圧倒的な差
よろしければご覧ください。
風が次第に吹き荒れ始める。周りの木々の枝葉が揺れ始め、気が付けば幹の部分がしなるようにどうにか地面に張り付いていようとしている。吹き荒れる風はあたりの小さな花々を舞い上がらせ、幻想的な空間を作り上げていた。
「綺麗だね。この風はお兄さんが起こしたんでしょ?」
人間のことを格下だと思い込んでいるからか、声を出したことによって今いる場所が明らかになることを恐れてはいないようだった。
「ああ、そうだよ」そう言ってさらに魔力を練り上げて、より大きな風を操る準備をする。
「わあ、どんどん風が強くなってくるね。すごい。ワンピースがめくりあがりそうだよ。お兄さんのエッチ」
そんな冗談を言う少女だが、声が聞こえてくる位置が変わっていないので、木々をなぎ倒しそうな風でも少女にとっては何ら問題は無いということだろう。それに少しづつ近づいて来ているのが分かる。
「嘘つけ。すごいなんて思ってもないだろ」
「いや、本当にすごいと思うよ。歩くのちょっとしんどいし」
「そうかよ」
もう既に大木と言っていい樹木やスーツケースほどの大きさの石が宙を舞っているぐらいの風が吹き荒れているのだが、少女は一定の間隔で歩みを進めている。
「それじゃあ、バイバイ。お兄さん」
気が付けば少女の姿が俺の三メートルほど手前に現れていた。手に持ったナイフを顔の前でちらつかせ、およそ人が出せる速度とは考えられないほどの速さで突進してきた。
俺はそれを見て自分の前の空間に向かって風の流れを変化させた。
少女は急な状況の変化に警戒し、一瞬動きが鈍くなった。そしてすぐに、頭上から降り注ぐ無数の石や木の存在に気づき退避しようとしたが、地面から伸びてきた六本の手がそれを妨害した。
「なにこれ!?」そう言い切る前に、その小さな体は自然の散弾によって撃ち抜かれることになった。
「悪いな。本当は一人で勝つ気なんて端から無かったのに、まるで一人で戦うみたいな雰囲気だして」
俺はバラバラになった少女の肉片に向かってそう言った。
「確か、首と胴体を切り離したら死ぬと言っていたからこれで十分だろ」
独り言をつぶやきながらどこが顔でどこが胴体か分からなくなり、あたりに散らばった魔族の少女だったものを見回した。
「うん。本当に今散らばっている肉塊が私なら死んでたよ」
俺はその声の主を二度見することになった。
「なんで生きてんだよ」
嫌な汗が背中をつたっていくのが分かる。視界の先には、初めてその姿を見たときのように穏やかに少女が佇んでいた。
「んー、別にさっきお兄さんにやられた私は幻惑魔法だったってだけだよ」
微笑みながらそう告げられたが納得がいかない。
「ならこれは何なんだ。これは本物だろ」
そう言って目の前に散らばっている肉片を手に取って少女に見せつけた。すると少女は呆れたように口を開いた。
「だから、それは私の幻惑魔法だって」
そうは言われても、今まさに手から感触が、冷たくなっていく温度が感じられる。それに匂いも感じ取れる。だから、どう考えても本物に思える。そしていまだ理解の追いついていない俺に対して少女はさらに続ける。
「私の幻惑魔法はね、一般的な幻惑魔法と同じだよ。もちろんお兄さんが考えていることは分かるよ?なんで幻惑魔法で本物同然の物が作れるのかってことでしょ?分かるよ、お兄さんの気持ち、でもそれが現実なの。魔族っはそういった、人間が一生をかけても理解できないような魔法を当たり前のように使える生物なの」
「そうなのか。とにかくお前の幻惑魔法は俺が知っている魔法とは比べものにならないぐらいの差があるってことだな。勉強になったよ」
「そう、なら話してよかった。あっ、でもお兄さんもかなり強かったよ。私が自分を幻惑魔法で作って戦わせるなんていつぶりだろう。それすごく魔力を使うんだよね」
そう言って握られた肉片を指さしながら、わざとらしく汗を流す少女を見つめる。
「なあ、俺のパーティーメンバーを殺さないでくれるか?」
「突然どうしたの?お兄さん」
「いや、俺にはもうほとんど魔力も残っていないから、これぐらいしかやることが無いんだよ」
「確かに!お兄さんの魔力、枯渇してるね」
少女はそう言ってこっちを凝視してくる。
「んー、どうしようかなー」
「頼むよ」懇願するかのように少女を見つめた。
「分かったよ。そんな瞳でみないでよ」
少女は諦めたように視線をそらした。
「ありがとう」
そう言うと少女は訳が分からないといった顔をした。だがそのあとに少し頬を赤らめて嬉しそうな表情をした。
「魔族にお礼を言うなんて変な人間だね。お兄さん、名前はなんていうの」
「ん?俺か、俺は西野蓮って言うんだ。覚えておいてくれよな」
「そうなんだ。にしのれんね。うん!できるだけ覚えておく。あっそういえば私戦う前に名前付けてって言ったけど、本当は名前あるの」
「えっ?名前あるの?」
「うん。自分でつけた名前だけどね。確かに魔族は名前という文化は無いから、自分でつけないといけないんだけど。名前を付けてからこの永遠に思えるような空虚な人生が少しだけ楽しくなったの」
「そうなのか。何て名前なんだ?」
「私の名前は、ホロって言うの」
少女はそう自分の名前を告げるとき、少しだけ照れくさそうにしていた。
「そうか、いい名前だな」
「でしょ」そう言ってホロは、はにかんだ。
「そろそろ、さよならだな」
ホロの小さな体の中で、最初感じた魔力よりも数倍大きなものが練られているのが感じられた。
「名前も教えた仲だから、せめて私の最も強力な幻惑魔法で殺してあげる。でも安心して、穏やかな空間の中で眠るように死ねるから」
「なら、いいか」そう言うとホロはこちらに向かって手をかざした。
【幻想領域(魅惑の空間)】
周りが柔らかなピンク色と黄緑色のマーブル状の煙に包まれていき、全身の感覚が失われていくようだった。
「これが幻惑魔法を極めた者のみが使える魔法だよ。お兄さんに最初使った魔法だよ?最初のは簡易版だけどね」
「ああ、あれか。すげーな魔法って」薄れゆく意識の中でそんなことを呟いていた。
読んでいただきありがとうございます。誤字脱字等ありましたら教えていただきたいです。また次回もご覧いただけると嬉しく思います。最後になりましたが、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。




