19 予想外れの、独占欲!(3)
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(全然うまくいかないわ……)
まず私は、クラスメイトと仲良くなろうと試みた。話しかけると、みんな当たり障りのないことは、にこやかに答えてくれる。だが、私の顔が怖いからかクリス様の婚約者だからか、どこかよそよそしいままだ。
(どうしたらお友達って出来るのかしら)
小さな頃からお兄様と常に一緒で、お兄様と稽古して勉強して修行してきた私にとって、同年代の女子とどんな話をすればいいかわからなかった。ファッションのこともあまり興味がないし、そもそも身体を動かさずに過ごすのが苦手で、おしゃべりも得意じゃない。本人がいないところで誰かの噂話をするのも好きではない。
王太子妃教育の中で、社交やお茶会の話術だって勉強してきた。だがそれは、取り繕った私の姿。未来の王太子妃に媚を売ろうと猫撫で声で寄ってくる子もいるが、どうせなら本音でぶつかり合えるソウルメイトがほしい。
しかし、どうしたらそんな素敵な友人に出会えるのかわからず、今日は公爵邸に帰ってきてしまった。
「ねぇ。メアリーには、仲の良いご友人はいるの?」
サロンでお茶を飲みながら、まずは身近な人の友達事情を聞いてみることにした。メアリーは丁寧に私のお茶のおかわりを淹れつつ、「そうですねぇ」と思案している。
「メイド仲間が友人も兼務していますね。お休みの日はお買い物とか一緒に行ってます。あとは故郷の幼馴染がたまに手紙をくれますよ」
「まぁ、幼馴染!」
思えば私には幼馴染はいない。いつもお兄様と稽古してきたし、同じ年頃の子と会う機会があっても、この見た目のせいなのか仲良くはなれなかった。
羨ましい。幼馴染、素敵な響き。
「今は街のパン屋さんに嫁いで、昨年女の子を産んだので忙しそうで。なかなか会えませんが、たまにお互いの近況を報告し合っています」
その時に報告するメアリーの近況の内容が気になる。主人である私の悪口だったら泣ける。
「もしかして、お嬢様もついにお友達が出来たんですか?」
「違うわ。これから作るのよ」
「へ?」
悩んでいても仕方がない。とにかく何か作戦を練って友達を作ろう。ヒロインの恋愛模様を見学するのも一人より複数の方が自然だし、神スチルの素晴らしさを誰かと共有してみたい。
何より友達の数くらいはクリス様に勝ちたい。
その時、外から馬車の音がした。お兄様が帰宅したようだ。しばらくしてサロンの扉が開いた。
どうせまだ友達が出来ていないことを揶揄われるのだと思うと憂鬱で、伏し目がちになる。
「おかえりなさいお兄様」
「ただいま、リディ」
「!?」
応えた声がお兄様のものではないので顔をあげると、クリス様がサロンの入り口に立っていた。
仕事の早い公爵家のメイド達が、音もなくさっとお茶を用意する。お兄様は「ちょっと部屋で勉強してから来るから」と言って去ってしまった。キース様はいない。
ドアは開いているものの、メイド達は気を利かせてどこかへ行き、クリス様と二人きりになった。
速攻でクリス様のお悩み相談室が出来上がってしまった。私が思い悩んでいることを、全て皆にバレているようで悔しい。
「リディ、友達は出来た?」
「……い、いいえ」
勇ましく宣言しておいて成果がゼロなのは気まずい。だが、なんだかクリス様は安心したような顔つきで、私の真横に座り直した。そして優しく頭を撫でる。
「私の婚約者という立場が邪魔をしているのかもしれないね。すまない」
「いいえ! それだけではありませんわ……」
私に普通の令嬢っぽい趣味の一つでもあれば、気の合う仲間が見つけられたかもしれない。でも、流行りのドレスもよく分からないし、剣術や筋トレが好きな令嬢はまだ見つけられていない。
「リディは美しいから、高嶺の花なんだろうね。未来の王妃だし。でも、君が心を許せる誰かに出会えるといいね」
「……はい」
「だけど、私は、私がリディの一番心を許せる相手でいたい。友人がいてもいなくても、私のリディは私のものだよ?」
まるで私を誰にも託したくないというかのような物言いに驚く。ちょっと引く。でも、上手に友人作りに励むことができなかった今、その重い発言に助けられてもいた。あぁ。でも。
「クリス様が、もし……」
「ん?」
ヒロインと出会って、惹かれて、彼女も同じ気持ちだったら?
私のことは捨てるんですよ?
そういうシナリオなんです。この世界。
だから私、あなたから自立したかった。
一方でクリス様にこうして甘やかされる環境が心地よいと感じてしまう。自分の矛盾にモヤモヤする。
こんな時はそう、身体を動かさなければ。
「クリス様、今日お時間はありまして?」
「うん? なんだか勇ましいね? 嫌な予感がするけれど」
「稽古場に行きましょう! 今日こそクリス様に剣で勝ちますわ!」
「あぁ、やっぱりそうなるか」
苦笑しつつも付き合ってくださることになったクリス様と、お兄様を無理矢理引っ張り出して、その日は三人で日が暮れるまで剣術の稽古をして汗を流しまくった。スッキリスッキリ!




