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15 思い出したのに、婚約!(8)


 私とクリストファー殿下は、二人で庭園を歩いている。前世でいうところの、「後は若いお二人で」というやつだ。前世と違うのは、この縁談は拒否権がなく、私はすでに殿下の婚約者となってしまったことだろう。


 王宮の庭園に来たのは、十歳の時のお茶会以来だ。色とりどりの花が咲き乱れ、心地よく手入れされていて素晴らしい。

 私は、美しい光景に癒されながらも、シナリオが変えられなかったことに絶望していた。私の顔色が悪いことに気づいてか、殿下は急に立ち止まった。そして私の方へ向き直る。


「すまなかった」

「え?」


 優しい金色の髪が風になびく。その美しい青い瞳が、今までよりずっと真剣でドキッとした。


「無理矢理婚約を申し込んだことだ。君の気持ちも聞かず、話を進めてしまった」


 わぁ。悪いと思ってくださっていたんですね! 意外! 


「来年には、私は魔法学園に入学することになる。そうすれば今のように簡単に君に会えなくなるだろう? そう考えたら、居ても立ってもいられず、父に懇願してしまったのだ」


 まさかのおねだり婚約! でもどうして?


「恐れながら、わ、私が、剣を振るい、魔法を放ち、走り回って……あの、普通の令嬢らしくないことは、もうご存知ですわよね? それなのに、どうして──」

「惚れ直したのだ。あの日、剣を振るい、魔法を放ち、魔物を倒し、領民を救う、女神のような君に」

「ええ?」

「もちろん、守ってもらうつもりはない。私も鍛錬を重ね、君以上の実力をつけるつもりだ」


 わぁ、それはとっても大変ですよ? 私強いですからね。ってそうじゃなくて!


「で、でも! 私、今までお淑やかにしなくちゃって殿下の前では演技を……していて……」

「ははッ。そうだったのか。ではこれからは素のままのリディア嬢を見たいな」

「ええと……」

「強くなる。私も君と同じくらい、いや、それ以上に。そしてこの国を、君を守ると誓う」


 青色の瞳が強く私を射抜く。いつの間にか手を握られ、二人の距離はとても近い。


「リディア、君が好きだ。私と結婚してほしい」


 胸がいっぱいになった。

 ずっと、普通の令嬢じゃないと知られたら、あっさりと目の前から居なくなると思っていた。まさか、それでもいいと言ってくださるなんて。

 う、嬉しいかも……しれない。


「リディと呼んでも?」

「へ? あ、はい」

「私のことはクリスと」

「は、はい……」


 あの日、この庭園で初めて出会ってから、二年の月日が流れた。幼さを残したあの頃から、スチル通りの輝かしいイケメンに成長されつつある殿下。

 ゲームの攻略対象なのだ、かっこいいに決まっている。そんな王道イケメンにこんな風に甘く言い寄られて、クラっとしない女子はいないに違いない!


(顔が……近い)


 自分の顔がきっとみるみる赤くなっていることは自覚しているが、手を握られ顔を近づけられている今、隠すことなどできない。


「で、殿下」

「クリス、と」

「く、くり、す、さま」

「リディ」


 心臓がバクバク鳴っている。そうか、私、前世でも今世でも、恋愛経験ないんだったわ! 前世ではゲームばっかりしていたし、今世では筋トレばっかりしていたわ!

 というか、優しいお兄様的な、王道イケメン攻略者だと思っていた殿下が、こんないじわるをしてくるだなんて思ってもみなかった!

 顔が! 顔が近い!


「クリスと呼んで?」

「く、クリスさま……」

「ありがとう、リディ」


 そうしてチュッと私の頬にキスを落とした。く、唇にされるかと思った。


「ふふっ。私のリディは可愛いね」



「お嬢様? おーい、リディア様ー?」


 気付くとメアリーが私の目の前で手をひらひらとさせている。王宮の庭園でのひとときを思い出しては、こうしてぼうっとしてしまう。あれから数日こんな調子だ。


 今は湯浴みを終え、メアリーに髪を整えてもらい眠りにつくところだった。


 魔力枯渇訓練の後ということもあって、よりぼうっとしてしまう。だって、だって、あんな──。


「お嬢様? もうお休みくださいね! ここのところお疲れのご様子ですし」

「あ、あぁ、ごめんなさいメアリー。そろそろ寝るわね」


 私がクリストファー殿下……クリス様にドキドキするのは、きっとシナリオのせいだ。悪役令嬢という役割上の必要なスパイスだ。

だけど、惹かれても、きっとクリス様はヒロインのことを好きになる。


(嫉妬に狂い、嫌がらせを……そんなことになったら今までの苦労が水の泡だわ)


 だから婚約者になってしまったが、クリス様を好きになってはいけない。嫌がらせなんてしてはいけない。嫉妬に狂わないようにしなくてはいけない。


 私は、恋しちゃいけないのよ!


 クリス様の甘い笑顔を思い出すたび、軋むように痛む胸をおさえて、私は自分の心を律しようと必死だった。


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