扉の中での冒険
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扉の向こう側には明るい陽光が射し込む緑が広がっていた。
「なにこれ、ここダンジョンの中じゃないの?」
カイラは全員の意見を代弁するかのように語った。
「そうだと思うが、さすがにこれは信じられないな」
背中側にある扉の奥を見ると確かにさっきまでいたダンジョンの土壁が目にはいってきた。そんなどう考えても異様な状況なのにも関わらず、なぜか前に進みたいという気持ちが湧き上がってくる。
「とりあえず、先に行ってみるか」と言って俺たちは森の奥へと歩を進めた。
「特に変わったことはありませんね」
そう言ったのはサーラだった。
「そうだな」と素直に思ったことを言った。
実際、今までに見たことのない生き物はいたが、どれもこれもダンジョンの中ということを考えれば変なことなど無かった。それに、そいつらに見つかる前に敵感知のスキルに反応があり今のところ隠れてやり過ごすことに成功している。
「ねえ、この植物なんか変な形してるよ」
カイラが俺たちを呼び寄せて指さした先にはウツボカズラのような形をした植物と思わしきものがあった。
「なんか変な形してるね」
「へーこんな植物が生えてんだな。サーラ知ってるか?」とフガがサーラに話しかけていた。
「ううん。私も初めて見た」
俺とカイラには敬語のサーラだが、フガにだけは彼女本来の言葉遣いで話す様子が時々見られる。
「ねえ、蓮。蓮は見たことある?これ」
カイラが目の前にある植物を眺める俺の横に来て言う。
「いや、ないな」
「ふーん、そっか」と言って離れていった。
だが本当は嘘だ。この世界に来る前に植物園か何かで見たことはある気がする。だが、大の大人がすっぽりと収まってしまいそうなぐらい大きなものは見たことが無い。
「どうする?これ。燃やす?」
「えっ?急にどうしたんだ?」とカイラの不意な発言に少々驚いてしまった。
「だって、これ多分人が中に入ってるよね」
そう言われじっと見つめると、太陽の光で僅かに内部が透けたタイミングで人間のようなシルエットが植物の表面に浮かび上がっているのが分かった。
「ほんとだ」
「でしょ?だから今後のことも考えて少しでも駆除していたほうがいいと思うの」
「確かにそう言われるとそうだな。二人ともこれは燃やすってことでいいか?」
そう言って、フガとサーラに聞いてみた。二人とも自然の中で育ったと思わせるような種族だし一応聞いておくに越したことはないと思う。
「ああ、別にかまわないぜ」
「私もフガと同じ意見です」
二人っきりの会話を中断させて悪かったなと思いつつ、植物の方に目を戻すとさっきまで少し上にあった植物の口の部分が目の前に現れた。
「危ない!」
カイラがとっさに服を引っ張ってくれてどうにか最悪の事態にはならなかった。
「すまん、助かった」
しりもちをつきながら既に剣を構えたカイラに向かってお礼を言うが「蓮、お礼は後からでいいから早く立って!」と急かされ立ち上がろうとすると腕にツタが絡みついてきており立てない。それどころか、次第に地面に貼り付けにされるように引っ張られる。
カイラやフガに助けてもらおうと目を配ると、フガは俺と同じように捕まったサーラを助けている最中で、カイラはこの状況を作り出したウツボカズラのような植物のツタによる攻撃をさばいているところだった。
仕方がないので、自分で炎の魔法を使って焼き切ることにした。だがものが植物なだけに、燃やしたいところだけを燃やすということはできず、余計なところにまで燃え移ってしまい、軽度の火傷を負うはめになってしまった。だがそんなことを気にしている暇はなく、すぐにカイラの加勢に向かった。そして隙を見て、カイラとの打ち合いに意識を割いている巨大ウツボカズラの背後を取り、後ろから火球を五発ほど叩き込んだ。それが接触するとキリキリといった断末魔のような音を出しながら炭になっていった。
