帰宅に際しての問題点
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俺とカイラは鬱蒼とした森の中を歩いていた。だが一つ問題が生じている。ギルドに戻ろう歩き出してから、かれこれ3時間ほど経ってしまっている。迷ったというよりは迷わされたといったほうが正しいのかもしれない。とりあえず、進んではいるが一向に森の終わりが見えてこない。
「カイラ、大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。蓮も大丈夫?」
「ブラックウルフを倒すときに多少魔力を使いすぎた感はあるけど、まだ問題ないかな、にしても、いつまで続くんだこの森。来たときはこんなに歩かなくてもよかったよな?」
「うん、だと思う」
なんだか、閉じ込められてしまった感じだ。進んでも進んでも目の前に広がる景色に変化はない。森の木や花が次から次に現れる。
それに魔力のほうもカイラには大丈夫といったが少々、心配することがある。スキル「収納」によってブラックウルフを体内に取り込んでいるため、魔力を通常よりも多く消費していっている。スキルと魔力は無関係なものだろうと考えていた時もあったが、どうやらそうではないらしい。この世界においては、何をするにしても魔力は消費され、ただ生きているだけでも魔力は消耗していく。目に見えない生命力のようなものらしい。カイラが高速で動く時も、圧倒的な剣技を行う時も魔力を使っているとか。そうした常人離れした動きができる者や特殊な能力を持つ者は、基本的に普段の生活では、垂れ流しになっている魔力を意識的に変化させてスキルを発動させる形でそうしたことを可能にしているとか。その中でも魔法はかなり難しいスキルであるため使用者が限られてくる。厳密に言うならばスキル「魔力」を発動させ、魔力を生み出した後スキル「魔法」によって魔法を発動させる形で使っているらしい。この二回のスキル発動が難しく一人では到底習得できないとか、前に聞いたことがある。とにかくスキルを発動させるには魔力が必要であり、それを維持するのにも魔力が必要となる。つまり今のこのスキル「収納」によって格納している状態では常に魔力を消費しているのと同じことであるため、言ってしまえばダンジョンの中にいるときのような状態であるということだ。魔力切れになってしまうことはないとは思うが、早く抜け出したいと思う。
「カイラ、ここって、あの場所だよな?」
「うん」
二人して顔を青くした。今俺たちの目の前には、俺たちがブラックウルフを討伐した名残が残っている場所が広がっている。
「これって、ずっと同じ道を歩かされていたってことか?」
「多分、そうだと思うよ。これ何かのモンスターが周りにいると思う。前に確か本で、森に入ってきた生き物を騙して衰弱しきったところを襲う種類のモンスターがいるとか見たことがあるし」
「なら、今も俺たちの周りに何かのモンスターがいるってことか」
「私もそうだと思って、さっきから注意してたけど、あたりに生き物の気配は感じられないよ」
そうなのだ、スキル「感知」をさっきから発動しているが反応がない。なら一体何なんだこれは。
「しょうがない、緊急事態だから、このあたり一帯を燃やし尽くそう」
「えっ!?本気で言ってるの、蓮?」
「仕方ないだろ、こんな状況だし。このまま歩いていたらいつか動けなくなってしまう。それにほかの生物の反応がないことは感知のスキルを使ったから分かってるし」
「いや、でも、それはやりすぎじゃない?いくら周りに他の生き物がいないからって」
そう言われると、ためらってしまう。別に俺は環境破壊を進んで行うタイプではないし、むしろそういうことには気を付けてしまうタイプだ。ほかの生物がいないから無駄に殺すことにはならないとは言え、さすがに森の中で火を使うのは危険かとも思う。おそらく、そんな規模の魔法を使うのはあと一回が限界で二回は使えない。今日は既に大量の魔力を消費してしまっている。だがどうすればいい。これ以外に何か変化を与える方法が分からない。しばらくしてカイラが話しかけてきた。
