言霊
言霊…言葉に宿ると言われる霊力。正しく使えば善。悪に使えば…
彼氏の車に乗り私は久しぶりのデートを楽しんでいた。
帰り道、職場の駐車場の近くを通ると部長の車を見かけ
今日も休日出勤だなんて体壊さなきゃいいけどな〜
と思いながら家路についた。
休み明け出勤すると突然他部所の部長から
「お前は夜中、遊び歩いて男漁りとはあさましぃ!」
と怒鳴られた。私がびっくりして
「あのどういうことですか?」
と聞くと部長は
「お前は会社の駐車場に車を二晩も止めてたよな、それに男漁りをしていると聞いたぞ恥を知れ!」
と言う。私はわけが分からず
「あの聞いたって誰からですか?」
と聞くと部長はイラッとしながら
「そんなの知ってどうする、危害を加えるつもりか?教えるわけがないだろう」
と言われた。それから暫く私は周りの冷たい視線を浴びることとなった。
何日か過ぎた頃、部長から
「どうした何かあったか?あれか?君が男漁りをしているっていうやつか。南澤くんはそんなことできる訳が無い、あり得んよ」
と言って励ましてくれた。その時ふっと
「部長、この間の休み休日出勤してましたよね。駐車場に車がありましたよね」
と聞くと部長は頷き
「ああ、2日間停めておいたけど」
これだ!
部長と私の車は車種も色もグレードも同じだが一つだけ違うところがあった。
私は部長と一緒に他部所の部長のところに行き
「部長、私が2日間駐車場に車を停めて遊んでいたと言いましたけど、どうやって私だと確認したんですか?」
と聞くと
「あの車は珍しいからな、お前しかいないだろ。それにバックミラーのところに羽の付いたお守りを吊るしていただろ、それで確認したんだ」
私はふっと笑いながら
「羽のお守りですか?」
「そうだ丸くて赤や青で模様があって羽が垂れ下がってるやつだ自分のだろうが!」
と言われ、私は部長と顔を見合わせた。そしておもむろに部長が
「それは俺のだよ」
「は?」
「君は私の車を見て南澤クンのだと誤解してモラハラしたのか!周りの奴らも事実を確認もせずに同調したのか!」
と怒鳴った。他部所の部長も周りの社員も引きつった顔をしている
「この事は委員会にかけることにする、お前たちも同罪だ良いな。行くぞ」
といい部長と私はその場をあとにした。
私は何度も部長にお礼をいった。
「南澤くんのバックミラーには色あせた犬のぬいぐるみを吊るしてるのは知ってたよ。それを見て俺も何か飾ろうと思ったら娘が修学旅行のお土産にお守りをくれてね、嬉しくて吊っておいたんだ」
と恥ずかしそうに部長が言った。そんな部長に
「すいません、また矢面に立たせていまいましたね」
そう言うと
「アイツはえこひいきをするし偉そうで前から気に食わなかったんだ」
といたずらっ子のように笑った。
「それにしても、確か去年も誰かが隠していた結婚をバラしたのは南澤くんだとか言われてたな」
「はい、濡れ衣をかけられまくっています」
「そう言えば、1年前に移動していった高崎くんも色々言われてたなぁ。もしかしたら同じ犯人かもしれないな」
「犯人って…」
高崎さんは優しくて気の利く先輩だった。旦那さんは小さいながらも会社の社長で私も何度かお会いしたことがあった。
しかしある日、部所内の情報を漏らしたとかで移動していった。その後に来たのが高崎さんの同期の川村さんだった。
川村さんは今では部所を取り仕切るお局となっているが、仕事は全て私達に振り分けて手抜き三昧をしている。
耐え兼ねた何人もが部長に直談判をしていた。
部長は腕組みをしながら
「そろそろ…」
と呟いた。
その日の夕方、非常階段から叫び声が聞こえた。私達が慌てて駆けつけると川村さんが真っ青な顔で
「いやぁ~~来ないで〜」
と叫んでいた。何事かと見ていると
「あそこに子供が子供がいるのよ恨めしそうな顔をしてこっちを見ているのよぉ」
