少女との出会い
よろしければご覧ください。
「こんにちは、お兄さん!」
カイラとフガの前にいたはずの少女が気が付けば俺の背後に立っていた。慌てて跳び退くとそれを見て楽しそうに笑った。
「あはは、そんなに驚かなくてもいいのに」
「驚くよ、さっきまで前にいたのに急に後ろに現れたら」
「ううん、お兄さんそれはちょっと違うよ。私は別に急に現れたわけじゃなくて歩いて後ろまで来たんだよ」
「なに言ってるか全然分からないんだけど」
それを聞いて少女は少し困ったような顔をしていた。
「言った意味のまんまだよ。私はさっきまでいたところから歩いてここまで来たの」
改めて聞いても何を言っているのか分からない。だが考えを遮るかのように少女が言葉をつなぐ。
「今日はお願いがあって、ここまで来たの。聞いてくれる?」
それを言い終わるとまたすぐに最初にいた位置に戻っていた。
「別にそれぐらいならいいが」そう言うと少女は顔を明るくした。
「あのね、お願いって言うのはここにはもう、近寄らないでほしいってことなの。私は今ここで静かに暮らしているだけだからほっておいてほしいの。別に悪いことはしてないし、いいでしょ?」
そう懇願する少女の言葉がどこか拒むことができない雰囲気をまといながら頭の中を巡る感じがする。
「ああ、別にいいぞ」そう言うとカイラがこっちを向かずに叫んだ。
「いいわけ無いでしょ!蓮しっかりしてよ。こいつ体中から血の匂いがするの分からないの?」
カイラは先ほどからずっと警戒している。それを聞いて少女が反論した。
「違うよこれは、一人で暮らしているから食べものを解体するのも自分でやらないといけないから、血の匂いが付いたんだと思う。別に悪いことはしてないよ」
そう涙ぐみながらこちらに訴えかける顔に少女を疑う気持ちが揺らぐ。分かっている。目の前にいるその幼い少女から血の匂いがすることは。おそらく今の話は嘘だ。だがそれにも関わらず、俺はこの子の願いを聞き入れてあげたいと思っている。
「嘘はついてないんだな?」
そう聞くと「うん、なんで嘘つく必要があるの?」と言ってきた。
見た目10歳程度の少女がこんな場所にいるのは不自然だし、さっきの瞬間移動のようなものだってどうやったのか見当もつかない。敵感知のスキルには反応していないがこの子は俺たちよりも強いことは分かる。おそらく魔族なんだろう。俺の中途半端な敵感知のスキルを欺くことなんて容易いことなんだろう。となればやることは決まっている。
「フガとカイラ、近くに来てくれ」
そう言うと二人は前を見たまま下がってきた。
「今から言うことをしっかり聞いてくれ」と全員に聞こえるように小さな声で伝えた。
「今、目の前にいる少女はどう考えても危険だ。確証はないがダンジョン内で最近見かけるようになった魔族って言うのがあの子のことだと思う。そう考えると、相手の能力が分からないうちに戦うなんてことはしたくない。だから、とりあえず今回は少しの情報が手に入ったってことで終わりにしたいんだが、全員それでもいいか?」
そう聞くと「うん、いいよ!」とさっきまで目の前にいた少女が俺の横に立って背伸びをするようにこちらを見つめて言ってきた。
「どうやって!?今まで目の前にいたのに!?」
カイラとフガが慌ててこちらに剣を向けるがその時には目の前からいなくなっていた。それを見て、もう一度振り返るが姿は見えず、それどころか今まで近くにいたはずなのに、その姿形はどこにも見当たらない。
「やばいな、あいつ。今の俺たちじゃ何をされたかも分からないまま全滅しそうだ」
フガがそう言って来た道を戻ることを急かした。
「早く、行こうぜ。いつまた、あいつが来るか分からないしな」
「そうだね、ほら二人とも戻ろ」
カイラが俺とサーラの背中を押し進めた。
「ところで俺はどうなってたんだ?」
俺のもとに戻してくれたと思うサーラに聞いた。
「詳しくは分からないのですが、森の中を進んで少ししたところであの少女は突然私たちの前に現れました。そして少女が手をこっちに向かって振ると蓮様は地面に溶けていくかのように意識を失っていったという感じでした。状況を考えても蓮様が意識を失った原因は明らかですので私たちは少女に向かって起こすようにいいました。まあ聞き入れられませんでしたが」
「それなら、俺はどうやって目覚めたんだ?」
「それは、蓮様は幻惑魔法のようなものをかけられているのが分かりましたので私が解除させていただきました」
「そうだったのか、ありがとうな」
事情は分かったがあれが本当に幻惑魔法なのかは確証が持てない。俺が知っている幻惑魔法なんてものは少しばかり相手に幻覚を見せて行動できなくするといったものだ。少しでも衝撃を与えられたら覚醒してしまうため使い物にならないと以前本で読んだことがある。それで、あれほどまでに精巧な幻覚が作れるものなのか?それに痛みも感じたし、俺が知っているものとは明らかに別格だ。
「とりあえず、今日はもう帰ろう。クエストは失敗したと報告しよう」
「そうだね、二人もそれでいい?」カイラがサーラとフガに質問する。
二人は頷いて答えた。
「よし、急いで扉まで戻ろう」
そう言って俺たちは出口を目指して走り出した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。もし誤字脱字等があれば教えていただきたいです。皆様の閲覧が支えとなっています。よろしければ次回もご覧いただけると幸いです。