「よかった。無事で」
カイラが俺の身を案じるように言ってくれた。
「また、カイラに助けられたな」
「別にいいよ、気にしなくて。助け合いなんでしょ?」
「そう言ってくれると助かるよ」と言って二人して顔を見合わせて笑った。
「それにしても、あんな植物がいるなんて今でも信じられない。さっきのやつ口みたいなところにびっしりと鋭い歯が生えてたよ」
「そうなのか、もしカイラが引っ張ってくれてなかったら今頃首無しだったな」
「もう、笑い事じゃないよそれ」カイラはそう言って少し怒った顔をした。
「ごめん、ごめん。もう気は抜かないから」
「だったらいいんだけど」そう心配した顔で言われた。
「ところで、フガとサーラはどこに行った?」
「えっ?ああ、確かあの二人なら、蓮の火傷を冷やすために水を汲みに行くって言って向こうに行ったよ」
「そうなのか。あとでお礼言わないとな」
「うん、それでね、あの二人はしばらく戻ってこないと思うから、今から二人きりになれる場所に行こ」
カイラが顔を見ないで指し示した場所は、今現在カイラがサーラと二人で寝泊まりしている部屋だった。
「もう遅いし今日はあの二人、帰って来ないと思うから私たちが二人でいても平気だよ」
気が付けば、先ほどまで鎧を身につけていたカイラの姿は寝間着姿に変わっていた。いや、もとから鎧なんて着ていなかったかな。今日は確かカイラに夜、一人で部屋に来てほしいと言われ来たのだった。
だが「もう今日は遅いし、寝るとするか」そう言って部屋を出ようとするとカイラに服の裾を引っ張られた。
「もう、さっきも言ったけど今日は一緒に寝るんでしょ」
照れて恥ずかしがってはいるが手は放してくれない。
「これってもしかして夢か?そんなこと言ってた記憶ないんだが」
「ん?何言ってるの蓮?」そう言って頬を捻ってきた。
痛い。溢れるような痛みが肌の下を通過していくのが分かる。
「夢じゃない」
「あたりまえじゃん。ほら早く入って!」
カイラに腕を引っ張られ中に入ると、カイラは扉が閉まると同時に下着姿になった。
「ねえ、蓮。蓮も早くこっち来て」
寝間着を脱いだカイラは先にベットに潜り込んでいった。
「ほんとうにいいのか?そういうことなのか?」
そう聞くと「私たち付き合ってから、しばらく経つんだから、そろそろこういうこともしたいなというかなんというか」と小声だったが確かに耳に届いた。
それを聞いて俺はベットの中に体を忍ばせた。
「やっと、これで一つになれるね」とカイラが顔を赤らめながら抱きついてきた。
そんなカイラの頭を撫でていると、目を閉じ淡いピンクの唇をほんの少し前に出してきた。
俺はそれに唇を合わせるように顔を近づけようとした。
だが、突如視界が揺らぎ意識がその場から離れていくのを感じた。そして気が付くと、目の前には青空が広がっていた。
「カイラ様、蓮様が目を覚ましました!」
遠くの方でサーラの声が響く。
「蓮、目が覚めたなら早く武器を取って!」
カイラの切迫した様子の声が次第に鮮明に聞こえてくる。
「そうだぜ!早くしてくれ!」
フガの声も同じように聞こえてくる。
「あっ、戻ってこれたんだ。すごいね。やっぱり、エルフが魔法に長けてるって本当なんだ。それなら先に仕留めておくんだった」
知らない声も聞こえる。
一体何があったんだ。そう思い霞がかかった頭を振りながら体を起こして確認してみると、目の前にはカイラとフガが敵意をむき出しにして何かを見ている。まだ視界がぼやけているため、しっかりとは見えないが確かに二人の視線の先に誰かいる。
時間が経つにつれ視界に鮮明さが戻って来た。改めて誰がいるのか見てみるとそこには小さな女の子が一人佇んでいた。
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