22 予想外れの、独占欲!(6)
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「私、ステラ・オールブライトって言います! よろしくお願いします!」
昨日の約束通り、ランチタイムに生徒会室で食事を摂るクリス様たち御一行の前に、ヒロインであるステラを連れて行った。
「リディが友人を連れてくるなんて珍しいね。なんだか妬けてしまうな。私もリディと同じ学年がよかった」
「何寝言言ってんだよ」
「リディア嬢、ご友人と食事をなさるならば日当たりの良い中庭もおすすめですよ」
(あ、あれ?)
ヒロインに会えば皆メロメロになると思っていた。だが、クリス様はステラをガン無視してるし、お兄様は令嬢恐怖症だし、キース様まで遠回しにどこかへ行けと言ってくる。
「あ、あの! 私、光魔法が得意で! 魔物が出たら役に立てると思います! あと! お怪我したときとか、呼んでいただけたらすぐに綺麗に治療出来ます!」
「そ、そうですのよ! 光魔法の使い手だなんて珍しいでしょう?」
めげないヒロインのステラを援護しようと付け足したところで、男性陣からは冷ややかな目線を送られた。
「それをあなたが言いますか」
「?」
「今や聖石があれば光魔法が使えるも同然。そうでしょう? ディーン」
「俺よりリディアの方がよく知ってると思うけど?」
「リディ、良かったら放課後は二人でゆっくり話そう?」
苛立ちを隠そうともしないお兄様とキース様、クリス様も黒い笑顔を浮かべ、ステラとは会話をしようともしない。つまり、私に対して、何を企んでるのか知らないけど、ステラを連れて失せろと暗に言っている気がする……。
鋼の心を持ったステラがめげずに手作りのクッキーを広げたが、キース様に「毒味のしていないものをクリス様が召し上がるわけがない」と一瞥され、暖簾に腕押し状態だ。
「……私、お邪魔でしたか……?」
(可愛い! ヒロインの小首を傾げて上目遣い! 可愛すぎる!)
私はキューンとしたが、男性陣は特にリアクションがない。あ、お兄様は怯えた表情だ。お兄様……。
「すみませんね。ここは生徒会室なので、関係者以外は立ち入り禁止なのです。申し上げるのが遅くなって申し訳ない」
キース様!? それ初耳なんですが? そうだとしたら、私はなぜ今まで入室出来ていたのかしら。
「じゃあ、どうしてリディア様は?」
「リディア嬢はクリストファー殿下の婚約者です。生徒会は国政の縮図のようなもの。将来の勉強の為にもこちらでお過ごしいただき、生徒会活動の何たるかをお伝えしているのです」
(あ、あれ? そんな時間今まであったかしら)
キース様がそれっぽいことを並べたてつつ、私に余計なことを言うなと黒い念を送ってきている気がする。暗に出ていけと言われ、私たちは仕方なく生徒会室を後にした。
「ご、ごめんなさいね。ステラさん」
「酷いですっ。リディア様! 私にクリストファー殿下達と仲が良いところを見せつけて嫌がらせしてくるなんて!」
「えぇ!?」
とんでもない濡れ衣を着せられた。こうやっていじめていなくてもいじめたことにされて、冤罪で捕まるというシナリオなのかしら!? そんなのごめんだわ!
「リディア様がお誘いしてくれたのに、ちっとも上手くいかなかったじゃないですか!」
「わ、悪かったわ。生徒会室がダメだとは思わなくて……見せつけたかったわけじゃないのよ! わたくしは、ステラさんとお友達になりたいだけで……!」
「私がクリストファー殿下と仲良くしたいとか言ったから、嫌がらせするんですね!」
待って待って! そんな大きな声で言わないでー!
「ち、違うわ! お願い、わたくしの話を聞いて……!」
「うっ……うーっ」
「!」
ステラが泣き出してしまった。やばい。こんな可愛い子を泣かしている目つきのキツい公爵令嬢。あぁ、悪役令嬢認定されてしまう! どうしましょう!?
「はいはい、ストップ」
「「!?」」
「不可抗力だからな。このタイミングで出てこないとギャラリー増えるから。不可抗力。分かった?」
「?」
艶やかな短い黒髪のその人は、燃えるような赤い瞳で強く私に訴えてきた。『不可抗力』だと念押ししてくるが、何のことだか分からない。彼に会ったのはこれが三度目。学園の生徒のはずなのに、なかなかお見かけしないので不安だったが、やっと会えた。
「アラン様!」
ヒロインであるステラが嬉しそうに彼を見つめた。アラン様もステラのことを知っているようで、彼女の頭をぽんっと撫でる。
「いいか。お前が泣くと、この方がいじめているみたいになるだろ。気をつけろ」
「え……は、はい」
「コイツが落ち着くまで俺は側にいるから、アンタは生徒会室に戻っておけ」
「は、はい。お任せいたしますわ」
「不可抗力だから!」
何が何だか分からないけれど、アラン様に助けられてしまった。しかも、ヒロインと二人きりにさせることにも成功したわ! 本当はこのまま二人の様子を物陰から眺めたい! でもアラン様に不審に思われそうだし、私に気づいてまた泣かれたりしたら、本当にいよいよいじめていると疑われてしまう。仕方なく私は生徒会室に戻ることにした。




