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39 恋と仮装と文化祭!(7)


「アラン様、今日はありがとうございました」

「いや。大盛況でよかったな」

「はい! アラン様とキース様のおかげですね」


 珍しいメイド服に身を包んだステラがにっこり笑う。コイツの笑顔は心臓に悪い。思いがけず心拍数が上がったことに気づいて、口元に手を当てて目を逸らす。上手い誤魔化し方も分からない。いつ頃からだったか、コイツが特別可愛く見えて困っている。


 今日の服装はとんでもなく愛らしい。これは反則だ。リディア嬢も同じ姿をしていて話題になっていたようだが、ステラの人気も凄まじかった。何人の男を追い払ったか。不埒な目で見た奴を全員縛ってやりたかった。自分が嫉妬していると気づいた時、キースが呆れ顔で「人手不足なので貴方は退場したりしないでくださいね」と釘を刺してきた。ダダ漏れということか。


 今は各クラスの出店時間が終了し、片付けをしている。後夜祭に向けての待機時間だ。


 ステラに早く着替えて欲しいのに、素直にそう言えない自分がもどかしい。


「アラン様?」

「い、いや。なんでもない」

「私、このメイド姿をアラン様に見てもらいたかったの。だから、今日、来てくれて嬉しかったです」


 顔を赤らめてそういう彼女がひどく愛おしく思えた。


「よく、似合ってる」


 そう褒めるのが精一杯だった。だが、ステラはとても嬉しそうにして、「ありがとうございます」と照れたように笑った。

 


「キャーー!!」

「「!」」


 ステラと二人顔を見合わせて、悲鳴が聞こえた方に走り出す。一拍置いて後方にいたキースが他の生徒を誘導している声がした。

 ステラより自分の方が足が速いので、彼女を置いて行くのは気が引けるが、今はそれどころではない。声がした方角──裏庭に向かうと、大きな魔物、ゴーレムがいた。


 走りながら剣を抜く。


 別の方からクリスとリディア嬢がやってくる。将来の国王と王妃なのだから、こういう時は率先して安全なところで待っていて欲しい。すると真横にディーンが駆け込んできた。遅れてステラも到着する。全員が戦闘体制で魔物に対峙した。その様を見て思わず苦笑する。

 

 可哀想なくらい絶望的だな。──魔物が。


 この国の精鋭がこれだけ集まれば、一瞬だ。いくつかの聖魔法が展開され、あっという間に魔物は消えた。校舎の中から様子を見ていた生徒達が、次々と歓声を送る。盛大な歓声に包まれて、クリストファーとリディア嬢がそれに応えていた。



 キースとディーンは急ぎ王宮へ報告する為出発し、クリス達は生徒達を宥め予定通り後夜祭を行う準備に戻った。俺も聖騎士団に報告をと思ったが、ステラが一人蹲っているのに気づいて近づく。見ると、膝を思いっきり擦りむいていた。ここへ向かう途中に転んだのだろう。


「いてて……」

「……女の子なんだから気をつけろ」

「大丈夫です! これくらい私の光魔法で治ります」

「そっか。でも、まぁ、気をつけとけ」


 パァッと白い光が差し、ステラの膝は元通りになった。手を差し出し、彼女を引っ張り起こす。彼女のスカートが揺れる。


「アラン様はお怪我はありませんか?」

「ない」

「よかったです! アラン様がお怪我をしたら私がすぐに治しますからね!」


 その太陽のようなあたたかな笑みに、人は惹かれ、彼女を好きになるのだろう。

 唐突に、自分もその一人なのだと気付く。


「……俺は実力さえあればいいと思ってた。でも違うんだな。お前みたいに、笑ってもらえると心地いい」

「気づいてますか? アラン様、今、笑ってますよ?」

「っ! そ、そうか?」

「ええ! ふふふ! アラン様の笑顔見ちゃった〜! 嬉しい!」


 照れて上手く言葉が続かない。顔が赤い気がする。羞恥で「見るな」と言っても、彼女はニコニコと俺の顔を覗き込む。

そうして二人とも結局面白くなって、笑い合った。こんなに笑ったのは、久々だった。


 だが、ふと彼女を見ると、どこか寂しそうに瞳を揺らしていた。


 

 私が前世の記憶を思い出したのは、入学式当日。


 この学園にやってきて門の前に立った瞬間、この世界がゲームの世界だと気づいた。私はステラ・オールブライト。このゲームのヒロインだ! そう気づいた時はとても嬉しかった。


 私のステラとしての人生では、光魔法の属性を持って生まれたことで、特別視されてきた。でも実家は裕福ではない。私を買い取ろうとした金持ちの貴族もいたし、人攫いに遭いそうになったこともある。いくつもの試練をギリギリ乗り越えてきた。家族はあたたかい人達で幸せだったけれど、大変でもあった。


 だけどここから先は、ハッピーエンド!

