18 予想外れの、独占欲!(2)
ステラ・オールブライト。その新入生の名前を耳にした時、私は全身が強張るのを感じた。このゲームのヒロインの名前だ。
いよいよ、ゲームの幕開けだ。
「そのステラという生徒は、光魔法の使い手なのだそうですよ」
「珍しいね」
「ええ、かなり」
今はランチタイム。クリス様とキース様、そしてお兄様と私というメンバーで食事をしている。そこでキース様がステラについて話し始めたのだった。
何かと注目を集める彼らは、人目を避けて生徒会室でランチタイムを過ごしている。クリス様は生徒会長であり、お兄様は副会長、キース様は会計と、なんだかこの国の未来の縮小版のような顔揃えだ。
アラン様も生徒会メンバーなのだが、聖騎士の任務で忙しく、滅多にランチにはいらっしゃらないそうだ。絶対クリス様が裏で手を回してるでしょうけれど。
私とお兄様は揃いのサンドイッチセット。最近私がマヨネーズを開発したところ、それを気に入った公爵家の人たちがやたらとマヨネーズを使う料理を作りたがるのだ。
特にお兄様はサンドイッチがお気に入りで、私たちのランチはここのところずっとサンドイッチだ。今日は鶏肉の照り焼きとキャベツ、マヨネーズを挟んだものと、レタスと卵マヨサンドの二種。
「リディア嬢とステラ嬢は同級生ですよね」
「リディはその生徒と話してみたことはある?」
「……」
「リディ?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
新入生の話になり、彼女の名前がキース様から出てきて動揺した。彼女が希少な光魔法の使い手だということは、学園中の噂になっているようだ。
「そう? それにしても今年の新入生はリディといい、ステラという女子生徒といい、能力の高い生徒が多いようだね」
「我々の学年も、貴方とアラン、ディーンまでいるんですから負けていないでしょう」
「キースもね」
ゲーム通りならば、頭脳ではクリス様とキース様、剣術ではアラン様、魔術ではお兄様が秀でている設定だった。
だが、お兄様は私との特訓のお陰で魔術だけでなく剣術も秀でているし、クリス様に至っては成績も剣術も魔術も学園一の実力だ。
「クリスは入学以来、全科目でずっと一位だもんな」
「ディーンは魔法省からも聖騎士団からもスカウトされてるじゃないか」
「次期公爵なのに身体がいくつあっても足りませんね」
「おい、キース。お前が生徒会だけじゃなくて国の予算案も練ってるの知ってるんだぞ」
「それは機密事項ですよ?」
キース様が黒い笑みを浮かべる。
そうなのだ。学園に入り、改めて側で彼ら攻略対象キャラを見ていると、ものすごいポテンシャルを秘めていて、全員大活躍している。何故か私の前ではアラン様の話題が出ないのだが、アラン様も聖騎士団で頭角を出し、歴代最年少で第二騎士団の団長をされているのだとか。
しかし何よりクリス様は別格にすごい。
学園の勉強では常に一位でありながら、王太子としての公務もこなす。その際、私も婚約者として同行したりするのだが、いつもフォローされてばかりで癪に触るのだ! クリス様は他国情報にも詳しく外国語も堪能で、政治的な駆け引きも上手い。
その上、剣術はついに私は歯が立たなくなってしまった。公爵家騎士のハロルドには勝てるくらいに鍛えたにもかかわらず、だ。我が国の王太子は、剣では決して暗殺出来ないだろう。
そして魔法も、私が数年かけて聖魔法を習得したのに、クリス様は僅か数ヶ月で聖魔法が使えるようになってしまった。
完璧すぎる。
悪役令嬢よりもメインキャラの方がチートってことなんでしょうか!?
死ぬ運命を変える為、色々頑張ってきたのに、あっさり何もかも越えられて私のプライドはズタズタだった。
「リディだって素晴らしい女性だよ。僕の女神様だ」
「取ってつけたように褒めていただかなくて結構ですわ」
「本気なのにな」
いつも通りの甘い顔。そのお顔だって、これからヒロインと仲良くなれば、もう見せてくださらないに違いない。
私は顔が怖いし、上位貴族だし、王太子の婚約者ということもあって、他の生徒もあまり話しかけてくれない。寂しい学園生活だ。おまけにクリス様に勝てるものもなく、なんだか悲しい。
クリス様のようにお友達がいれば楽しくなるのに。
(……そうだわ。私もお友達を作ればいいのよ)
そうすればランチだって友達と食べれば良い。もしヒロインがクリス様のルートを選んだとしても、クリス様がヒロインと仲良くなっていく様子を見なくてすむのだ。
「わたくし、まずはお友達を作りますわ!」
「!?」
「いつまでもクリス様を頼っていてはいけませんものね! 運命にも勝たなくちゃ」
「? いや、いつまでも私を頼って欲しいのだけれど」
突然友達を作ると宣言した私を見て、クリス様は驚いた表情をしている。今は色々勝てませんけど、友人の数くらいなら、クリス様にも勝てるかもしれませんわ!
「クリス様のように、信頼できる友人をたくさん作りますわよ! ではご機嫌よう!」
そうして私はお昼のサンドイッチを入れていたカゴを丁寧に片付けて、自分の教室へと急いで戻った。できれば可愛くて優しくて魔法も得意なお友達をゲットするために!
「あいつ、時々ちょっとズレてるんだよな」
「可愛らしいけどね」




