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43 嘘と偽りと聖剣!(3)

またもや投稿時間が遅くなってしまい申し訳ありません!お楽しみいただけますように!


 私達は王城に戻り、今後の作戦を練ることにした。

 国王陛下に聖剣を手にしたことを報告し、聖騎士団にも協力を要請。魔王戦に向けて、私たちだけではなく国を挙げて対抗する方針が決まった。


「リディとステラ嬢の話だと、俺は本来死ぬ運命ってことか」

「それどころか国ごと壊滅すると」


 お兄様とキース様がより具体的になった今後の未来について反芻する。


「大丈夫です! 私が聖剣でチャチャッと魔王を倒しちゃいますから」


 ステラが力強く宣言する横で、アラン様とクリス様が難しい顔をしている。愛する少女が危険な目に遭うのが心配なのだろう。クリス様の考え込む姿に、ちくりと胸が痛む。


「聖石もあるし、魔王以外の魔物はわたくしたちも倒せるわ。きっとわたくしとステラが知る未来より、良い結果になるはず」

「そうそう!」


 とはいえ、何も関係のない民への被害を最小限に抑えなければならない。避難方法や場所、魔王復活のきっかけとなる時期などを詳細に話し合い、この日は解散となった。


「ステラ嬢」


 クリス様が最後にステラを呼び止める。私はちょうど執務室を出るタイミングだったが、そのまま退室した。

 二人が会話する姿など見たくなかった。聞きたくなかった。ステラを心配する瞳、甘い微笑み、優しい声。それらを目の当たりにしてしまえば、私はきっと泣いてしまう。まだ、この恋心が散ることを覚悟できていない。でも絶対に嫉妬で行動したりしない。生き残りたい。


「……ッ」


 未練がましく付けている手首のブレスレットに触れた。人目につかないように袖の中にしまってある。

 クリス様がステラを想い、もしステラと結ばれる未来が来たとしても、私は邪魔なんかしない。そうよ、ステラとクリス様の素敵なスチルがあったじゃない。それを見学して、それで……。


「…………ッ」

「リディ?」


 先を歩いていたお兄様が振り向く。泣き顔を見られたくなくて、思わず回れ右をする。


「わ、わたくし、忘れ物をいたしました! お兄様は、さ、先に、お戻りになって!」

「お、おい!」


 全速力で王宮の廊下を走る。そして、先程いたクリス様の執務室の隣、王太子妃の部屋へ逃げ込んだ。そして耳を塞ぐ。ステラとクリス様の話し声が聞こえたら嫌だ。泣き顔も見られたくない。声を殺して、ずるずるとそのまましゃがみ込むと、うずくまる。涙はそのまま私の服を濡らし続けた。




「リディ?」


 どのくらい時間が過ぎた頃だろうか。頭上で声がする。好きな人のテノールの声。だけど顔は絶対あげたくない。


「リディ、どこか痛い? 辛いところがあるのかい?」


 声を発することもできない。きっと声はガラガラだ。


「……これから起こることが怖い?」


 そうね、確かに死ぬのは怖い。でも、あなたを失うのが、一番怖い。


「リディ。君のことは私が守る。大丈夫だ。必ず守る。君が……誰を想っていようと。私は君が生きてさえいれば……いや、それは嘘だな。本当は……」

「聞きたくないッ」


 クリス様の独白は、きっと私が聞きたくない結論に進みそうで、思わず遮った。


「何故?」

「クリス様がっ、す、好きな人っ、き、聞いたらっ、わ、わたくしはっ、あ、悪役っ、令嬢に、な、なっちゃう!」


 うずくまったまま、しゃくりあげながら何とか搾り出した本音は、みっともなくて弱々しい。涙が止まらない。


「貴方がっ、誰か他の人をっ、愛しているところ、見たら……わ、わたくし……!」

「それは……」


 困惑しているような声。困らせてしまっているのを理解しても、一度溢れ出した本音が止まらない。


「何も言わないでください!」

「リディ……!」

「死んじゃうの! あ、貴方の好きな人を、わた、わたくしは、いじめて、死んじゃうの! でもっ、わたくし、そんなことしませんわ! 貴方に愛されなくても、い、生きたいのです! 貴方のいる世界で生きたい……! でもっ、本当はっ」

「本当は?」

「……ッ。ひっく、うう……いやよ、言わないわ。だって言ったら……! 謝るんでしょ? 『気持ちに答えられなくてごめんね。婚約破棄してくれ』って! いやよ! まだ、わたくし、あなたの婚約者でいるわ! あなたを! 死なせない!」


 うずくまり泣き叫ぶ私の前に、クリス様がそっと座り込む気配がする。そして大きな手が私の頭をぽんぽんと撫でる。


「ねぇリディ? 私が死なないように守ってくれるつもりなの?」

「ええ、そうですわ! ひっく……だって! ステラは、アラン様を選んでるもの!」

「意地悪なリディ。リディの気持ちは言わないくせに、ステラ嬢の気持ちはあっさり言うんだな」

「! や、やっぱり、ステラが好きなのね! クリス様の方が酷いわ! わたくしの気持ちを弄んでっ」

「人聞きが悪いな」

「だって! 初めてのキスを奪ったじゃない! んん!!」


 思わず顔を上げた瞬間に唇を塞がれた。泣きながら怒る私をあやすように、繰り返されるキス。優しいキス。抵抗も出来ず、ただ、つぅっと頬を涙が伝う。それをクリス様が唇で受け止めていく。


「……リディの中で、私は好きでもない女にこんなキスをする、酷い男なのか?」

「……?」

「私はずっとたった一人を見ている。よそ見などしたことはない。リディが言ってくれないから言わないけれど、私は薄情な男ではないし、謝るつもりも婚約破棄をするつもりもない。未来の王太子妃はリディただ一人だ」

「え……?」

「何をどうやってそんな勘違いをしたのかわからないけれど、泣くのは私の前だけにしてくれ。リディが意地悪を言うたびに、私はキスを贈るよ」

「んん!」


 そうして贈られるキスは酷く甘かった。あれ? 今、クリス様は何と言った? 耳を疑うほどの都合の良い話と、甘い口づけで、頭が混乱している。


「私の可愛い人。君のその愛らしい口から、熱烈な告白が飛び出すまで、私は生き残るし、君を守るよ」

「!」


 たった一人……勘違い? 王太子妃は……私? 可愛い……私が?


「わかってくれた?」

「わ、わたくし……」

「魔王を無事倒せたら、時間をくれないか」


 宝石のような美しいアイスブルーの瞳が、まっすぐ私を捉えている。私だけを。

 この輝きを疑い、泣いていたさっきまでの私が、急浮上していく。それどころか沸騰する勢いで熱を持っていく。


「……はい」 


 恥ずかしさで小さく答えると、嬉しそうにクリス様はまたひとつキスをくれた。


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