契約完了
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「あー契約に際してだが、この指輪を使って奴隷との契約を結ぶことになる」
男がぶっきらぼうにそう言う。
「分かった」
指輪を手に取って見てみる。
「結構禍々しいデザインだな」
かなり好みのデザインだ。おしゃれだと思う。
「それ、結構恥ずかしいデザインだよね」
カイラが横から覗き込み同意を求めているような目で俺の手を見てくる。
「私もつけないといけないよね。それ」
「もちろんだ。奴隷との主従関係を示すものだから付けないと色々と問題が出てくる。奴隷を買うってのは口約束をするのとはわけが違うからな」
男はカイラにそういって、早くつけるように急かした。
「にしても、何このデザイン。なんで二匹の蛇が混じりあってるの」
カイラは手に取って指にはめてからもずっと小言を言っている。俺はかっこいいと思ったのだが口には出さないでおこう。
「よし、二人とも付けたな。それじゃあこの二匹の奴隷の頭の上に手をかざしてくれ」
言われたとおりにしゃがみこんでいる二人の頭の上に手をかざすと、紫色の複雑な形をした魔法陣が現れた。
「でたな。よしそのままの状態でしばらくいてくれ。今契約が執り行われている」
その後自然と魔法陣は消えた。それを見計らって、男は二人につけていた鎖を外した。
「これで契約は終わった。あとは代金を払ってもらうだけだ。ここに来る前に安くするって言っていたから、金はこれぐらい渡してくれればいい」
目の前に、先ほど指輪と一緒に持ってきた紙が差し出された。そこに示さ金貨158枚と書かれていた。
「おい、これは本当にあってるのか?」
「ああ、これでもかなり安くしたぜ」
その金額はさすがに払うことはできない。どうしようかと考えているとカイラがこちらを見てきた。
「ねえ、どうする?こんなにもってないよ」
「だよな、仕方がない。契約をなかったことにしてもらおう」
「そうだね」
「あーそのだな。非常に申し訳ないんだが、この契約なかったことにしてくれないか?」
突然の俺の提案に男は驚愕しているようだった。
「実は金が足りないんだ。本当に悪いとは思うが、なかったことにしてくれないか?」
そう、恐る恐る聞く俺に、男は唸って何かを考えているようだった。だがしばらくして目を開けてこちらに視線を送ってきた。
「金がないのは分かった。だがさっきも言ったが、奴隷の契約ってのは口約束とは違って、そう簡単なものじゃない。だから契約を無かったことにはできない」
俺とカイラの顔に影がかかる。
「だが、二つ提案がある。そのどちらかを呑んでもらえれば今回はいいことにする」
「提案?」
「ああ、提案だ」
今の状況じゃ断ることもできなさそうだ。乗るしかない。
「教えてくれ」
「ああ、一つ目の提案なんだが、あんたたちのどっちかが奴隷となることだ。つまり自分自身を売ることだ。特にお嬢ちゃんの方は、見た目もかなりいいし、結構な金額で売れると思うぜ。お前さんは、まあうん、あれだ。いいと思うぜ」
駄目なら駄目と言え。変に気を遣うな。だがそんなことを考えていると、金属が擦れるような音が聞こえてきた。
音の発生源に目を向けるとカイラが抜刀しかかっていた。それを見て、「その提案には乗れない。あとカイラ剣をしまってくれ」なだめるように言った。
男はその言葉を聞いて、急いでカイラの方に視線を移した。剣が鞘に戻るのを確認して顔が青白くなっていた。
「すまん。今のは一つの提案ってだけだ。聞いてほしいのは二つ目の方なんだ」
「そうなんだ、早く言ってよ。勘違いしちゃうところだった」
カイラはいつものように無邪気に笑っていた。
「ああ、すまん」
男は呼吸を整えように息を吐きだした。
「それで、二つ目の提案って言うのは、今回の分は俺が立て替えておくって話だ。もちろん立て替えるってだけで、また後日払ってもらうことにはなるが、それでも別に利子をつけるとかはしないし期限も決めない。返してくれるならそれでいいってことだ。どうする?」
「いや、それで良いなら構わないがあんたに何も得が無いぞ」
圧倒的にこっちが得をする契約内容だ。なぜこいつはこんなことを提案する。
「それで本当にいいの?私たちお金ないから、踏み倒して逃げるかもしれないよ?そんな危険もあるのになんでそんな提案するの?」
カイラの気になったことはすぐに聞けるこの性格が頼りになる。
「逃げるのか?」
「いや、逃げないけど」
カイラが不満そうにそう言った。
「すまん。そんな顔をさせる気は無かったんだ。謝る。だが、別に大した理由なんてない。単にあんたらに恩を売った方が今後得だと思ってな。ただそれだけだ」
「えっ?別に私たちまた買いに来たりしないと思うよ?今回も必要に迫られてって感じだし」
カイラが不思議な顔をしてそう言って男が笑い、「いいんだよ、別に」と苦笑した。
その様子を見て分かった。この男は別に俺たちから金が欲しいわけじゃないことが。ただあの時の恩を返したいだけなんだと分かった。そのことを正直に言うのは恥ずかしいから、こうして金を立て替えるというあの男自身のやり方で恩を返そうとしているんだと。
「分かった。その二つ目の提案を受け入れる」
「ああ、助かる」
それを聞いて笑いそうになった。助かるだと?嘘をつくのが本当に苦手な奴らしい。カイラはそんな俺たちの会話を横から見て、はてなを浮かべていた。
「あんた、名前はなんて言う?」
不意に聞きたくなって、その思いに素直に従った。
「俺か?俺はアデクシオって名前だ」
「そうか、いい名前だな。俺は西野蓮、蓮と呼んでくれ」
「蓮か、分かった聞きなれない名だがいい名前だと思う」
「そうか、ありがとな」
「私はカイラ・アーグネスって言う名前なの。カイラって呼んで」
横から跳ねるよう現れたカイラがそう言う。
「カイラか、綺麗な名前だ」
そう聞くと、カイラが嬉しそうにほほ笑んだ。
「よし、それじゃあこれで俺ができることは全て無くなった。また何かあったら店によってくれ」
アデクシオと俺は握手をした。
「あっ、ちなみに蓮とカイラが付けてる契約に使った指輪、契約を終えた今は、もう何も効果は無いから外して帰ってくれて別にいいぞ。それ見た目すごくダサいから、二人ともつけて帰りたくはないだろ?」
「うん!」
カイラは嬉々として返事をして外していた。
「どうした?蓮、お前は外さないのか?」
「あっ、ああ、外すよ」
さよなら、指輪。ちょっとかっこいいと思っていたから少しつけていたかったが、仕方がない。外そう。
「それじゃあな、二人とも」
俺たちは来た扉を通って店の外に出た。
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