少女の提案
よろしければご覧ください。
少女との闘いが始まった。だが姿が見えない。それに少女の体から発せられていた魔力の残滓も感じ取ることができない。
「サーラ、あの魔族の場所を探し当てることはできるか?」
エルフのサーラならば魔力の痕跡を辿れるかと考えたが首を横に振られた。
「くそ、どこに居やがるんだ。あいつ。とっとと出てこい!」
フガが怒気を含んだ声で言った。
だが、怒鳴ったところで状況が好転するわけでもなく、その叫びは空しく響くだけだった。だが突然、フガが呻き声をあげて手を地面につけるように倒れた。
「もう、そんな怖い声出さないでよ」
誰もいなかったところから急に現れ、そう言ったのは少女だった。そして、小さな手には血の付いたナイフが握られている。
「私は静かな空間が好き。騒がしい人や場所なんて大嫌い。まして、大きな声を出す人なんていなくなればいいと思う。あなたたちもそう思わない?」
少女の突然の口調の変化に戸惑い、何も言うことができなかった。だが、少女がその自分勝手な考えを実現できるだけの力を持つことは理解できた。
「やっぱり、つまらないや。もうそろそろお腹も減ってきたし終わらせようかな。バイバイ人間」
ため息を吐きつつ、穏やかにほほ笑み少女は再び姿を消した。
「蓮、なんとかできないの?何かしないとこのままだと全員殺されちゃうよ」
カイラが焦り始めている。だが姿を消し一瞬にして背後を取ることのできる奴を相手にどうやって対処したらいい。
「蓮様、フガの血が止まりません」
震えながらそう言うサーラの方を見てみると、フガの刺された部分から血が止まっていないのが分かった。
「そんなに深いのか?」
回復魔法が効かないのかと思い、焦ったが「いえ、傷自体は深くないのですが、おそらくさっき奴が持っていたナイフには魔力を乱す術式が組み込まれており、回復魔法が効かないといった感じです」とサーラは言った。
「そんなナイフがあるのか?」
俄かに信じがたいという思いで聞いてみた。
「はい。かつて私がエルフの里にいたときに、そのような武器について書かれた本を見たことがあります。現にフガの傷口には見たこともないような魔力の流れが見えます。おそらくその時に書かれていたものがあのナイフなのだと思います」
確かに言われてみるとフガの刺された箇所の魔力が乱れているのが分かった。
「治せるか?」
サーラは頷いた。
「ですが時間がかかります。ですので、その時間をかせいでいただきたいのですが」
それを聞いてカイラの顔が翳った。
「そんなの無理じゃない。あいつ、いつ襲ってくるかもどこから現れるかも分からないし」
そう言われて暗い沈黙が訪れた。実際、いま俺たちが生きているのは偶然であり、いつまた背後から攻撃されるかわからない。
「そいつ、ここに置いていくなら見逃してあげるよ」
どこからともなく少女の声が響く。
「そいつ、仲間って言っても奴隷でしょ?だったら新しいのまた買えばいいじゃない。ここで置いていっても、お兄さんは何にも悪くないんだよ」
「蓮、まさか置いていったりはしないよね」
不安そうな目でサーラとカイラが俺を見てくる。
「なんで黙ってるの!?」
何も答えない俺にカイラが声を上げる。
「いいじゃん、置いていったら。絶対に勝てない相手が見逃してくれようとしてるんだよ。こんな幸運なことないでしょ?それにさっき私が食べた人間の仲間の一人は、自分だけ助かるって知ったらすぐに仲間を動けなくして逃げていったよ。あの人間みたいに、お兄さんも逃げたらいいんだよ。それに一人を犠牲にするだけで他の仲間が助かるんだよ。ねえ、黙ってないでなんか言ってよ」
楽しそうに四方八方から笑い声が聞こえてくる。
「フガを置いていったら俺たちは助けてくれるんだな?」
「うん!安心して、約束は守るよ」
そう言って少女は目の前に姿を現した。
「だったら答えは決まった」
「うん!うん!」
「そんな提案に乗るわけねーだろ。馬鹿か」
そう応えるのは当たり前だ。フガは俺たちの大切な仲間だ。フガ自身はそんなこと思っていないだろうが俺は勝手にそう思っている。もちろんカイラやサーラも同じだ。俺は俺の意思を尊重したい。
「俺は全員で戻ると言った。その言葉に嘘をつく気にはなれない」
「あっそ、まあいいけど」
少女はつまらなさそうな顔をした。
「カイラ、フガとサーラの近くにいてくれ!」
そう叫ぶと、カイラはすぐに地面を蹴って二人の側に着いた。それを見た後、三人の足元の地面を陥没させ、その頭上を魔力を込めた土で覆った。俺を残して他の三人が急に視界から消えた状況に少女は目を点にしていた。
「何してるの?」
「フガの傷を治すためには時間がいるって言われたからな。その時間稼ぎをしただけだ」
「そうじゃなくて、なんで一人だけ残ったってこと」
「特に理由なんてないよ」
そう本当に理由なんてない。
「ただ単に、かっこつけたかっただけだ」
「何それ。ふざけてるの?」
少女は可笑しそうに尋ねてくる。だが俺は何もふざけていない。
「別にふざけてなんてないさ、でもお前を殺せる方法は考えた」
それを聞いて顔から表情が抜け落ち、こちらを光の無い目で見つめてきた。
「お兄さん死ぬよ?」
それは、今まで向けられていたものが可愛く思えるほどの、それほどまでに純粋な殺意だった。それを受けて膝が震えそうになるが気合で押しとどめる。
「そうか、死んだら花でも供えてくれ」
その言葉を最後に少女は姿を再びくらませた。だが、同時に俺はここまで練っていた魔力を一息に解放させた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回もご覧いただけると幸いです。また最後になりますが、今年一年お疲れさまでした。皆様よいお年をお迎えください。