「ねえ、蓮、蓮、聞いて!」
考え事をしていたから反応が遅れてしまった。
「今少し考えていたんだけど、蓮も言ってたけど周りに一切の生き物の反応がないっておかしくない?」
「ん?そうか?」
「そうだよ、だって森の中だよ?普通、何かはいるでしょ」
そう言われると確かに、森の中なのに何もいないという状況は不自然だ」
「だから、もしかしたら、何か生物じゃない奴が今のこの状況を作り出してるのかも」
「何かって何?」
「そうだね、例えば植物とかかな」
植物だと?この世界では植物すらも危険な存在となりえるのか。
「カイラ、その仮説が正しい場合は、このあたりを焼き払えばこの状況はどうにかなると思うか?」
「さあ?でも、あんなこと言った手前言いにくいけど、何かしないと変化がないから、いったん蓮が最初言ったように、燃やしてみてもいいかなって思っただけ、いつまでもここにいたら死んじゃうし」
カイラの豹変ぶりには些か驚かされる。生きて帰るためとは言え、自分のこれまでの発言は全て棚に上げて、次々に考えを変えていくその様子には、この世界の状況を体現しているようだ。
「分かった。それじゃあここら一帯を今から焼き尽くすから、カイラは少しこっちに近づいてくれ」
カイラは素直に指示に従い、すぐそばまで駆け寄ってきた。俺はそれを確認次第、魔力を練り上げ、杖に魔力を流し込んだ。そしてすぐに足元には、以前ダンジョンで使った魔法陣の数十倍、大きいものが俺とカイラを中心として現れ、赤紫色に輝いていた。そして杖の先端に小さな魔法陣が現れたのをきっかけに次の瞬間には辺りは火の海に囲まれた。
「カイラ、苦しくないか?」
「うん、大丈夫。それにしても蓮、土で檻を作った時もそうだったけど、こんな規模の魔法を使うことができるんだね。すごいね」
「だけどこれも、カイラがこの杖を見つけてくれたからだよ。杖なしだったらここまで巨大な魔法は使えない」
「そうなんだ、よかったあの時その杖を見つけれて」
カイラは嬉しそうにそう言った。
しばらくした後、足元の魔法陣は地面に溶け込むように見えなくなっていき、それと同時に火力も弱まっていった。この魔法を使用する前は周りに燃え広がって、全ての木々が消滅してしまうと考えていたが、杞憂だった。魔法陣が消えた後、次第に炎の勢いは弱まり、魔法陣の範囲外も僅かに燃えていたが、そのうち鎮火した。そして俺たちの周りには、先ほどまで、ただの樹木だと思っていた木の表面に顔のようなものが浮かび上がっているモンスターのような奴らが炭になって佇んでいた。近寄って触れてみると、ぼろっという音をたてて崩れ、地面に落ちる前に風にとばされ見えなくなってしまった。
「これってほんとに植物なのか?」
あとから近寄ってきたカイラにそう尋ねた。
「うん、前に見た図鑑で植物図鑑に載ってたから植物だと思うよ。森の中に入ってきた生物を他の植物と協力して、森の中から出られないようにして、倒れたところに根を張って栄養を吸い取るって書いてあった、確か」
それを聞いて、それは本当に植物なのかと思った。
「もしかして、植物って動くのか?」
「うん、動くよ。森の中は景色が変わりにくいから、まっすぐ歩いているつもりでも、どんどん道を外れていっているってことがあるらしくて、それを、この木々は自らが動くことで意図的に誘発させるって書いてあった気がする」
当たり前のようにそう告げられて、面食らってしまった。
「とりあえず、もう大丈夫だと思うから早く帰ろ、蓮!」
そう、こともなげに告げ、ギルドに向けて歩き始めたカイラの姿を、しばらく後ろから眺めていた。
「どうしたの、蓮?疲れたの?早く帰ろうよ!」
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