薄暗い部屋の中での決断
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檻の中にはおそらく犬の獣人と思われる男がいた。しっぽに耳が犬のそれだった。
「こいつは、かなり戦闘向きだと思うぜ。なんせ人間の数倍の速さで移動できて、そのうえ力も相当なもんだ」
聞いてもないのに男が説明してきた。だが俺たちのパーティーに必要なのは純粋な戦力ではなくて、回復係だ。だから素の力が強いとかはあまり重要ではない。
「こいつは、回復魔法は使えるのか?」
「さあ?聞いてみたらいいじゃねーか」
「それもそうか」
だが、聞くと言っても言葉は通じるのか?どうすればいいんだ?
「ワン、ワン、ワワン、ほれほれ」
少し犬っぽく話してみた。だが結果は良くなかった。
「あっ?なんだてめーは」
どうやら、馬鹿にされたと思ったらしい。言葉から怒りが伝わってくる。
「蓮、急にどうしたの?」
カイラが心配そうな目で見てくる。やめてくれ、恥ずかしい。
「いや犬だから、人間の言葉で話しても通じないと思って」
弁明したが無駄だった。男とカイラの二人は、俺をかわいそうな目で見てくる。だが後悔するよりも先にすることがある。
「言葉が通じるなら、このまま話すが、お前回復魔法使えるか?」
「あっ?んなの使えねーよ。もし使えたとしてもお前には使わねーよ」
馬鹿にするように下品に下を出し、挑発するかのような仕草をしていた。こいつは無しだ。仮に回復魔法が使えてもこいつはダメだ。
「そうか、分かった」
無駄な時間を過ごしたと思い立ち去ろうとしたときに、獣人が聞き捨てならないことを言ってきた。
「まあ、たしかに俺は回復魔法は使えないが、一人使える奴を知っている。それもここにいる連中の中にな」
「おい、それは誰だ?」
「はっ!教えるわけねーだろ。頑張って探してみな」
そう言って高笑いしていたが、それには反応しなかった。だがここにいるなら是が非でも、そいつを引き入れたい。
「こいつが言っていることは本当か?もし本当なら誰だと思う?」
男に聞いてみたが、考えるようなそぶりをするだけで何も知らないらしい。
「カイラは誰か分かるか?」
もしかしたら知っているかもしれないと思い、聞いてみた。
「何となくは分かるけど、詳しくは知らないな」
「なら、とりあえず一緒に探してくれるか?」
「うん、別にいいけど、あまり期待しないでね」
そこからは二人で全ての檻の中を見て回った。だが残り一つを残して、今目の前にある檻が最後になってしまった。
「この中にいる奴がそうだといいんだが」
「だね」
これが最後である。もしこの中にいる奴が回復魔法を使えなかったら俺たちはまた別の方法を探さないといけない。たぶん見つからないだろうが。
布をめくった檻の中には、綺麗な顔をした耳の長い女がいた。
「エルフだね」
カイラが横でつぶやくように言った。
「ああ、そいつは今、この店の中で最も価値のある奴隷と言っても構わない。エルフっていえば、かなり便利なものって言われている。例えばその、男を惑わせる体を自由にして、情熱的な夜を過ごすなんてのもいいかもしれない。それか、魔道具の素材として四肢をバラバラにして売り払っちまっても構わないだろうな。エルフの体には新鮮な魔力が流れているらしく、それなりに言い値が付くと思うぜ。どうだ買わねーか?」
男が商売人のような顔をしてきた。
「そうだな、とりあえず、何にしても聞かなければならないことがある。お前、回復魔法は使えるか?」
そう聞くと怯えた表情でこちらを見つつ、ほとんど聞き取れないような声で何かを言っている。
「はい」
何度か聞きなおすことになったが、使えることが分かった。そうとなればすぐにでも購入のための手続きをしたいが、少し思うところがある。
「使えるのか、それならどうするか」
カイラの方を見て、様子を伺った。というのもカイラは以前、奴隷に対してかなり冷たい反応を示していた。ここで、この奴隷を買ってしまった場合、同じパーティーに所属することになる。だが、そのことをカイラが許すのかが分からない。カイラがこのことについて嫌というなら、仕方がない。今回は縁がなかったと割り切ろうと思っている。
「ん?どうしたの」
「いや、カイラはどうなのかなって」
「どうなのかなって?」
「今ここで、この奴隷を買うことについてだけど」
「えっ?買うんじゃないの?」
「えっ?」
「えって何?」
カイラは笑いながら俺の顔を見てきた。そして少し顔を整えた後、口を開いた。
「もちろん、蓮も知ってると思うけど、ちょっとは思うところもあるよ。でもそんなこと言っている場合じゃないってのは分かってる。それに、私のわがままでこの先、進むことができなくなる方が嫌だから」
カイラは再び顔をほころばせた。
「よし、なら決まりだな」
「うん」
「決まったようだな。それじゃあ一番最初の部屋に戻っておいてくれ。俺はいくつか用意することがあるから」
だが、男がそう言うのを待って、檻の中のエルフがこちらに話しかけてきた。
「私を買われるんですね」
「ああ」
淡々と答えるしかない。
「それなら、ついでに、あなたに悪態をついていたあの獣人も買ってくれませんか?」
当然そう言われて意味が分からない。
「なぜあいつを買わないといけない?俺たちは、俺たちの目的のためにあんたを買っただけだ。あいつには何にも魅力がない」
「お願いです。どうか一緒に連れ出してください」
そういって、エルフは鎖でつながれた体を器用に動かして、檻の中で頭を下げてきた。
「やめてくれ」
そう告げてもエルフはやめない。ぼろぼろの身なりが悲壮感を際立たしている。だがそれでも無駄に金を使うわけにはいかない。
「すまないが。どれだけ頭を下げられても買わないものは買わない」
そう言い切るとエルフは憔悴しきった様子で、動きを止めた。
「ねえ、蓮。買ってもいいんじゃない?」
カイラがそう耳打ちしてきたのは驚かされた。だがカイラの話によって一つ見過ごしていたことがあることに気が付けた。
「確か、私たちが行こうとしているクエストって四人からだったよね。もしそのエルフをパーティーに入れても、まだあと一人足りないと思うんだけど。それなら、そのエルフの願いを叶える形であの獣人を買って、そのエルフに恩を売っていたほうが後々よさそうじゃない?」
確かに言われると、四人必要だった気がする。それに願いを無下にされたこのエルフが素直に俺たちに協力するかは怪しい。それを思うとこのエルフの願いは聞き入れておいた方がいい気がする。
「おい、この部屋で一番最初に見た獣人の男も買うことにする」
俺たちがこそこそ話しているのを見ていた男にそう告げた。
「そうか、分かった。ならあいつの分も用意しないとな」
男は最初に連れられた部屋に俺たちを案内した後、また扉の向こうに消えていった。何やら契約書を持ってくるとか言っていた気がする。
そしてしばらくして扉が開いた。ようやく来たかと思っていると扉の向こうから男以外にエルフと獣人の男が出てきた。
「よし、それじゃあ契約に進むぞ」
男は指輪と紙を二つずつ置いた。
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