表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/51

23 予想外れの、独占欲!(7)

「リディ!」

「あら、クリス様」


 生徒会室に一人戻るところへ、クリス様が迎えに来てくれていた。何故私がこっちに戻ると分かったのかしら。どこか焦った表情をしていたので、何かあったのか聞こうとした、その瞬間。


「っ!」


 クリス様がつかつかと私の目の前に来たかと思うと、私の右手を引いてそのまま抱きしめられた。突然の強い力に驚いて声が出ない。


「……リディ」

「はい?」

「誰かに、会った?」


 私を抱き締めたまま、クリス様が尋ねてくる。顔が見えないのでよく分からないが、少し声が震えていた気がした。誰かに会ったかしらと思い出す。

 ステラと一緒に生徒会室を出て、泣かれて、それから──。


「あぁ! ものすごーく久々に、アラン様にお会いしましたわ! わたくし達の婚約披露パーティ以来でしょうか。お元気そうでしたけれど……何かご用事でしたか?」

「いや……」

「聖騎士団の仕事がお忙しいのかしら。学園でも全然お見かけしないですものね。クリス様はアラン様とも仲が良いのでしょう?」


 ぎゅーぎゅーとクリス様の腕の力が強くなる。く、苦しい。


「あ、あの? クリス様?」

「リディは……ア、アラン……を……」


 あ、もしかしてアラン様に嫉妬してます? クリス様ったら、この先のシナリオではステラに心変わりするくせに! 

 でもこのままだと、アラン様が学園に二度と来れないように手配されてしまって、ステラとの恋路が上手くいかなくなる予感しかしない。まずい!


「えーっと……そうそう! アラン様は『不可抗力』だとおっしゃっておりました!」

「……不可抗力?」


 わぁどす黒い声! 怖いですよ! 素敵な王太子様が出す声じゃないですよ! ぎゅーぎゅー締め付けられて苦しいけれど、何とか私は話し続けた。


「クリス様達がステラさんに冷たい態度を取るので、ステラさんが泣いてしまわれて。あのままだと周りの方々の目には、私がステラさんをいじめているかのように映ったと思いますわ。そのギリギリのあたりでアラン様がいらっしゃって、泣いているステラさんを宥めてくださったのですわ」

「アランが」

「ええ。そこで、『不可抗力』だと何故だか私に念押しされておりました」


 今になって思うと、こうやってクリス様に『不可抗力』だと訴えろという意味だったような気がしてくる。それは正解だったようで、クリス様は納得したのか、少しだけ腕の力を緩めてくださった。ああ、息がしやすいわ。


「……私がリディを救いたかった」


 拗ねた声が珍しくて、思わず笑ってしまう。するとコテンとクリス様が自分の頭を私の肩に乗せてきた。可愛い。


「ふふっ」

「何故笑うんだ」

「だって、可愛らしくて」

「かっこよく救えるようになりたいんだが」

「今、救ってくださっていますよ? クリス様の腕の中は、温かいですね」

「リディ」


 少しだけまた力が込められた抱擁は、私が苦しくないよう配慮したような力加減で、その優しさと温もりに私はほっとした。こうして抱きしめてもらえるのはあと何回だろう。これが最後じゃないといいな。


「お友達って難しいですわ。喜ばせてあげたいけれど、大切な人達を困らせたくはありません」

「冷たい態度で悪かった。でも、やはりランチは落ち着くメンバーでとりたい」

「はい。突然お友達を連れてきてしまって、申し訳ありませんでした」


 二人でそれぞれ謝罪して、私たちは生徒会室へと戻ることにした。その間ずっと私の心臓はバクバクと音を立てていた。きっとそれは、クリス様が迎えに来てくださったことも、ステラに惹かれることなく嫉妬までしてくださったことも、予想外すぎて動揺していたからに違いない。


***


 その夜、湯浴みを終え、メアリーに髪を梳かしてもらいながら、私は今日のことを思い出していた。


(ステラに会っても、皆すぐに好意を持つわけではないのね……)


 キース様はあからさまに邪険に扱っていたし、お兄様にいたっては怯えていた。

 一方で、アラン様とステラは既に知り合いのようだったし、ステラはアラン様ルートに進んでいるのかもしれない。


(……クリス様は……)


 ステラに対して嫌な態度は取っていなかった。王太子としての対応だったのかもしれないが、少し不安になる。

 でも、私がアラン様と少し話しただけで、おそらく嫉妬してくれていた、気がする。

 そして今日の抱擁を思い出した。意外に厚い胸板と力強さ、耳元で聴こえた優しく低く甘い声。


「……っ」

「お嬢様、今日は良いことがあったみたいですね」

「えっ!?」


 ハッと気付くと、私の髪を整えながらメアリーがニコニコしていた。


「お嬢様はいつも剣を振り回して、すごい魔法も使えるようになられて、ちょっとばかり快活すぎるのではと心配しておりました。でもそうして恥じらう姿は可愛らしい乙女でいらっしゃいますね」


「な、なっ!」


「あっ! 恥ずかしくなったからって筋トレしに行っちゃだめですよ! もう湯浴みも済ませたんですから! ほらほらベッドへどうぞ!」


 私は言われるがままベッドに横になる。メアリーには色々筒抜けで恥ずかしい。


「おやすみなさいませ」


 メアリーが部屋を暗くしてそっと出て行く。目を瞑り思い出すのは、やはりクリス様の抱擁で……。


 入学してからゲームと同じシナリオが始まったらと不安だったが、私は、クリス様の態度や今の状況から少しずつ自信を持ち始めていた。


(お母様の時だってシナリオを変えることができたんだし、きっと私が死ぬ運命も含めて変えていけるはず)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