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レストルームは今日も宙を舞う  作者: びたみん
9/29

先輩、最高っす

 シャーーーー!


「クッ…眩しい」

「ハイ、起きて!」


 俺は夢でも見ているのだろうか。

 かわいいメイドさんが俺を起こすためにカーテンを開けてくれた。


「おはよう…いや、ありがとうか?」


 メイドさんはニコリと笑みを向けると、俺の方に顔を近づけてきた。

 いきなりの状況に俺はドキドキする感情を押し殺せない。


「いや、その…ちょっと……」

「はぁ?屋敷の掃除と洗濯…私の仕事ができないからぁ、そこドケって!」


 ドキドキのバイアスがフルスイングして振り切った。


 何となくこの人に逆らってはいけない気がした。

 俺はバッとベッドから飛び起きて直滑降で頭を下げる。


「すみませんでしたぁ!姉御の仕事の邪魔は致しません!!」

「いいのよん~分かれば。朝食が出来てるから食堂に行ってくださいな」

「はい!失礼します!!」


 俺は頭を下げたまま後ろに下がり、扉を音もたてずに出て行った。

 その姿を見ていたメイドはボソリという。


「何あの動き…ふふっ。ん?」


 だがその時に机の上に置かれたある物に目が留まる。

 それはこの世界の常識では考えられない事象。


「なっ!……これは!」


 耳に手を当て、誰かに報告を開始する。

 それが通信機のようなもので、外部とつながっていた。


 “ナンバー001より通達。白は黒。繰り返す、白は…黒!”



 彼女が部屋の掃除をしているころ、俺は長い通路を歩いていた。

 いや、正確には違う。


 迷子になっていた。


「いやーさすが姉御っす…食堂ってどこだよ」


 俺の独り言など響くような広さではなく、幾重にも広がる通路にはビッシリと扉があった。

 一つ一つを開けてもよい。だが既に事故を経験していた。


 つい先ほどの話だが。


 ガチャ…

 不用意に開けた扉の先には『裸体の美女』が居た。


 そういう美味しい事故なら何度でも扉を開けている。

 いや、すまない。

 俺はそういう趣味で言ったのではなく、あまりの出来事に現実逃避していたんだ。



 開けた先には『裸体のオッサン』が姿見でポーズをとっていた。

 チータさんは剣を抜く事もなく、固まったまま目が合ったので扉を閉めた。


 そう、お互いに無かった事にしたのだ。


 だが失敗から学ぶ必要はあるから、不用意に扉を開けることはしない。

 そう思っていたら突然後方の扉が開き、チータさんが物凄い剣幕で走ってくる。


「ぉおぉおおおおおおおおおおお!!」

「まてええええええええぇぇ!!」


 超こえぇ!!

 マテマテマテ…


「チータさん!何も見てない!」

「記憶を消してやるから止まれ!!」


 襟首を掴まれて後ろに引っ張られた。

 超人的な膂力に成す術もなく、俺は後ろに倒れそうになった。


 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!


 凄まじい音と共に扉が開かれ、全ての部屋からメイドと執事が姿を現した。

 チータも驚いたように目を開けている。


 どうやらこれは、非日常へと誘われているようだった。


「チータ様、その手をお放し下さい」

「ハッ!執事如きが偉くなったな…」


 執事は頭を下げてもう一度同じ言葉を口にする。


「チータ様、その手をお放し下さい」

「ッ…!興が殺がれた。飯の用意はできているな?」

「はい。ご賞味ください」

「チッ!」


 チータは俺の事を手放し、舌打ちをすると食堂へと歩いて行った。

 残された俺は執事に礼を述べようと踏み出した。


「あの…」


 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!


 全員が持ち場に帰った。


「何なのこれ?」


 訳が分からなかったが、一つ大事なことは分かった。

 それはチータが食堂に向かっていると言う事実。


 迷子の俺を(いざな)う鳥さんに等しい。

 だが先程までのやり取りを考えると声をかけづらいのだが…


 空気?

 そんな物クソくらえだ!


「チータさん、待ってー!」

「ったく」


 チータは(あゆみ)を止めると、肩をすくめて溜息を吐いた。

 面倒ごとを押し付けられた上司のような感じだった。



 食堂はいくつかのテーブルが置かれていて、誰がどこに席についてもよい様になっていた。

 オーダー式ではなく、バイキング形式で好きに食事ができるのは嬉しい。


 この世界における俺の食事は、著しく偏っていると言ってもいい。

 まともな食事を前にして目を輝かせていたが、それがチータには可笑しく映ったようだった。


「どういう生活をしたら豪華に見えるんだ?パンや卵など当たり前の物だろう」

「地下牢の鋼鉄パンやギルドのビール、そして森の果実だ」

「「……えっ?」」


 二人は意思の疎通が困難と判断し、食事に集中する事にした。


「なぜ貴様は俺と同じ卓につく?」


 何となく流れでチータさんの後をついて行ったので、そのまま同じ卓についてしまった。

 言うなればガラガラの電車で、人の横に座ったようなものだ。


 怪訝な表情を向けられても無理はない。


「すみません。チータさん優しかったので」

「やさし…バッカお前!……はぁ、飯食って顔洗ったら王の間に行くぞ」

「え?あの王様怖いんですが」

「お前が悪い。なんで挑発するような真似をした?」

「パワハラ、ダメ。ゼッタイ」

「なんだそれ。まぁ悪いようにはしない。不敬罪の取り消しもあるだろう」

「当たり前だ」

「なんでその話になると高飛車になるんだ?ククッ…本当に変わった奴だ」


 チータさんとは何となく仲良くなった。

 同じ釜の飯を食らえばと言うが、そういう感覚が出るのはどこの世界でも同じか。


 久々に味わう人のぬくもりに対して感謝の念がわいていた。エビーにも感謝しているが、違う方向で彼には助けられている。


 この世界に来てから不運の連続だったぜ。

 でもそれも今日でオシマイだ。


 食事を終えてチータさんに礼を述べると、片手をあげて「後でな」と漢気溢れる背中を見せてくれた。


 俺は感謝して頭を下げると、そのまま大声で告げた。


「あの…!」

「んっ?」


 大事なことなのでちゃんと言わないといけない。

 そうしないと…きっと後悔するから!


「部屋はどっちですか!」

「「………」」


「ったく仕方ねぇなぁ」

「先輩、最高っす!」

「誰が先輩だ!」

「イタタッ!チータ痛いって!!」


 そう言いながらチータは肩に手を回し、頭をグリグリしてきた。

 最後まで面倒くさいという顔をしていたが、気持ちの面では満更でもなさそうだった。




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