションが高い。私はあまり興味はないけれど。


「このドレスにはこちらのお帽子も合いますよ」

「まぁ! 素敵! それもいただくわ!」


 お父様、こんなに散財してますけど、いいのでしょうか……。

 お母様がほくほく顔になるまで買い物は続き、終わった頃には私は疲れ切っていた。


「楽しかったわぁ」

「リディアお嬢様は何でもお似合いになりますから、選びがいがありますね」

「……疲れたわよ」

「甘いものでも買って帰りましょ」

「さすが奥様! でしたらそこの────」


「キャァァァァ!!!!」


 街中に響く悲鳴。咄嗟に身構える。


「!?」

「逃げろ!!」

「いやあ!!」


 人々が一心不乱に駆け出し、あっという間に街中はパニック状態になった。護衛のハロルドに誘導され、馬車の方に移動を試みるが、人波に流され身動きが取れない。


「何があったんですの!?」

「もしかして……!」


 その時、頭上に大きな影が出来た。見上げると鳥に似た魔物が上空を飛んでいる。


(ブラックバード!!)


 黒い身体に鋭いくちばしが特徴の魔物だ。知能が高く、人間の食べ物を狙い、作物を漁る。確か北の辺境の森付近にしか出現しなかったはずだ。何故王都に!?


 ブラックバードは鋭いくちばしで、次々と人々を襲う。群れで行動する習性の為、上空に数えきれない黒い物体が飛行している!

 

(こんな時に! 帯剣していないわ!)


 自分の迂闊さを悔やむ。お母様が危険な目に遭うことは分かっていたのに!

 さっとハロルドをはじめとする護衛達が私やお母様を取り囲んだが、それにしても魔物の数が多かった。


「剣を余分に持ってる人は……いないわよね。私は戦えるからお母様をお願い!」


 そう言うや否や前へ出て聖魔法を展開した。


「お嬢様ッ!!」

「だめよ! リディ!」


 お母様が止める声が聞こえたが、無我夢中で魔物に立ち向かう。魔物に聖魔法を展開したファイヤーボールをぶつける。すると聖魔法が効いたのか、魔法が当たった個体が空から落ちた。


「や、やったわ! 初めて魔物を倒せた!」


 しかし喜んでいる暇はない。数十匹の魔物が飛来してくる。聖騎士団が到着するまで、ここはなんとか守らなければ!


「くらえ! ファイヤーボール!!」

 

 夢中で飛んでいる魔物を撃つ。しかし動く対象物に向かって撃つのも、帯剣せずに魔法だけで戦うことも初めてで、上手く当たらない。

 無駄に魔力を使えば、このまま力尽きそうだ。護衛達もそれぞれ腕は立つが、聖魔法を習得している者はおらず、飛行している魔物に対して物理的に攻撃できるものはいない。低空飛行してきた魔物に剣で攻撃しても、あまり効果がないようだった。

 多くの人が逃げ惑う中、お母様を乗せて馬車を出発させることもできなさそうだ。


「皆逃げて! お母様も走って! 私はお父様達が来るまで、なんとかここで食い止めます!」

「そんなことできるはずがないわ!」

「お願い! お母様!」

「いやよ! 私は死んでも貴女のそばから離れないわ」


 お母様は恐怖で震えていた。だが、強い瞳で主張する。娘を置いて自分だけ逃げるだなんて出来ないと。


「キャァァァ!」


 その時、メアリーが叫んだ。振り向いた時には、後ろから魔物が何かを発していた。私は攻撃魔法を打ったが、少し遅く、その衝撃はメアリーを咄嗟に庇ったお母様に当たってしまった。


「お母様!!!!!」

「奥様!!!!!」


 一瞬でお母様の身体が黒く焦げ、瘴気に当てられたのだとわかった。スローモーションのようにお母様が地面へと倒れてゆく。


「い、いやよ、いや。お母様! お母様!!」


 気を失い、呼吸も浅い。未来を変えられなかった。運命を変えられなかった!

 それどころか、ここまで酷い瘴気を浴びて、お母様がもし、儚くなってしまったら……? 私のせいで、もっと酷い未来が訪れてしまったら──?


「お母様! いやああ!」


 空には魔物の群れ。戸惑う護衛とメアリー、そして泣き崩れる私。お母様の意識はなかった。

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