 ゲームの通りに活躍して、かっこいい男性と恋に落ちて結婚できたら、私の未来は明るいに違いない!


 希望を抱いて学園の門を潜った。──だが。


『いたわ! あれが噂の聖女様ね!』


 そんな小さな囁きを耳にして、「私のことに違いない」とほくそ笑む。ゲームの中でもヒロインは珍しい光魔法属性で、『聖女』だと言われていた。だが、噂話をしていた女の子達は、私ではない遠くを見つめている。


(え? どういうこと?)


 思わず彼女達に駆け寄り、「あの、聖女様ってどなたのことですか?」と、持ち前の人懐こい笑顔で聞いた。


『メイトランド公爵家の御令嬢、リディア様よ。ご自分の領地にやってきた魔物を退治して、聖石で領民を癒して回った方なんですって』

『あら、私は王都で出た魔物に果敢に挑んで母君を救ったと聞いたわ』

『リディア様は王太子殿下の婚約者であり、この国の聖女様でもあるのよ』


 うっとりと彼女達はリディア様について語っている。私は耳を疑った。ゲームの内容と全然違う! 


 いや、確かに薄々は気づいていた。入学式当日のイベントが、アラン様以外発生しなかったのだ。見た目はスチル通りなのに、それぞれ微妙にキャラも違う。しかもクリストファー殿下に至っては会えてもいない。


『なんで聖女様がもう存在してるの? どうしてディーン様はチャラ男じゃないの!? クリス様には会えないし、イベント全然ちがーう!!!』



『あなた、転生者なの?』


 そう聞かれた時、悪役令嬢であるはずの、リディア様も転生者だと気付いた。ここまでシナリオを変えてくれちゃって! と怒りも覚えた。でも、リディア様とお近づきになり、筋トレして悪役顔に悩む彼女は可愛くて、一緒にいると毎日が楽しい。

 きっとシナリオ通りにゲームを攻略するよりも、もっと生きている実感があるし、充実している。


 だから私も目指すのだ。リディア様も、他の人も、死なない未来を。



 しかし、リディア様は忙しい。妃教育に公務、それからクリス様のお世話。嫉妬対応というべきか。とにかく一緒に過ごしたがる王子様に付き合わなければならない。文化祭や王子様の公務が忙しい時だけは一緒に食べてもらえるが、私のランチタイムは基本ぼっち飯だった。

 中庭でしょんぼり一人で食べるのは悲しいので、裏庭でささっと済ませたら、魔物を狩りにいく。


 以前、肝試しで危ない目に遭ったが、もうレベルはカンストしているし、余程の魔物が現れない限り私は強い。

 午後の授業に間に合うように、短時間で済ませなければならないのもスリルがあっていい。


「ホーリーアロー!」


 最近覚えた遠くの敵を倒す技を練習。ブラックバードを撃ち落とした!

 

「やった!」


 一人でガッツポーズをキメていると、ガサガサと音がした。振り向いた時には、巨大なサーペントが大きく口を開けて私を飲み込もうとしていた! 声も出す暇もなく──。


 ズシャッ!!


「っ!」


 サーペントが目の前で真っ二つになる。一拍遅れて視界に大好きな人の姿が見えた。前世でゲームをしていた時からの推しだ。どんな角度でだって分かる。あぁ、こんなピンチを救ってくれるなんてイベントあったかな、どんなスチルだったっけ? 頭の中が混乱しつつ、助けてもらった安堵でへなへなと座り込んでしまった。


「大丈夫か?」

「……アラン様」


 差し出されたゴツゴツした手。魔物退治や剣術でついた傷跡。見上げると、心配顔のイケメン。かっこいい。かっこいい。かっこいい!!


 ヒロインとして、攻略対象に惹かれてしまうのは仕様なのだろうか。

 前世の気持ちも引きずってしまって、正しい判断が出来ない。目の前にいる人が好きだ。じわりと涙が滲む。


「ど、どうした? どこか怪我をしたか?」


 慌てふためきながら、心配してくれる推し。嬉しい。首を横に振ると、少し安心した様子で、可愛い。


「立てるか?」

「……はい」


 手と手を取り合い立ち上がる。引っ張り上げる力が強くて、思わずよろけてしまった。そして、わざと大きな胸板に手をついて密着してみる。


「ひゃあ!」

「っ!」


 そのまま二人の視線が絡み合う。アラン様の顔が赤い。え、アラン様、こんな少しのボディータッチで、私のこと気にしてくれるの? じっと見つめていると、流石に身体を離された。


「じゅ、授業が始まる。戻るぞ」


 照れて赤くなった耳を見つめて、私は違和感を覚えていた。もしかしたら、アラン様は──。

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