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3 思い出したので、筋トレ!(2)

***


「お父様! わたくし、夢を見ましたの!」


 帰りの馬車の中で私は作戦を立てた。

 私ひとりの力では、この国が壊滅状態になるのは避けられない。しかし、エンディングの神スチルを見るためには、魔王による侵攻から国を守り、私も生き残らなければならない!


 よって、父の権力と金とコネを使うことにしたのだ! 父は聖騎士団の団長。つまり魔族や魔王と戦う最前線。その上、我が国筆頭のメイドランド公爵だ。政治力も軍事力も抜群! なんとか国王とか偉い人を動かして対策してください!


 そういうことで、私は公爵家に帰宅した途端、父に夢を見たと主張したというわけだ。


「リディ。お前が茶会で倒れたと聞いて、私は大層心配したのだが……。帰るなり勇ましく夢の話をするとは……せめてもっと令嬢らしく……」


 公爵邸のエントランスで出迎えてくれた両親に勢いよく主張したせいで、父は呆れている。このままではいつものお説教が始まってしまう。


「魔王が!! 魔王が復活するのです……!!」

「!?」

「リディ!?」

「まぁっ」


 『魔王』というショッキングなワードに、両親も兄も息を飲んだ。私は順序立てて説明をする。


「お茶会で王子様にご挨拶した瞬間、女神様の声を聞きました。『魔王が復活するのだ』と。『五年後に起こる』のだと」


 ゲームだ前世だと言っても信じてもらえないだろうし、説明するのも難しいので、そういうことにしてみた。この世界では創世の女神ティアマ様を信仰しており、この国の始まりはその女神の子孫が繁栄したものだという言い伝えがある。

 そして神官様や数百年に一度現れるという聖女は、その声を聴くことが出来るのだ。


 私は声を聞いた訳ではないので、完全なる大嘘である。


 母は動揺を隠せないようだが、父は心当たりがあるのか、あまり驚かない。


「私はあまりのショックに気を失いました。その時に、この国が実際に魔王に襲われて、壊滅する夢を見たのです……!!」

「……それで?」


 父は、私の話を否定もしないが肯定もしない。私の言葉が信用出来るのか吟味しているのだろう。試すような鋭い視線に萎縮してしまいそうになりながら、プレゼンを続けた。


「……ゆ、夢の中で、私は死にました……。国王様もお父様も沢山……。とっても、とっても怖い夢でしたっ! ……だから……」


(ここから。私は、私の、運命を変える!)


「私、魔法をもっと上手になりたいんです!」

「!!」


 我々は火水風土の四大属性のどれか一つの適正を持って生まれる。そして、その魔法レベルが最高値まで上がると『聖魔法』といって光属性のエフェクトがかかるようになるのだ。


 魔王をはじめとする魔族は、この『聖魔法』に弱い。ヒロインはかなり珍しい光属性で、この『聖魔法』の使い手だ。なので魔王戦で大活躍する。そしてその『聖魔法』の使い手だけが、魔王を斃すことが出来る『聖剣』を振るうことが出来るのだ。


 私も生き残るためには、レベルを上げまくって『聖魔法』の使い手にならなければ。


「剣術も、もっと厳しく修行したいです!」

「リ、リディ?」

「私は火魔法の属性ですが、極めて聖魔法レベルまで到達したいのです! そうすれば伝説の聖剣だって使えます! 伝説の聖剣があればきっと魔王も──」

「もうよい」

「お父様っ!」


 父に話を切られ、拳を握りしめた。駄目か……。公爵令嬢たるもの、魔法や剣術の修行よりも淑女教育を重要視するのがこの国の通例だ。やはり反対されるのかと、悔し涙がじわりと浮かぶ。

 

「魔王の話は、信じても良い。近頃、我が国の至る所で魔物出没の報告は受けている。毎年増加していることを鑑みても、リディの夢は信憑性がありそうだ」

「……! じゃあ!」

「だけどね、リディア。私は君が大切だ。聖剣を振るうのが自分かもしれないだなんて、そんなことは考えてほしくない。仮に聖剣の封印を解くことになっても、この国にいる聖騎士が、その役割を担うことだろう」

「……はい……」


 横に立つディーンお兄様が、シュンとする私の頭を撫でた。顔を上げると父は優しい眼差しで、母は酷く心配した面持ちだ。


「……リディが倒れて王宮の客室まで運んだのは、クリストファー殿下だ」

「ええ!?」

「しかもその後、その客室で二人きりで会話したそうじゃないか。倒れたという理由はあれど、密室であり寝室だ。これはどういうことだと思うかい?」


 突然、話題がガラリと変わって驚く。


(私を運んだのはクリストファー殿下!? 寝室で二人きりって……。待って、それは……不可抗力で、私のせいでは……)


「目撃者は幼い令息や令嬢だからね。リディのことを王子が気に入ったとか、王子妃はリディだと、明日には噂として広まるだろう。そして、もし本当に婚約となれば、その時命を狙われる可能性だってある」

「!?」


 ゲームのシナリオ通りなら、確かにリディアは王子様の婚約者になる。だけど早すぎない? 今日ちょっとお話しただけなのに!


「リディの言葉は信じよう。だが魔王を斃すのは公爵令嬢の役目ではない。将来王妃となる可能性があるなら尚更だ」


 ああやっぱり駄目か……と諦めかけた時、父が私の頭を撫でながらこう言った。


「……ただし、お前が自分の身を自分で守れるだけの魔法と剣術は、身につけておいて損はないだろう」

「っ!! ありがとうお父様!」


 半分諦めたように許可してくださった父に勢いよく抱きつく。今は優しい父。厳しくも温かい母。そして攻略対象者の兄、ディーン。


 ゲーム内では、私たち家族の仲は冷え切っていくシナリオだ。


 だけど今はこんなに温かい。優しい家族を私は守りたい。お父様の胸に飛び込んだままぎゅっとその温もりを感じながら、私は決意した。私が死ぬことはもちろん、家族仲が冷え切らないようにイベントを回避しますわ! この家族も守る!


 そして私は、ヒロインの恋を応援して、あの神スチルを見学しますわ!


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