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14 思い出したのに、婚約!(7)

***


「何故こんなことに……」


 私は今、着飾って馬車に乗り王宮へ向かう途中だ。その内心は絶望感でいっぱい。シナリオ回避したと安心し切っていた自分を殴り飛ばしたい。何故こうなってしまったのか、私はどこから間違っていたのか。


 あの封筒が届いた、数日前の朝のことを思い出していた。



 公爵領で魔物が出た一週間後の朝。

 私は王家から届いた封筒の中身に驚愕していた。その横で、お母様は満足気にほくそ笑んでいる。お父様は何やら頭を抱え、お兄様は不満気だ。


「ふふふ……」

「やはりこうなってしまったか……」

「リディには荷が重すぎないか?」

「ど、どうしてー!?」


 そう、届いてしまったのだ。婚約を申し込む手紙が! もちろんお相手は我が国の第一王子クリストファー殿下。な、何故なの!?


「先日の活躍で、リディは『聖女様』だと広まり始めているしな」

「もはやこれまでか……」

「ふふふ! わたくしが思い描いた通り! よかったわねぇ〜。リディ」


 この間の事件で、クリストファー殿下に無事嫌われたと思っていたのに、直後に婚約を申し込まれるってどういうこと!?

 アラン様とヒロインのハッピーエンドを見届けるためには、殿下がヒロインと出会う前に気に入った令嬢と婚約してくれたらいいなとは思っていたけれど。シナリオ通りに私が婚約者になるなんて! やはりシナリオの力は偉大なのだろうか……。死にたくない!


「リディ、三日後に王宮に呼ばれている。準備をしておいてくれ」

「ま、待って、お父様……」

「さて! そうとなればドレスを選ぶわよ! お肌もツヤッツヤに仕上げておかないと! 今日から三日間は剣術禁止よー!」

「へっ!? いやですお母様! 日々の鍛錬が……」

「未来の王妃に鍛錬不要! つべこべ言わずについてきなさーい!」

「いやぁぁぁ!!」


 こうしてノリノリのお母様に連行され、本当にその後三日間は剣を握らせてもらえないばかりか、筋トレさえさせてもらえなかった。私の腕が落ちたらクリストファー殿下のせいだわ!



 王家からの打診を断れるわけもなく、手紙が届いた三日後の朝、私は馬車の中にいた。お母様が張り切って私を飾り立ててくださったおかげで、今日は華やかな令嬢スタイルだ。とても普段は剣術を嗜み、筋トレに励んでいるお転婆娘には見えないだろう。


 これから王宮へ行き、顔合わせという名の強制お見合いをして、婚約を結ぶことになる。この国の破滅と私の死亡フラグが立ちまくっている気がして、私はしょぼんとしていた。シナリオの強制力が強すぎる……。


「リディ、そんなに嫌なのか?」


 お父様が優しく尋ねてくださる。どうにかこの気持ちを分かってもらいたくて、例の夢設定でこじつけることにした。


「以前、女神様の声を聞いたきっかけとなったのは、クリストファー殿下に初めてお会いした時のことでした。それに、例の夢を見た時、私は殿下の婚約者として暮らしていたのです。夢の中では、殿下には別の想う方が出来てしまって、私は嫉妬に狂い、挙げ句の果てに魔王に──!」

「まぁ! 婚約者になることも予知してたんじゃない!」


 お母様、喜ぶところじゃない!


「ふむ。では殿下が他の令嬢に見向きもしないくらいに、お前が夢中にさせれば良い」

「え?」


 お父様、すごいお母様みたいなこと言ってますよ?


「そうよー! ちょっとお転婆だけど、リディはとっても良い子だし、見た目はすっごく可愛いんだから、自信もって」

「あの、だから、魔王が……」

「その夢は現実にならぬよう、聖騎士団が調査しているところだ。安心してくれ」

「……はい」


 つまりは公爵家にとっても、この縁談は誉となるのだ。娘のちょっとした不安は気のせいにしたいらしい。


 王宮に着くと、クリストファー殿下が早速私たちを出迎えてくださった。婚約に相応しいきっちりとしたスーツ姿は、まさに王子様。かっこよすぎて逆に腹が立ちますわ。


「ようこそおいでくださいました。メイトランド公爵、公爵夫人」

「本日はお招きいただきありがとうございます、殿下」

「こちらこそ。王家の打診に良き返事をくださり、感謝します……リディア嬢、今日も美しいね」

「は、はぁ。あ、ありがとうございます……」


 にっこりといつも通り甘く微笑んでくださるが、その笑顔が怖い。私があんなに暴れ回ったのをしっかり見ていたはずなのに、どうしてそんなにいつも通りなの!?

 馬車を降り国王陛下と王妃様の元へ向かうのだが、何故かピッタリと殿下が私の横につき、エスコートしてくださった。てっきり嫌われたと思っていたので、私の頭の中は混乱状態だ。

 

 玉座に座る国王陛下に謁見すると、陛下はまず私にお声がけくださった。


「リディア」

「はい」

「先日は、公爵領で魔物を倒したと聞いた。その後は聖石を使い人々の怪我を癒したと。我が国民を守ってくれたこと、礼を言う」

「そのお言葉をいただけましただけで幸せですわ」


 ですから家に帰してください……なんて言えるはずもない。

 国王陛下はそのまま続ける。


「女神の声を聞く、聖女リディアよ」

「!?」

「我が息子、クリストファーと添い遂げてもらいたい。良いだろうか」

「あ、あの」


 私のこと聖女って言いました? 本当の聖女はそろそろ現れる予定なんですけど……。女神の声設定は嘘なんですー! 何で知ってるの!?


「リディア! 返事をせんか!」


 陛下のお言葉に混乱していると、お父様が返事を催促してきた。お母様から感じる無言の圧力もすごい。

 クリストファー殿下をチラリと見ると、バッチリ目があった。そしてニッコリと頷く。


 い、いいんですね!? お転婆悪令嬢ですわよ!? 後でヒロインのことを好きになって、婚約破棄を言い出すかもしれないくせに! あぁ、もう!


「……は、はい。承知いたしました」

「ありがとう。末永くよろしく頼む」


 こうして私はシナリオ通り、我が国の第一王子クリストファー殿下の婚約者になってしまったのだった。

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