21 予想外れの、独占欲!(5)
私の思い付いた「名案」とは。
「わたくしのお友達になってくださらない?」
きょとんとするステラ。とっても可愛い。その顔のスチルがあったら保存しておきたいわ! たくさんシナリオを変えてしまったお詫びに、ヒロインの恋を応援します!
そのためには私達、お友達になっておいた方が良いはず!
「あのう、でもえっと……」
あからさまに嫌な顔をしながら、どう辞退しようか悩んでいる様子だ。困ったヒロインの顔も可愛い。
「わたくし、お昼はいつもクリストファー殿下といただいておりますの。お友達になっていただけたらランチにお誘いできるかしら、と思って」
「あの、宜しいんですか?」
「もちろんよ」
にっこり微笑んでステラの回答を待っていると、「じゃあ、よろしくお願いします」とまだ少し疑った様子で答えてくれた。
「では早速、明日のランチは一緒に食べましょうね」
「は、はい! ありがとうございます!」
「私もお友達ができて嬉しいわ」
ステラににこやかに話していると、その様子をいろんな生徒が目撃していたようで、私が意外と愛想が良い事が広まったようだ。その日は沢山の生徒に話しかけてもらえた。これで殿下のように良き友人に恵まれた学生生活を送れるかもしれない!
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「やはり、この時が来てしまったか……」
執務室のデスクの上で肘をつき、頭を抱えるのは、この国の王太子であり僕の幼馴染、クリストファー・ラビングストンである。金色の髪をくしゃくしゃにして、青い瞳を嫉妬の炎で燃やしている。
そんな幼馴染を横目に、黙々と公務の資料を片付けているのは、王太子の側近である僕、キース・バリントンだ。
「ククッ」
「キース! 何がおかしい!」
「クリスは完全無敵なくせに、リディア嬢のことになるとダメになるのが面白くて」
「……うるさい」
対外的にはクリスは完璧な王太子だ。学園の勉強は既にクリアしているが、リディア嬢と通いたくて在学している。剣術も魔術も国内では敵う相手はいないとまで言われた実力の持ち主だ。君主たる精神も持ち合わせており、既にその手腕は公務をこなすことで実証済。次期国王は安泰だと国内外から評価され、向かうところ敵なしのこの男。
この、完璧で一見抜け目のないクリスの弱点。それは、婚約者リディア・メイトランドである。
リディア嬢の好みが強い男だと知ったのは二人の婚約披露パーティの頃だ。その後、突然身体を鍛え始め、元々の素質もあってかメキメキと実力をつけ、戦の将軍にでもなれそうな位の腕前になってしまった。
魔術も元々の魔力量は国内最大クラスだったためか、リディア嬢と訓練を積む他にも、王宮で講師をつけて修行し、この世界を征服できそうな魔法も使えるようになっている。
そんな影の努力は、彼女には微塵も見せず、いや、少しはアピールしていたが気づいてもらえず、今はただランチを一緒にとる毎日。二人でデートでもすればいいのに、誘うことも出来ないチキン野郎である。
「リディが男と喋ったらしいんだ。笑顔で!」
「そりゃ学園に通ってたらそんな機会もあるだろう」
「分かっている……!」
「それに特定の男子と仲が良いわけではないのだろう? ステラ・オールブライトという女子生徒とは友人になったと影から報告を受けているけど?」
「あぁ……。友人が出来たのは良いことだ……」
全然良さそうな顔じゃないのが面白い。
リディア嬢の意志の強い瞳や、幼い頃から培った貴族令嬢たる完璧な所作に、一般の生徒は圧倒されて話しかけづらかったようだ。だが、友人ができ、彼女が柔らかく微笑めば、あっという間に人気者になってしまったらしい。
(そしてそれをクリスは妬いている……)
「リディを王宮に閉じ込めてしまいたい!」
「やめろ。嫌われるぞ」
リディア嬢に友人が出来たことは喜ばしいことだが、一方で彼女だけの世界が広がることに不安を抱いているようだ。かといって、学年の違う僕たちがリディア嬢の人間関係まで関与するのは難しい。
(さて、この嫉妬深い男はどうするか)
クリスは嫉妬深い。リディア嬢が幼馴染のアランのことが気に入っていると疑っていて、リディア嬢が出没しそうな日は、アランに王都外の任務を与えたりしている。男の嫉妬は恐ろしい。
ちなみに、彼女が入学する前は、学園内でアランも一緒に行動することがほとんどだった。ディーンもアランとなかなか会えないと嘆いていたが、アランはどう思っているのか。今度聞いてみよう。
ただクリスに同情したくもなるのは、当のリディア嬢が婚約者でありながら、どこかいつも冷めた態度だということだ。たまにクリスをじぃっと見つめて頬を赤く染めているので、クリスの容姿は好きなのだと思う。
だが、政略結婚だと諦めているのか、何なのか、どこかクリスとは一歩引いて接している気がするのだ。
(仕方がない)
主人の悩みを解決するのも側近の役目だろう。僕は、クリスの悩みを解決すべく、影に声をかけたのだった。