指を指す方を見たが何もいない。
「川村さん何もいませんよ」
と男性が声をかけたが
「突き落としただろって、何よ知らないわよ!何なのよ怒鳴らないで」
「川村さん何も聞こえませんよ川村さん」
「うるさい!黙れ!そうよ突き落としたわよ!せっかくムカつく南澤に罪をなすりつけたのに何なのよ」
まわりはザワツキ始めた。
「今のって」
「来ないでぇ~」
そう叫び川村は目を見開き気を失った。
慌てて救急車を呼ぶ人たち、遠巻きの野次馬の中から
「いいざま」
という聞き覚えのある声か聞こえた。
振り返ると同期の椎名さんが去っていく。私は慌てて追いかけ
「いいざまって?」
と聞くと椎名さんはギョッとして私を見てバツが悪そうに
「2年前あの人のせいで流産したの…それと…ごめんなさい」
と言われ私はキョトンとした。
「あなたが結婚をバラしたって話…わたしが言いふらしたからなの」
「え?」
「あのときの私は馬鹿だったわ、川村の口車にのってあなたがバラしたって思い込んで…だから流産したときに目が覚めたの、この女が現況だって。本当にごめんなさい」
と謝られた私は
「いいんだってもう過ぎたことだし、まあ辛かったけど分かってくれる人もいたしね。てか結婚も妊娠も知らなくてゴメンね」
と言う私に彼女は申し訳無さそうに
「あの頃も疑っていたから妊娠の事も同じ部所の何人かにしか言ってなかったの、そんなとき誰かに階段から突き落とされて」
「あの入院って」
「そう、あの時とっさにあなただと思っだけど…」
「私は二泊三日の旅行中だった」
「ええ、部所が違うから後で知って…みんなに訂正して回ったけどもう遅くて」
私はふわっと微笑んで
「それで子供はどうやって?」
「え?」
「川村さんは子供が見えたって、じゃあその子は…」
というと彼女は驚いて
「知らないわ子供なんて」
否定する彼女に私は続けて
「あなたじゃないの?」
というと彼女は首を振りながら
「私は何もしてないわ、あの女が狂ったと思ったから」
「あなたよね」
私は中腰になり彼女の後ろに声をかけた。
彼女は驚いて後ろを見たが誰もいない。目を白黒させている彼女を気にせず
「あなた、あそこにいたのね。あそこで突き落とされたのね」
というと子供は頷いた。すると彼女が
「そうよあの非常階段で…え!」
「そっか、あの日からあの階段で待ってたんだね。お母さんが来てくれて、やっとあそこから離れることができたんだね」
彼女は驚いて私を見た
「何を言ってるの」
「いるの、そこに」
と指差すと彼女はもう一度振り返り訳がわからないという顔をした。
「だからいるのよその子が、寂しくて迎えに来てくれるのをずっと待ってたって」
彼女は突然ポロポロと涙をこぼし
「私、思い出すのが辛くてあの階段にはあれから行ってなかった…ねぇ本当にいるの?…あそこにいたの?ずっと?」
私は彼女を見上げ微笑み
「もうすぐ会えるよって、だから諦めないで忘れないでって言ってる」
と伝えた。彼女はうんうんと頷き
「うん待ってる。ありがとう」
私の手を取りお辞儀をして去っていった。彼女を見送り席に付いた私に部長が
「今度こそ見えたか?」
と言ってきた。私はため息をツキ
「見える理由がないでしょ、もう私を使うのはやめて今度からは自分で言ってあげてくださいね」
と言うと部長は
「こんなオジサンが見えて聞こえるだなんて気持ち悪いだけだろ頼むよ」
「まあ、そうですけど」
「それに今までの誤解を解いてきたのは誰だ?」
と偉そうに言うので
「それは部長の後ろにいる守護霊さんのお陰ですからね!ったく叔母にチクりますよ」
と言うと部長は
「怖い姪っ子だ」
と言い去って行った。
そして私はいつもの日常に戻った。
そうだ、彼女に子供が産まれたらお祝いを持っていこう!
もちろん男の子の服をね