食事
食事します
頭に何かやわらかい感触がある。それになんだか安心する。
香ばしい匂いに誘われるように目が覚めた。西日が眩しく思わず目を細めた。
「あっ、やっと起きた、これ食べる?」
そう言う、カイラの目の前では、肉の塊が火の上で耳に心地いい音を奏でながら肉汁を滴らせていた。
食べる。と言いかけたときに先に腹の虫が返事をしていた。それを聞いてカイラは微笑みながら肉の一部を切り取ってくれた。俺はそれを木の魔法を使い簡易的な皿を二枚作りそこによそってもらった。どうやら、その肉は俺が気を失っているところに襲撃してきた獣の成れの果てらしく、傍らにはおそらくカイラが切ったでのあろう、今食べている胴体以外の部分が置いてあった。そのおいてある顔からどうやらイノシシのような動物だと推測できる。が俺が知っているイノシシとは少しばかり味も見た目も違った。イノシシの味は癖が強く以前食べたときは、好んでは食べないなと思ったものだが、いま食べているものは癖もなく、そこにカイラがあたりから積んできた薬味が肉本来の味を、際立たたせており手が止まらない。
「おいしいね」
「うん、かなりおいしい」
そんな意味のない言葉のやり取りを交わしながら黙々と口の中に肉を入れ頬張っていた。あの街から追い出された日は何も食べれてないし、夜もできるだけ歩いて先に進もうとしていたから何も食べていない。そしてそんな状態でスライムに遭遇し死にかけたのだ。体が生きるために栄養を摂取しようとしているのが分かる。
そうして食べ終わった後、木のコップを二つ作り水魔法で出した水を沸騰させ、その辺に咲いていた葉を浸しちょっとしたお茶を作った。二人でそれをすすりながら特に何も話すことなく、沈みゆく太陽を見ていた。そうしてしばらくして今度は月が、これからの時間は俺が主役だと言わんばかりに堂々とした姿で現れた。少し青みかかっている。
空を見ながらカイラが口を開け言葉を発した。
「ねえ、転生者って特殊な能力をもってこの世界に来るんでしょ?だけど本当に申し訳ないんだけど、蓮からはその特殊性?っていうのかな、が感じられないんだけど、一体蓮はどんな能力を持っているの?かつてこっちに来た人は確か電撃によってほぼ全ての敵を討ち滅ぼせる力をもっていたとか聞いたことがあるんだけど、そんなことは連にはできないよね?」
「そうだな、俺はそんなカイラが言うみたいな能力を持ってはいない。こうした能力はこの世界に来る前に女神から授かるんだが、俺は優柔不断で一つに決めることができなかったんだよ。頭もさしていいってわけじゃないから一番汎用性の高い能力はどれか分からなかった。だからもしかしたらの可能性にかけて、全ての能力の半分の値でいいからすべて会得したいって女神に伝えたんだよ。そしたら、別に問題ないってことで全ての能力を半分の力で授与されて今の世界に来た。はじめは何でも思い通りになるって考えていたんだけど、どうやら能力の中には相反するものも存在するらしい。豪運に対して不運みたいな。それらを今は正しく制御できないから、常に中途半端な、もしくはそれ以下程度の能力しか発揮しないらしい。一つに選んでたらスライムも楽に倒せたかも」
そう、少し自嘲気味に伝えた。
「別にそれでいいんじゃない?それに蓮は凄い能力がもしあっても上手く使いこなせないような気がするし」
そう言われて、少し気が楽になった。
「カイラが魔法を使えないのは何か理由があるの?」
話を変えるようにそう言うとカイラが少し照れくさそうにしながら話してくれた。
「実は昔は使えたんだけど、ある時に火の魔法を使っていた時に暴発しちゃって腕をやけどしたんだ。その時の傷は今でも残ってるし、それを見るとあの時の恐怖を思い出してしまって、どうにも魔法が使えないんだ」
そんなことがあったのか。だがこのパーティーにおいては、俺が魔法担当でカイラが剣術担当だから特に問題ないだろう。
「蓮は剣使わないの?あんなに練習していたのに」
「うん、なんかどれだけやっても怖くて、上手く触れないんだよ。もしかしたら手が滑って腕を切り落としてしまうとか考えて」
「あはは、私たち案外似てるね!」
「そうだね」
しばらく無言の時間が続いたのちにカイラから提案があった
「もう、今日は寝よっか!蓮も完全に回復したってわけじゃないでしょ?」
そうなのだ、先ほどから少しばかりめまいがしている。まだ完璧には元にもどってはいないらしい。なので、今日はおとなしく寝ることにしよう。
夜のまま進めるか次の日に行くか迷っています。汗流してないしどうしよう。